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私の妹【リュシエル】
しおりを挟む双子である私とリリエンダは互いに上下の概念が無く片割れの認識であるが、一応表向きには先に生まれた私が兄、リリエンダが妹の形式をとっている。
そんな私達には目に入れても痛くない可愛い可愛い妹がいる。
先代王妃である今は亡きお祖母様のふわふわした髪質と淡い色が似合う可憐さを受け継いだマリーツェは、美貌の化身と言われるお父様と美女と言われるお母様にはあまり似ていなかった。また両親に似た私達にもだ。唯一似ているのは色彩のみで。
だがそれが私達家族がマリーツェを可愛がる要因となっていた。似た顔をした者を可愛がる気が起きないのは当然の結果と言えよう。家族の中でマリーツェに対する愛情表現が一番凄いのがリリエンダである。
「わたくしはね、例えマリーツェ自身がクマをこさえたとしてもそれを許せないの。なので今日一日わたくしがマリーツェをたくさん可愛がって労って休ませて差し上げますわよ」
「い、いえ姉様…それは遠慮願いたく…」
「あらあらあらあら?わたくしに否定的な言葉を紡ぐのはこの愛らしいお口かしら?」
「むぐっ」
物事に集中しすぎて自分の身を蔑ろにするマリーツェを叱るのはリリエンダの役目である。彼女の対応がマリーツェに一番効果があるのは検証済みで、リリエンダ曰く心配が天元突破してしまうそうだ。マリーツェにとってリリエンダは逆らえない姉である。
そのため私達兄妹の中で怒らせてはいけないのはリリエンダ、となりそうだが実際に一番怒らせては駄目なのがマリーツェだ。
マリーツェの容姿はお祖母様に似たが、それ以外の性格や頭脳はお母様に似てしまった。
この国のトップは国王であるお父様だが、裏を牛耳り汚れ仕事を担いそれを実行する者達を育成しているのが王妃であるお母様だった。
マリーツェがその才を見せたのは五歳の時である。ある時マリーツェに向けて他国から子どもの刺客を送り込まれたのだが、その者を懐柔して後に自身の影にしたのである。今は王家の暗部に身を置いているがマリーツェの命令があれば例え他の任務についていても即座に馳せ参じるだろう。
マリーツェは歳を重ねる毎に才能を開花させていき、ついにはお母様の教育を受けるようになってからはお母様と同じ影の支配者ならびに守護者となっていった。
そんなマリーツェが恋をした。
可愛い妹の将来のためにはりきって集めた婚約者候補達。その中から一人の子息を見初めたことでどこぞの馬の!とは言えず、むしろ集める事に助力した分当時私とリリエンダは荒れたものだ。
一人に絞った事で更に調査をしてくれとお母様へお願いし、その結果問題なしと評されたヴィーダ・グランツェンだったが、この僅か数年の婚約期間ですっかり心変わりしたようだ。
リリエンダがマリーツェに構っている間に散らばる資料を手にとって目を通すがどれを読んでも腑が煮えくり返すものだった。中でも血管が切れそうになったのは結婚後の子どもについてだ。
「…随分と馬鹿にされたものだ」
私でこれなのだ。マリーツェの衝撃は計り知れない。
僅か短期間でかなりの情報を集めたようだがメインとなるのはヴィーダとフレアという女の二人になるだろう。次いでユリヴェーラか。
「マリーツェ、今後どうする予定だ」
積み上がっている書類は多いが大方の事情は把握したため動向を確認する。兄としてもだが次期国王としてもマリーツェが行おうとしてる計画を知っておかねばならない。下手すると幾つかの貴族が消える事になるかもしれないからだ。
「ヴィーダとフレアの二人に関しては私へ一任して頂きたく。その他に関しては要望を添えますが、皆様でご判断をして頂きたいと考えております」
「そうか。では報告を待っている」
兄妹らしくない会話になるのはただの切り替えだ。リリエンダも理解してるからこの時だけは空気を読んで黙っていたが、会話が終わると直ぐにマリーツェを構うことを再開した。
翻弄される声が聞こえてくるが大人しく休む姿勢を取らなかったマリーツェが悪い。
「私は仕事が残っているから出て行くが、片付けば私も参加するからなリリエンダ」
「分かりましたわ。リュシエルのためにある程度は残しておきますわね」
「えっ、兄様まで!?」
「お前をたくさん構えるのを楽しみに頑張ってくるさ」
「それは勘弁願いたいです!」
「リリエンダ、私が戻ってきた時可愛いマリーツェに出迎えてもらいたいんだが?」
「ふふ、それはとても良いわね。わたくしに任せて下さいな。可愛く着飾ってお出迎えいたしますわ」
「兄様!姉様!」
本気で抵抗したらリリエンダから離れられるマリーツェだが、大人しく腕の中に収まって抗議してくる優しい妹に行ってきますの口付けを髪に落として部屋を後にした。
この日はとても楽しんだとだけ添えておこう。
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