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蒼の皇国 編
これからの話②
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骸骨とマッチョ男が去った後も話し合いは続く。
アオは鬱陶しそうな目をしてタリアを睨んだ。
「お前は帰らないの?」
「私はまだ聞きたい事がありますので。お構いなく」
「邪魔だから帰れって言ってる」
「あらあら、そんなにこれから話す内容は聞かれたくないのでしょうか?」
「別に」
「なら、好きにさせて貰うわね」
タリアが空間を裂いて、その隙間からティーセットを取り出し、一人ティータイムを始めた。
濃い琥珀色の液体――恐らくは紅茶と付け合わせはスコーン&クッキーだ。
普通に美味しそう。少しご相伴に預かりたい所ではあるが、無駄口を開くと殴られそうなので辞めておこう。
……そう言えばタリアって人も転移者なんだっけか?
絹のような艶やかな長い黒髪に暗い赤色の瞳が特徴的な女性。顔立ちや雰囲気的に日本人を思わせるのは気のせいだろうか。
コウイチがそんなことを考えていると、不意にタリアと目が合った。
「君、コウイチ君だっけ? 私と同じ転移者なんだってね」
「えっと……」
コウイチはアイリスを見て、話していいか伺いを立ててから口を開いた。
「鐵光一です」
メモ帳に書いて見せる。
久しぶりに本名を書いて懐かしさを覚えた。
「クロガネ君ね。なかなか難しい字を書くんだね」
「漢字分かるんですか?」
「そりゃ私も日本人だからね。君もそうでしょ?」
「?」
「どうかしました?」
確か、タリアは数千年前にこっちの世界に渡り来たはずだ。日本の建国は1966年だったはず。あれ? それは建国記念日の制定した年だったっけか? まあいいか。その前から日本という名前自体はあった気もしなくはないし。
それに日本が何年に誕生したかというのは、今はどうでもいい。
「えーっと、タリアさんって何時の時代から来たんですか?」
「何時からって……ああ、そういう事ね。昔の事だからはっきりとは覚えてないんだけど……ノストラの後だったはずだから、2001年だったと思うわ」
「え?」
「その反応は転移者、転生者あるあるね」
「それってどういう意味なんですか?」
「こっちに渡って来てる人って私みたいに過去に飛ばされるパターンがあるのよ。私は今から約1900年くらい前に飛ばされた感じ。何が条件かは分からないんだけどね。因みに君は?」
「俺は2019年です」
「ふむふむ。あの子が16年で……そんなに離れてないんだね」
「じゃあ、俺も過去に飛ばされてるかもしれないってこと?」
「さあ? それは分からないわ」
それっきりタリアは黙り込みメモを取り出して会話の内容を書き記しながら真剣な表情で唸り始めた。
ふとコウイチはタリアにちょっとした疑問を投げかけた。
「タリアさん、日本人なんですよね?」
「ん? そうですよ?」
「タリア=マーガレットって偽名ですよね?」
「…………」
勘のいいガキは嫌いだよ、とタリアは何処かで聞いたようなセリフを小声で吐き捨てた。
「日本人の名前じゃないっすよね?」
「………こ」
「こ?」
「田宮花子! 自分の名前が嫌だったから、こっちの世界に来てから名前を変えたのよ! 何か文句ありますか!?」
「いえ、文句ないです。トイレの花子さん」
「花子って呼ばないでください! トイレも付けない!?」
タリアとのやり取りが一段落して話し合いは仕切り直しとなった。
それぞれ自分の好きなものを持ち寄っておやつを食べながら再開する。
話し合いはタマモ達を交えて本格的に難しい内容になってきたので、コウイチは余計な口を挟まないように静かにすることにした。
アオから貰ったプリン美味い。
「私たちはアヴァロンに干渉するつもりはない」
「そしたらウチらは、これまで通りでええんか?」
「それで構わない。ただ、幾つかの要求はある」
「というと?」
「私たちの目的にはコウイチが必要。コウイチにはアヴァロンが必要。コウイチは私の所有物。だから、私がアヴァロンに滞在することを黙認すること」
