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蒼の皇国 編
諸悪の根源
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「聞いての通りだ、白龍皇。お前に真意を問いたい」
骸骨ーーリョウタは血塗られた聖剣ブルトガングを白龍皇へと向ける。
この世界へと転移した際に幾つかの能力と共に与えられた守護の剣。
最愛の家族を殺害された事で復讐の剣となってしまった悲しき聖剣。
未だに家族が殺された時の真実が分かっていない。その手掛かりを知るのは目の前にいる白龍皇だ。
「この状況では仕方あるまい。しかし、対話をした所で何一つ解決はせんとワシは思うが?」
「お前の口から事実を聞きたいだけだ」
「承知した」
これが最初で最後のチャンスだろう。
リョウタは真の復讐相手を思い浮かべながら冷静に白龍皇の言葉に耳を傾けた。
約1000年前。その当時、西の大陸で栄えた大国ーーニルフ王国で宰相をしていた白龍皇は語る。
「あの時のことはよく覚えておる。おまえさんが封印されていた魔獣ヒュドラの討伐に出立してすぐだった」
地脈を喰らう魔獣ヒュドラ。猛毒を持っている事も注意すべき点ではあるが、最も厄介なのはヒュドラは地脈と魔力回路を繋げることにより、擬似的に不死の生物と化している点だ。魔力回路は大陸全土に広げられていて全ての回路を切断することは大陸を滅ぼさなければならず事実上不可能だった。それ故にヒュドラ本体を封印することで過去の人間たちは対象をしていた。
そのヒュドラの封印が何者かにより破壊され復活してしまい、再度封印を行う為にリョウタが軍を率いて討伐に向かった。
その翌日から王都内で異変が起き始めた。
「謎の疫病が蔓延し始めたのだ」
「疫病?」
「やはり、その辺りは知らぬか」
「お前たちが闇に葬ったお陰でな」
「知らぬ方がお前さんの為なんじゃがな」
「良いから話せ」
疫病は当初、疫病として認識されていなかった。初期症状は軽度の微熱。感染者も殆どおらず、誰もが風邪だと思い込んでいた。
しかし、3日後から状況は一変し始めた。
熱症状を訴える者が急増し、微熱だった者は症状が悪化。高熱、嘔吐、意識障害、味覚障害、感覚障害、幻覚、吐血などと症状は多岐に渡った。
解熱剤や抗生物質も効果は殆どなく、時間が経つ程に病人は増え、死者も出るようになっていった。
7日目。感染者数は1万を突破し、死者数は100人を超えた。年齢性別に差はなかった。
「その死者の中に俺の家族がいたのか?」
リョウタには妻のリィーヤ、マユとアイシャという双子の娘がいた。
ヒュドラの再封印から帰還したリョウタを待っていたのは国民からの憎悪の目と声と王国からの死刑宣告だった。
帰還時点で家族は既に処刑されており、その遺体は残っていないと言われた。
もし家族が疫病に感染し死亡したのであれば速やかな火葬により、死体からの病原菌の感染を防ぐ措置として理解できる。
「……いや、まだおらん」
「まだ?」
「疫病は10日目を境に消え、患者達も瞬く間に回復していった」
不可解ではあるが、喜ぶべきはず。なのに白龍皇は視線を伏せているのにリョウタは嫌な結末を察した。
「疫病が消えたのは、お前さんの娘さんアイシャ=アヅチの死亡が切っ掛けじゃった。初めから存在していなかったかの様に跡形もなく、疫病は消え、患者達は回復していった」
「…………」
リョウタは言葉を失い、剥き出しの奥歯を噛み締めるしかなかった。
原因不明のあらゆる薬が効かない病原体が蔓延する中、忽然とある切っ掛けで病原体が消失すれば……後の状況は容易に想像が出来る。
その一点にだけ視線は集中し、他の可能性など探ることがされなくなる。
批判。
非難。
魔女狩りのような状態になったのだろう。
「あの異様な状況もエレナ姫が亡くなってしまったのが決定打であろうな」
「っ!?」
第一王女エレナはアイシャの3つ上の少女だ。国の英雄として讃えられていた関係もあり、リョウタは王宮に出入りする事も多く、年が近いことから娘達はよく王女の遊び相手になっていた。
アイシャの死。
病原体の消滅。
王族との接点。
文字情報として並べるだけなら言い逃れは出来ないほどに上手く材料が揃ってしまっている。
「最終的にあれは病原体ではなく、アヅチ家が仕組んだ王族暗殺の呪うではないかと言われ始めた」
「愚かな……」
「状況が状況であった。誰もが何かに全てをなすり付けて安堵したい気持ちで一杯だったんじゃよ。原因の分からない病原体よりも何者かによる呪いだと思った方が楽であったのだろう。その結果がーー」
妻と娘の処刑。
その後に帰還したリョウタの処刑。
全てをアヅチ家に背負わせて考える事を辞めてしまったのだ。
