上 下
40 / 78
蒼の皇国 編

敵はアオ!? アヴァロン消滅の危機!

しおりを挟む
 タマモの病室に緊急回線が繋げられ、地下第三工房のゲンジから報告が上がる。

”第2動力が暴走を始めちまいやがった! 何とか他の動力の出力を調整して連鎖暴走を防いではいるが……あと何分持つか”

 突然、旧動力が暴走を始めた。
 突然というのは嘘である。
 旧動力はいつ暴走しても不思議では無かったのだ。今までは二十四時間体制でメンテと管理を行って防いでいたに過ぎない。ついに今日、メンテナンスでは対応しきれない事態に陥り、動力の一つが暴走を始めてしまった。
 アヴァロンには5機の魔力融合炉の動力が稼働している。それらは並行に連結され魔力を循環させることでアヴァロンという巨大な金属の塊を空に浮かせるだけの膨大なエネルギーを産生し続けていた。
 このシステムの最大の欠点は5機が平行に連結されていることにある。動力のどれか一つでも停止したり暴走を始めればエネルギーの循環に乱れが生じて、全ての動力が連鎖的に暴走を始める。

『ウチの代わりに言葉を伝えてもろてええか?』

 タマモの念話にコウイチは頷いた。
 今のタマモの肉体は非常に衰弱している。声が出せない代わりに使用している念話も十キロ程度しか飛ばせないらしい。この病院から第三工房は十キロ以上の距離があり、ゲンジに直接念話を送れないのだろう。

『第2動力の暴走で怪我した子はおらんね?』
「第2動力の暴走での怪我人はいるのか?」

”そいつは大丈夫だ。いつ暴走するかもわかんねえからな。最近はロボットを使った遠隔メンテで済ませてたからな。まあ、それが仇になっちまった感じだけどよ”

 遠隔によるメンテナンス故にカメラ越しでは分からない細かな歪みを見逃してしまったらしい。

『過ぎたもんはしゃーなし。第2動力を循環路から離断。他の動力は直ちに停止』
「えっと、第2動力を循環路から離断、他の動力は停止させろって」

”停止って……そいつあ無理ですぜ? んなことしたら行き場を失った循環路内の魔力でアヴァロンが吹き飛んじまう!?”

 モニターの向こうでゲンジが目を見開いて声を荒げる。

『それは問題あらへん。ウー君、いるんやろ?』
「ええ、準備完了していますよ」

 不意にどこからともなく、真っ赤なコートにモノクルをかけた怪しい男――ウロボロスが現れ、その掌の上には複雑に入り乱れる魔法陣の球体が浮かんでいた。

”そいつは?”


「仮想魔力循環路。これで行き場を失った魔力を広域に散布してしまいます。これならば魔力の泉が発生することも高濃度の魔力を浴びることによる病気などになることもないでしょう」

”発動までにどれくらいありゃいい?”

「即時可能ですよ。そんな事よりも新動力の稼働には何分必要ですか?」

”……約40分だ”

「最悪です」
『最悪やね』
「絶望的ですね」

 ウロボロス、タマモ、メアリが頭を抱える中、コウイチは一人、事態の状況を飲み込めなかった。
 後で説明されたことだが、アヴァロンは高度約14000メートル位置に浮遊している。高度1万メートルから物体が自由落下した場合、約3分だそうだ。プラス4000メートルあるので約5分あるかどうか。
 しかし、新型の動力が稼働するには40分かかる。
 致命的かつ絶望的な状況だった。
 そんな状況の中、タマモの病室の扉が開き、一人の少女が無言で入室してきた。
 ローブに着られたような蒼い髪の少女アオだった。

「なっ、貴方はっ!?」
『何故、こんなところにおる!?』

 ウロボロスとタマモは声を揃えて言葉を続けた。

「蒼龍皇っ!?」
『蒼いの!?』

 蒼龍皇? 蒼いの?
 アオは蒼龍皇の協力者である冒険者のはずだ。
 何かの間違いではないかと睨み合う三人を交互に見る。 

「どういうこと?」

 コウイチの言葉を無視してアオは二人に告げた。

「100メートルでこの鉄の塊を消滅させる。彼との約束。これが最大限の譲歩」

 そう言うとコウイチはアオに首根っこを掴まれ、気づいた時には窓を突き破って空高くに舞い上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...