「別にアオはいなくていいよ? 私が傍にいるもん」
「アイリスは黙ってる」
「……はい」
余計な口を挟んだアイリスはアオにギロリと睨まれ、蛇に睨まれた蛙のようにコウイチの胸の中で小さくなった。
その後、タマモ達とアオ達の間で更に幾つかの取り決めが成された後、あっさりと解散となった。
タリアは両者の話を見届けるだけで一切、口出しをすることは無かった。それはまるで、その話には最初から興味がない風にも思えた。
解散となった後、コウイチは一人だけ悶々としていた。
誰一人としてタマモがあのような姿になってしまった経緯を教えてくれなかったのだ。
あれだけ摩訶不思議な事態なのだから説明があると期待していただけに納得がいかない。
「マジで皆、不親切過ぎない?」
==================================
その夜。
アヴァロン新生を祝う酒盛りが自宅にて強制開催される中、コウイチは色々とあって疲れたので先に休もうと部屋に戻っていた。気を使ってくれたのかアイリスやアオもおらず、久しぶりの完全な一人きり。
ただ、疲れているものの眠れる気がしなかったので、コウイチは自室の窓から広がるテラスで月見酒と洒落込んでいた。レナーテ辺りにバレたら文句を言われそうで怖い。
飲み会の席でタマモに関して幾つか教えて貰った。
正直、情報量が多すぎて整理が追いつかない。
タマモに関して言えば、レナーテの毒によって死と再生が行われて新たな上位存在へと進化を果たしたそうだ。アイリスのような精霊的存在ではなく、レナーテのような超生物的存在。限定的な概念領域存在だが、幼女の今の姿は衰弱している状態なのだそうだ。
当面、療養が必要とのこと。
しかし、今はそんな事よりも同郷の存在が気になっていた。
「過去、か」
思い掛けない事実にコウイチは戸惑いを隠せなかった。
元の世界とどれくらいの誤差があるのだろうか?
元の世界のことなんて考えた事も無かった。
「やあやあ、悩める青少年君。隣いいかしら?」
声がした方向に首を向けると大きなとんがり帽子を被った魔女らしい風貌をしたタリアが杖を片手に立っていた。
「? タリアさん、まだいたんですか?」
「……君、割と酷いよね」
タリアが半目になって肩を竦める。
同郷の存在とは言え、現状は敵の部類に入るのだから丁寧に扱うのも面倒くさい。
「まあ、いいけどさ。それにしても君って、あの中で平然してるなんて……本当に人間?」
「あの中って?」
「あのさ……私も人の事言えないけどさ、あの化物連中に囲まれて平然としてられるなんて普通じゃないからね? 普通なら卒倒して気を失うどころか心臓麻痺で死んでも不思議じゃないんだから」
「俺にとっては普通みたいな感じだし?」
「そういうと思った。いいよいいよ、別に」
「それよりタリアさん、何か用ですか?」
「帰る前にちょっと話したいなと思って。だって、久しぶりの同じ世界の出身者なんだから、少しくらい付き合いなさいよ」
思い掛けない申し出にコウイチは二つ返事で首を縦に振った。
タリアがコウイチの隣に並んで座る。すると、何処からかフラスコのような瓶を取り出してコウイチの前に置いた。
「私特製のウイスキー。一杯いかが?」
「是非!」
タリア特製ウイスキーを片手に元居た世界の話で盛り上がる。と言っても、2001年と言えばコウイチは生まれたばかりだ。時事ネタなんてものは通じないので故郷の話なんかを交わした。
不意にタリアが本題と言わんばかりにコウイチに訊く。
「ねえ、コウイチ君は元の世界に帰りたいと思わないの?」
「元の世界ですか……正直、こっちの世界に来てからはずっとバタバタしてて考えた事もなかったですね」
「来たばっかりの頃は皆同じだよ。今はどう。ちょっと余裕とか出て来て色々と考えられるようになってきたんじゃない?」
「そう、ですね……」
川に流されていた子犬(後のハク)を助けようとして溺れ死んで始まった異世界での第二の人生。
大学二年で二十歳の年。
目的もなく何となく周りが進学するからという理由で行った大学。
彼女も生まれてこの方いない。
家族は両親と妹が一人。
