上 下
29 / 48

29 閣下と俺

しおりを挟む

 ノワールと楽しく過ごす筈だった長期休暇は、どす黒い笑顔を浮かべたうちの執事がノワールを拉致していったお陰でおじゃんになった。

 笑ってるのに目がトラウマになるくらい殺意に満ちてるってなんなんだよー。こえーよ、執事。


 楽しみにしていたノワールの月華の舞を見ることも、楽しいパジャマパーティーも全てが出来なかった。

 執事め、いくらイケメン渋おじだからってノワールを取ったら許さないんだからな。


 俺の練習はまあなんとか…。まだ、あの鈴を全く制御出来ていないがな、ははは…。

 


 長期休暇の最終日にようやく寝室から出てきた父はトレードマークの眉間の皺が消えて、肌つやが良い。

 元々若々しい父がさらにキラキラしていてもう眩しい。母はどうした。


 あれ?俺ってば、父の事なんて呼んでいたっけ。お父様?父上?パパ?えーい、面倒くさい。ノワールは自分の父親を父上って呼んでいたしそれでいいや。


「父上、ノワールを返して下さい。」

 びっくりした顔をする父。

 え?なんか間違えた?パパが正解だったか?

「アレックス、私を父上と、父上と呼んでくれたんだね。」

 俺を抱き締めて泣き始めた。

 はい?

「アレックス、君は私の事をいつも閣下と。」

 あ、そうか。そういえば俺この人の事、閣下って呼んでたわ。小さな頃はお父様って呼んでいたんだけどな。


 この人に抱っこも肩車もしてもらった記憶はない。今考えると、俺の性別がバレる事を怖れた母が父にも俺を触れさせなかったからなんだろうけど…。


 でもある日、うちにたくさんの子供達が遊びに来た。その時、この人を閣下と呼んだ子供達が順番に抱き上げて貰っているのを見て、羨ましくてみんなの真似をして列に並んで閣下と呼んだんだ。

 結局、俺だけは抱き上げては貰えなかったけど、それ以来閣下って呼んでいた。

 父だと思うから、構って貰えなくて悲しいんだ。お偉い閣下なら、仕方ないって思えるから…。

 だから、それ以来ずっと閣下って呼んでいた。


 父の大きな腕に抱き締められて、俺の心の中で膝を抱えてうずくまる小さなアレックスが昇華した気がした。

 ずっと淋しかったんだよねアレックス、そして父も…。


「アレックス、私は君が男の子でも、女の子でもどちらでも愛している。産まれてきてくれてありがとう。」

 額にキスが落とされる。ずっと男でないといけないと、中途半端だから愛されないんだと責め続けてきた呪縛から解き放たれた気がした。


「父上。」

 泣きながら抱きついた。


「アレックス。これからは親子三人水入らずで仲良く過ごそうね。」

 あれ?なんか忘れてないか?感動のシーンに危うく流されかけたが、このクソ親父。


「父上、早くノワールを返して下さい。」

 ようやく俺の元にげっそり疲れはてたノワールが帰ってきた。

 父よ、いじけるのは止めてください。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブス眼鏡と呼ばれても王太子に恋してる~私が本物の聖女なのに魔王の仕返しが怖いので、目立たないようにしているつもりです

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
初めてなろう恋愛日間ランキングに載りました。学園に入学したエレはブス眼鏡と陰で呼ばれているほど、分厚い地味な眼鏡をしていた。エレとしては真面目なメガネっ娘を演じているつもりが、心の声が時たま漏れて、友人たちには呆れられている。実はエレは7歳の時に魔王を退治したのだが、魔王の復讐を畏れて祖母からもらった認識阻害眼鏡をかけているのだ。できるだけ目立ちたくないエレだが、やることなすこと目立ってしまって・・・・。そんな彼女だが、密かに心を寄せているのが、なんと王太子殿下なのだ。昔、人買いに売られそうになったところを王太子に助けてもらって、それ以来王太子命なのだ。 その王太子が心を寄せているのもまた、昔魔王に襲われたところを助けてもらった女の子だった。 二人の想いにニセ聖女や王女、悪役令嬢がからんで話は進んでいきます。 そんな所に魔王の影が見え隠れして、エレは果たして最後までニセ聖女の影に隠れられるのか? 魔王はどうなる? エレと王太子の恋の行方は? ハッピーエンド目指して頑張ります。 第12回ネット小説大賞一次通過 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

ざまぁされる姉をやめようと頑張った結果、なぜか勇者(義弟)に愛されています

risashy
恋愛
元孤児の義理の弟キリアンを虐げて、最終的にざまぁされちゃう姉に転生したことに気付いたレイラ。 キリアンはやがて勇者になり、世界を救う。 その未来は変えずに、ざまぁだけは避けたいとレイラは奮闘するが…… この作品は小説家になろうにも掲載しています。

この度、変態騎士の妻になりました

cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。 そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。 ※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

処理中です...