第二王女の婚約破棄

稲瀬 薊

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後始末

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 予定通り二人へ処罰を言い渡してひと段落……とはいかず、むしろこれからが慌ただしくなる。

 ヴィーダとフレアを他の貴族達に気付かれず表から隠すと同時にユリヴェーラの制裁を行わなければならない。
 彼等の制裁が目立てば目立つほど、二人の行方を気にする者は少ないはず。
 例えすぐに気付けたとしてもそれは私の本当の仕事を知る者に限られるので問題はないでしょう。二人について工作する時間を稼げればそれで良かった。

 婚約者との交流のためにつくられた部屋を最後に少しだけ見渡したあとは全てを片付けるよう侍女達へ指示を出す。
 その間、姉様とアリシアには別室で休んでもらうよう戻ってきたばかりの兄様に二人のことをお願いした。

 ここからはお父様とお母様の管轄である。
 だけど私はユリヴェーラとグランツェンがどうなるのか彼等に対して要望を出したのは私だから最後まで見届ける義務があった。
 ユリヴェーラの処罰が覆されることはないでしょうけども、グランツェンについては打てる手は打ってきたが、後はお父様とお母様、他の貴族達の意見次第。
 良く動いてくれたグランツェンの行方にほんの少しの不安を抱きつつ、既に待機していた母の影に案内を受け、次の舞台の場へと移動した。




・第二王女の婚約破棄
 既にマリーツェ殿下の手によって終えられている件であったが、元婚約者ヴィーダ・グランツェンが使用人フレア・ユリヴェーラと不貞行為を働いていた。
 また彼等はマリーツェ殿下に対し不敬の発言を繰り返し、非人道的な計画をたてていた。
 王家側がヴィーダに不信感をもち独自に再調査を行った結果、不貞以外にも問題が出てきたため全ての関係者へことの次第を明らかにし罰を下すこととなった。


・ユリヴェーラ子爵家について
 第二王女マリーツェ殿下の毒殺を計画していたことにより爵位を剥奪し一族とその関係者を死刑に処す。
 フレア・ユリヴェーラについてはヴィーダと共に毒杯を煽ったことで既に死亡したと報告あり。


・グランツェン公爵家について
 此度の婚約破棄および事件において再調査で大きな貢献をしたことにより、また問題があったのは子息だけであり情状酌量の余地あり。
 リリエンダ殿下、マリーツェ殿下からの言葉添えもあり、爵位はそのままとし王家に仕えることで一同相違なしとなったが、グランツェン公爵より爵位返上の申し出あり。
 協議をした結果、公爵から伯爵に爵位を下げることで意見はまとまった。


・ヴィーダ
 マリーツェ殿下の婚約者であったが、グランツェン公爵邸内においてーーー……





 あの婚約破棄から一ヶ月ほどたった。
 私の婚約破棄は内容が内容なだけに貴族だけでなく市民まで話が広がり、また悪質であったことから今でもヴィーダとフレアへ批難する声が上がっている。彼等は表向き鬼籍に入っているというのにまだ止まないのである。
 そのため刺激を与えないよう私は表舞台に出ず引き篭もって事務処理する日々を送っているのだけど、そこへ兄様が訪ねて来た。

「なんだコレは」
「ご機嫌よう兄様」

 以前にも似たようなやり取りをしたなと思いながら、兄様の手にある資料に気付く。

「ああそれ、ようやく兄様の所にいったのですね」
「私が最後とはどういうことだ」
「兄様はあまり気にされてないかと思いまして」

 兄様の手には【帝国の貴族学園への留学について】と記載されている。
 そう、この機会に私は帝国へ行こうと考えている。

「お父様とお母様の許可を得ているので、兄様や姉様から何を言われても決定は覆せませんよ」
「……以前から考えていた最終調査ってやつか。お前が直接行くことにしたんだな」
「はい。他の者に任せるには荷が重く、私が行くことが確実かと思いまして」

 現在姉様の婚約者候補として帝国の第四皇子が上がっている。婚約の申し出は向こうからで、こちらが納得するまで待つと言われ返事を待ってもらっている状態である。
 ほぼ決まっているようなものだけど、お言葉に甘えてしっかり調べている状態であり現在はその最終調査段階だ。
 さすが帝国というべきか。そう簡単に調査が進まず一年で得たものは予想よりはるかに少ない。

「私の婚約は失敗しましたから、せめて姉様には良い縁を結んで欲しいのですよ」
「まだマリーツェにも良縁があるさ」
「……少なくとも自国では難しいでしょうね。公爵になるために暫くは他国へ行って視野を広げてみようかと思っています」
「それでお前の気が軽くなるなら……はあ、止めようと思ったが止めれないな」
「今更ですよ兄様」
「違いない」

 お互い譲れないものがある。それが分かるからこれ以上言葉を重ねることはなかった。

「帝国で良い出会いがあればいいな」
「そうですね。話の合う友人が出来たら最高だと思います」
「マリーツェと話が合う子か…………」
「兄様その無言はなんですか?ちょっと、私から目線を外すのはなんですか?」
「いやぁ…なんか、マリーツェと似た子がいたらそれはそれで大変だなぁと思って、だな」

 口が滑ったのか思わず目を泳がす兄様に私はにんまりと笑う。
 珍しい笑顔の種類に嫌な予感がしたであろう兄様が私へ何か言う前に思いっきり息を吸い込んで叫んだ。

「リリエンダ姉様ーーー!リュシエル兄様がーーー!!」
「マリーツェ!?」

 いつかの仕返しに声を上げるとあの時の再現かのように城の中ではあり得ないほどの足音を響かせて近づく存在。

「リュシエル!わたくしの可愛いマリーツェに何をしたのかしら!?」
「待て待て待てっ落ち着けリリエンダ!」
「必死にわたくしを呼ぶマリーツェの声が聞こえたでしょう!?」
「目の前で叫ばれたから聞こえてるに決まってるだろ!?お前、マリーツェのことになると相変わらず極端に理不尽になるよな!」
「当然でしょう!わたくしのマリーツェなのよ!?」

 普段冷静で王族らしく振る舞う兄様と姉様だけど、こうしてただの兄妹になる瞬間が私は好きだ。
 双子である二人の息はピッタリで思わず声を出して笑えば兄様と姉様の口論が止まった。
 それから顔を見合わせると、二人は全く同じ笑みを浮かべて私を抱きしめてきた。それが何故か無性に楽しくて、三人で思いっきり笑い合った。


 私の恋は実らず婚約破棄という結果になってしまったけど全てが無くなったわけではない。
 一緒に怒ってくれる兄様と姉様が居て、支えてくれるお父様とお母様が居る。
 今はそれだけでいい。それで良かった。


 私が帝国の貴族学園へ留学したのは二ヶ月後のことだった。
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