仲が悪い訳ではなく普通。
どうしてるんだろうな。
「あ、でも、過去なんですよね、今って」
元の世界に戻れたとしてもコウイチは生まれていない時代である可能性もある。
「んー、正確には過去って表現は間違ってる可能性もあるんだけどね」
「うん?」
「私は今日まで元の世界に帰る為に色んな研究を続けて来たんだけど、その過程で面白い過程を導き出したんです」
この世界では転生者はそれほど珍しくはない。その一方で転移者は非常に珍しく、更に共通してEXを冠する特別なスキルを所持している。
コウイチが晶石鍛冶EX、タリアが魔法製作EX、リョウタが収束EX、そしてもう一人EXスキルを持つ転移者の存在を入れて4名が確認されており、噂によれば他の転移者もEXスキルを所持していたという噂があるらしい。
「症例は少ないけれど、私が2001年で約1900年前、リョウタが2014年で約500年、2015年の転移者が居たって噂があって約400年、私の友人が2016年で約300年、そこから300年後の去年に君が転移してきて2019年。他にも確証はないけど、それっぽい情報があるんだけど眉唾物なものばかりだから省くわ。ここまでで何か気づかない?」
「……数学は苦手で」
「算数なんだけど……。つまりね、この世界にEXスキル持ちの転移者が現れた年とその人が飛ばされた年を比較すると1年で100年縮まって来てるの」
2016年から毎年1人転移者がいたと過程すると……その誤差は、
「誤差0?」
「もしくは限りなく0に近い状態、と私は過程してる。だから、今なら時間軸に大きな違いなく元の世界に帰れるんじゃないかと思ってるの」
「なるほど。……そもそも何でタリアさんたちは過去に飛ばされてたんでしょうか?」
「分かってたら苦労しないわ」
「ですよねー」
「まあ、そんな感じだからさ。私は元の世界に為の方法探しつつ同士も集めてるのよ」
「あの骸骨の人も?」
「ああ、リョウタは帰る気ないから。あいつはこの世界の人類抹殺だけが生き甲斐だからね」
「…………」
「長く生きてると色々とあるのよ」
タリアは立ち上がり、杖を宙に浮かせるとその上に腰掛けた。
「今日はこわーい人達が沢山いるから大人しく退散するわ。もし、元の世界に帰りたかったらこの栞で連絡頂戴ね」
ひらりとコウイチの膝の上に一枚の栞が舞い落ちる。
じゃあね、と言い残してタリアは月夜の闇に消えていった。
コウイチは栞を見つめながら思う。
……元の世界か。
考えることがまた一つ増えたコウイチであった。
アオは鬱陶しそうな目をしてタリアを睨んだ。
「お前は帰らないの?」
「私はまだ聞きたい事がありますので。お構いなく」
「邪魔だから帰れって言ってる」
「あらあら、そんなにこれから話す内容は聞かれたくないのでしょうか?」
「別に」
「なら、好きにさせて貰うわね」
タリアが空間を裂いて、その隙間からティーセットを取り出し、一人ティータイムを始めた。
濃い琥珀色の液体――恐らくは紅茶と付け合わせはスコーン&クッキーだ。
普通に美味しそう。少しご相伴に預かりたい所ではあるが、無駄口を開くと殴られそうなので辞めておこう。
……そう言えばタリアって人も転移者なんだっけか?
絹のような艶やかな長い黒髪に暗い赤色の瞳が特徴的な女性。顔立ちや雰囲気的に日本人を思わせるのは気のせいだろうか。
コウイチがそんなことを考えていると、不意にタリアと目が合った。
「君、コウイチ君だっけ? 私と同じ転移者なんだってね」
「えっと……」
コウイチはアイリスを見て、話していいか伺いを立ててから口を開いた。
「鐵光一です」
メモ帳に書いて見せる。
久しぶりに本名を書いて懐かしさを覚えた。
「クロガネ君ね。なかなか難しい字を書くんだね」
「漢字分かるんですか?」
「そりゃ私も日本人だからね。君もそうでしょ?」
「?」
「どうかしました?」
確か、タリアは数千年前にこっちの世界に渡り来たはずだ。日本の建国は1966年だったはず。あれ? それは建国記念日の制定した年だったっけか? まあいいか。その前から日本という名前自体はあった気もしなくはないし。