「ワシはあの時、自身の力に初めて無力を感じた。どんな相手が来ようとも人間の1人や2人を匿う事や逃す事は容易じゃと思っていたが……億を超える民意の暴力の前には何も出来んかった」
ただ見ている事のみ。
白龍皇が正体を明かし、王国と敵対していれば別の結末もあったかもしれないが、竜種が人間の争いに介入したとなれば想像が出来ないほどの厄介な事態になるのは明白だ。
なまじ、力があるからこその絶望だったのだろう。
「その後の事はお前さんの知ってる通りじゃ」
ヒュドラを再封印をしたリョウタは捕らえられ、その翌日に処刑。何の説明も弁明もさせて貰えることもなく……数億もの国民からの憎悪の声の中で。
処刑されたリョウタは戸惑いと怒りを募らせ、気付けばリッチとして復活。家族を殺された、その怒りで周りが見えなくなり、王国に生きる全ての人間を虐殺した。
「ワシからも一つ質問がある」
「何だ?」
「アンデットというのは何らかの呪いや魔術的契約によって生まれ出るものじゃ。お前さんはどうやってリッチへと昇華したにかが分からん」
それに関してはリョウタも初めは気にしていなかった。セツナと出会い、魔術に詳しいタリアと知り合ったことが切っ掛けで自身がリッチへと至った理由を考えるようになった。
「恐らくは何かの契約によるものだと思う」
「思う?」
「俺自身は何者かの契約に縛られてはいない。だが、俺は処刑される時、誰かの声を聞いた。ーー力が欲しいか、というな。それで気づいたらこの身体だった」
「つまりは契約者不在でありながらアンデットの身体が維持出来ていると」
「この身体はどうやら大気の魔力を吸収して糧としている。故に不死を体言していると言っていい」
「ワシの知る限りではあり得ない状態だが……その契約者がワシが想像する者だったとすれば道理は通る」
リョウタは確信している。
1000年の時の中で立てられた確固たる推測。
答えはマッチポンプ。
「ニルフ王国に蔓延した謎の疫病と俺をリッチ化させたのは同じ人物だ」
「……やはり、か」
「驚かないのだな」
「この様な場を作られた時点で予想は出来ておった。それ以上にお前さんが……いや、お前さん達が思いの外、冷静であることが恐ろしいくらいじゃよ。つまるところは、それぞれ事件の当事者である我らに最終確認をしたいと言う訳か」
リョウタ、セツナ、タリア、エイジの4人には共通点がある。
それは復讐の最終目標ーー諸悪の根源たる存在が同じであることだ。
「俺たちの最終目的はーー創造神カノンの討伐だ」
骸骨ーーリョウタは血塗られた聖剣ブルトガングを白龍皇へと向ける。
この世界へと転移した際に幾つかの能力と共に与えられた守護の剣。
最愛の家族を殺害された事で復讐の剣となってしまった悲しき聖剣。
未だに家族が殺された時の真実が分かっていない。その手掛かりを知るのは目の前にいる白龍皇だ。
「この状況では仕方あるまい。しかし、対話をした所で何一つ解決はせんとワシは思うが?」
「お前の口から事実を聞きたいだけだ」
「承知した」
これが最初で最後のチャンスだろう。
リョウタは真の復讐相手を思い浮かべながら冷静に白龍皇の言葉に耳を傾けた。
約1000年前。その当時、西の大陸で栄えた大国ーーニルフ王国で宰相をしていた白龍皇は語る。
「あの時のことはよく覚えておる。おまえさんが封印されていた魔獣ヒュドラの討伐に出立してすぐだった」
地脈を喰らう魔獣ヒュドラ。猛毒を持っている事も注意すべき点ではあるが、最も厄介なのはヒュドラは地脈と魔力回路を繋げることにより、擬似的に不死の生物と化している点だ。魔力回路は大陸全土に広げられていて全ての回路を切断することは大陸を滅ぼさなければならず事実上不可能だった。それ故にヒュドラ本体を封印することで過去の人間たちは対象をしていた。
そのヒュドラの封印が何者かにより破壊され復活してしまい、再度封印を行う為にリョウタが軍を率いて討伐に向かった。
その翌日から王都内で異変が起き始めた。
「謎の疫病が蔓延し始めたのだ」
「疫病?」
「やはり、その辺りは知らぬか」
「お前たちが闇に葬ったお陰でな」
「知らぬ方がお前さんの為なんじゃがな」
「良いから話せ」
疫病は当初、疫病として認識されていなかった。初期症状は軽度の微熱。感染者も殆どおらず、誰もが風邪だと思い込んでいた。
しかし、3日後から状況は一変し始めた。
熱症状を訴える者が急増し、微熱だった者は症状が悪化。高熱、嘔吐、意識障害、味覚障害、感覚障害、幻覚、吐血などと症状は多岐に渡った。
解熱剤や抗生物質も効果は殆どなく、時間が経つ程に病人は増え、死者も出るようになっていった。
7日目。感染者数は1万を突破し、死者数は100人を超えた。年齢性別に差はなかった。
「その死者の中に俺の家族がいたのか?」