それに日本が何年に誕生したかというのは、今はどうでもいい。
「えーっと、タリアさんって何時の時代から来たんですか?」
「何時からって……ああ、そういう事ね。昔の事だからはっきりとは覚えてないんだけど……ノストラの後だったはずだから、2001年だったと思うわ」
「え?」
「その反応は転移者、転生者あるあるね」
「それってどういう意味なんですか?」
「こっちに渡って来てる人って私みたいに過去に飛ばされるパターンがあるのよ。私は今から約1900年くらい前に飛ばされた感じ。何が条件かは分からないんだけどね。因みに君は?」
「俺は2019年です」
「ふむふむ。あの子が16年で……そんなに離れてないんだね」
「じゃあ、俺も過去に飛ばされてるかもしれないってこと?」
「さあ? それは分からないわ」
それっきりタリアは黙り込みメモを取り出して会話の内容を書き記しながら真剣な表情で唸り始めた。
ふとコウイチはタリアにちょっとした疑問を投げかけた。
「タリアさん、日本人なんですよね?」
「ん? そうですよ?」
「タリア=マーガレットって偽名ですよね?」
「…………」
勘のいいガキは嫌いだよ、とタリアは何処かで聞いたようなセリフを小声で吐き捨てた。
「日本人の名前じゃないっすよね?」
「………こ」
「こ?」
「田宮花子! 自分の名前が嫌だったから、こっちの世界に来てから名前を変えたのよ! 何か文句ありますか!?」
「いえ、文句ないです。トイレの花子さん」
「花子って呼ばないでください! トイレも付けない!?」
タリアとのやり取りが一段落して話し合いは仕切り直しとなった。
それぞれ自分の好きなものを持ち寄っておやつを食べながら再開する。
話し合いはタマモ達を交えて本格的に難しい内容になってきたので、コウイチは余計な口を挟まないように静かにすることにした。
アオから貰ったプリン美味い。
「私たちはアヴァロンに干渉するつもりはない」
「そしたらウチらは、これまで通りでええんか?」
「それで構わない。ただ、幾つかの要求はある」
「というと?」
「私たちの目的にはコウイチが必要。コウイチにはアヴァロンが必要。コウイチは私の所有物。だから、私がアヴァロンに滞在することを黙認すること」
「別にアオはいなくていいよ? 私が傍にいるもん」
「アイリスは黙ってる」
「……はい」
余計な口を挟んだアイリスはアオにギロリと睨まれ、蛇に睨まれた蛙のようにコウイチの胸の中で小さくなった。
その後、タマモ達とアオ達の間で更に幾つかの取り決めが成された後、あっさりと解散となった。
タリアは両者の話を見届けるだけで一切、口出しをすることは無かった。それはまるで、その話には最初から興味がない風にも思えた。
解散となった後、コウイチは一人だけ悶々としていた。
誰一人としてタマモがあのような姿になってしまった経緯を教えてくれなかったのだ。
あれだけ摩訶不思議な事態なのだから説明があると期待していただけに納得がいかない。
「マジで皆、不親切過ぎない?」
==================================
その夜。
アヴァロン新生を祝う酒盛りが自宅にて強制開催される中、コウイチは色々とあって疲れたので先に休もうと部屋に戻っていた。気を使ってくれたのかアイリスやアオもおらず、久しぶりの完全な一人きり。
ただ、疲れているものの眠れる気がしなかったので、コウイチは自室の窓から広がるテラスで月見酒と洒落込んでいた。レナーテ辺りにバレたら文句を言われそうで怖い。
飲み会の席でタマモに関して幾つか教えて貰った。
正直、情報量が多すぎて整理が追いつかない。
タマモに関して言えば、レナーテの毒によって死と再生が行われて新たな上位存在へと進化を果たしたそうだ。アイリスのような精霊的存在ではなく、レナーテのような超生物的存在。限定的な概念領域存在だが、幼女の今の姿は衰弱している状態なのだそうだ。
当面、療養が必要とのこと。
しかし、今はそんな事よりも同郷の存在が気になっていた。
「過去、か」
思い掛けない事実にコウイチは戸惑いを隠せなかった。
元の世界とどれくらいの誤差があるのだろうか?
元の世界のことなんて考えた事も無かった。
「やあやあ、悩める青少年君。隣いいかしら?」
声がした方向に首を向けると大きなとんがり帽子を被った魔女らしい風貌をしたタリアが杖を片手に立っていた。
「? タリアさん、まだいたんですか?」
「……君、割と酷いよね」
タリアが半目になって肩を竦める。
同郷の存在とは言え、現状は敵の部類に入るのだから丁寧に扱うのも面倒くさい。
「まあ、いいけどさ。それにしても君って、あの中で平然してるなんて……本当に人間?」
「あの中って?」
「あのさ……私も人の事言えないけどさ、あの化物連中に囲まれて平然としてられるなんて普通じゃないからね? 普通なら卒倒して気を失うどころか心臓麻痺で死んでも不思議じゃないんだから」
「俺にとっては普通みたいな感じだし?」
「そういうと思った。いいよいいよ、別に」
「それよりタリアさん、何か用ですか?」
「帰る前にちょっと話したいなと思って。だって、久しぶりの同じ世界の出身者なんだから、少しくらい付き合いなさいよ」
思い掛けない申し出にコウイチは二つ返事で首を縦に振った。
タリアがコウイチの隣に並んで座る。すると、何処からかフラスコのような瓶を取り出してコウイチの前に置いた。
「私特製のウイスキー。一杯いかが?」
「是非!」
タリア特製ウイスキーを片手に元居た世界の話で盛り上がる。と言っても、2001年と言えばコウイチは生まれたばかりだ。時事ネタなんてものは通じないので故郷の話なんかを交わした。
不意にタリアが本題と言わんばかりにコウイチに訊く。
「ねえ、コウイチ君は元の世界に帰りたいと思わないの?」
「元の世界ですか……正直、こっちの世界に来てからはずっとバタバタしてて考えた事もなかったですね」
「来たばっかりの頃は皆同じだよ。今はどう。ちょっと余裕とか出て来て色々と考えられるようになってきたんじゃない?」
「そう、ですね……」
川に流されていた子犬(後のハク)を助けようとして溺れ死んで始まった異世界での第二の人生。
大学二年で二十歳の年。
目的もなく何となく周りが進学するからという理由で行った大学。
彼女も生まれてこの方いない。
家族は両親と妹が一人。
仲が悪い訳ではなく普通。
どうしてるんだろうな。
「あ、でも、過去なんですよね、今って」
元の世界に戻れたとしてもコウイチは生まれていない時代である可能性もある。
「んー、正確には過去って表現は間違ってる可能性もあるんだけどね」
「うん?」
「私は今日まで元の世界に帰る為に色んな研究を続けて来たんだけど、その過程で面白い過程を導き出したんです」
この世界では転生者はそれほど珍しくはない。その一方で転移者は非常に珍しく、更に共通してEXを冠する特別なスキルを所持している。
コウイチが晶石鍛冶EX、タリアが魔法製作EX、リョウタが収束EX、そしてもう一人EXスキルを持つ転移者の存在を入れて4名が確認されており、噂によれば他の転移者もEXスキルを所持していたという噂があるらしい。
「症例は少ないけれど、私が2001年で約1900年前、リョウタが2014年で約500年、2015年の転移者が居たって噂があって約400年、私の友人が2016年で約300年、そこから300年後の去年に君が転移してきて2019年。他にも確証はないけど、それっぽい情報があるんだけど眉唾物なものばかりだから省くわ。ここまでで何か気づかない?」
「……数学は苦手で」
「算数なんだけど……。つまりね、この世界にEXスキル持ちの転移者が現れた年とその人が飛ばされた年を比較すると1年で100年縮まって来てるの」
2016年から毎年1人転移者がいたと過程すると……その誤差は、
「誤差0?」
「もしくは限りなく0に近い状態、と私は過程してる。だから、今なら時間軸に大きな違いなく元の世界に帰れるんじゃないかと思ってるの」
「なるほど。……そもそも何でタリアさんたちは過去に飛ばされてたんでしょうか?」
「分かってたら苦労しないわ」
「ですよねー」
「まあ、そんな感じだからさ。私は元の世界に為の方法探しつつ同士も集めてるのよ」
「あの骸骨の人も?」
「ああ、リョウタは帰る気ないから。あいつはこの世界の人類抹殺だけが生き甲斐だからね」
「…………」
「長く生きてると色々とあるのよ」
タリアは立ち上がり、杖を宙に浮かせるとその上に腰掛けた。
「今日はこわーい人達が沢山いるから大人しく退散するわ。もし、元の世界に帰りたかったらこの栞で連絡頂戴ね」
ひらりとコウイチの膝の上に一枚の栞が舞い落ちる。
じゃあね、と言い残してタリアは月夜の闇に消えていった。
コウイチは栞を見つめながら思う。
……元の世界か。
考えることがまた一つ増えたコウイチであった。
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