リョウタには妻のリィーヤ、マユとアイシャという双子の娘がいた。
ヒュドラの再封印から帰還したリョウタを待っていたのは国民からの憎悪の目と声と王国からの死刑宣告だった。
帰還時点で家族は既に処刑されており、その遺体は残っていないと言われた。
もし家族が疫病に感染し死亡したのであれば速やかな火葬により、死体からの病原菌の感染を防ぐ措置として理解できる。
「……いや、まだおらん」
「まだ?」
「疫病は10日目を境に消え、患者達も瞬く間に回復していった」
不可解ではあるが、喜ぶべきはず。なのに白龍皇は視線を伏せているのにリョウタは嫌な結末を察した。
「疫病が消えたのは、お前さんの娘さんアイシャ=アヅチの死亡が切っ掛けじゃった。初めから存在していなかったかの様に跡形もなく、疫病は消え、患者達は回復していった」
「…………」
リョウタは言葉を失い、剥き出しの奥歯を噛み締めるしかなかった。
原因不明のあらゆる薬が効かない病原体が蔓延する中、忽然とある切っ掛けで病原体が消失すれば……後の状況は容易に想像が出来る。
その一点にだけ視線は集中し、他の可能性など探ることがされなくなる。
批判。
非難。
魔女狩りのような状態になったのだろう。
「あの異様な状況もエレナ姫が亡くなってしまったのが決定打であろうな」
「っ!?」
第一王女エレナはアイシャの3つ上の少女だ。国の英雄として讃えられていた関係もあり、リョウタは王宮に出入りする事も多く、年が近いことから娘達はよく王女の遊び相手になっていた。
アイシャの死。
病原体の消滅。
王族との接点。
文字情報として並べるだけなら言い逃れは出来ないほどに上手く材料が揃ってしまっている。
「最終的にあれは病原体ではなく、アヅチ家が仕組んだ王族暗殺の呪うではないかと言われ始めた」
「愚かな……」
「状況が状況であった。誰もが何かに全てをなすり付けて安堵したい気持ちで一杯だったんじゃよ。原因の分からない病原体よりも何者かによる呪いだと思った方が楽であったのだろう。その結果がーー」
妻と娘の処刑。
その後に帰還したリョウタの処刑。
全てをアヅチ家に背負わせて考える事を辞めてしまったのだ。
「ワシはあの時、自身の力に初めて無力を感じた。どんな相手が来ようとも人間の1人や2人を匿う事や逃す事は容易じゃと思っていたが……億を超える民意の暴力の前には何も出来んかった」
ただ見ている事のみ。
白龍皇が正体を明かし、王国と敵対していれば別の結末もあったかもしれないが、竜種が人間の争いに介入したとなれば想像が出来ないほどの厄介な事態になるのは明白だ。
なまじ、力があるからこその絶望だったのだろう。
「その後の事はお前さんの知ってる通りじゃ」
ヒュドラを再封印をしたリョウタは捕らえられ、その翌日に処刑。何の説明も弁明もさせて貰えることもなく……数億もの国民からの憎悪の声の中で。
処刑されたリョウタは戸惑いと怒りを募らせ、気付けばリッチとして復活。家族を殺された、その怒りで周りが見えなくなり、王国に生きる全ての人間を虐殺した。
「ワシからも一つ質問がある」
「何だ?」
「アンデットというのは何らかの呪いや魔術的契約によって生まれ出るものじゃ。お前さんはどうやってリッチへと昇華したにかが分からん」
それに関してはリョウタも初めは気にしていなかった。セツナと出会い、魔術に詳しいタリアと知り合ったことが切っ掛けで自身がリッチへと至った理由を考えるようになった。
「恐らくは何かの契約によるものだと思う」
「思う?」
「俺自身は何者かの契約に縛られてはいない。だが、俺は処刑される時、誰かの声を聞いた。ーー力が欲しいか、というな。それで気づいたらこの身体だった」
「つまりは契約者不在でありながらアンデットの身体が維持出来ていると」
「この身体はどうやら大気の魔力を吸収して糧としている。故に不死を体言していると言っていい」
「ワシの知る限りではあり得ない状態だが……その契約者がワシが想像する者だったとすれば道理は通る」
リョウタは確信している。
1000年の時の中で立てられた確固たる推測。
答えはマッチポンプ。
「ニルフ王国に蔓延した謎の疫病と俺をリッチ化させたのは同じ人物だ」
「……やはり、か」
「驚かないのだな」
「この様な場を作られた時点で予想は出来ておった。それ以上にお前さんが……いや、お前さん達が思いの外、冷静であることが恐ろしいくらいじゃよ。つまるところは、それぞれ事件の当事者である我らに最終確認をしたいと言う訳か」
リョウタ、セツナ、タリア、エイジの4人には共通点がある。
それは復讐の最終目標ーー諸悪の根源たる存在が同じであることだ。
「俺たちの最終目的はーー創造神カノンの討伐だ」
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