第二王女の婚約破棄

稲瀬 薊

文字の大きさ
上 下
2 / 10

再調査

しおりを挟む

 あの日の出来事はアリシアと閣下には時が来るまで沈黙を貫いてもらう約束をして、私はヴィーダ・グランツェンとその周辺について再調査を指示した。


・ヴィーダ・グランツェン(二十歳)
 婚約当初はまだフレアが雇われていないため彼は王女宮へ足繁く通い私との交流を重ねていた。
 フレアと関係を持ったのは彼女の遅めの第二次性徴期がおきてから暫くしてのこと。グランツェン公爵家に勤めてから半年後だ。
 ヴィーダは次期当主として申し分ない采配がとれる頭脳があるが、その能力を不貞関係隠蔽に使い上手に隠し通した。同時に適度に私からの距離を取りながら、婚約関係を維持し続けた。
 二人の関係がアリシアに知られたのは偶然にすぎず、婚姻を結ばれた後も二人は関係を続ける予定だった。
 更には私との間には子をつくるつもりはなく、子どもが必要であるなら私を薬で眠らせてから別の者に抱かせる計画である。
 フレアには将来ヴィーダの近くにいても不自然にならないように私の侍女の一人にするべく勉強をさせている。


・フレア・ユリヴェーラ(十六歳)
 ユリヴェーラ子爵の愛人の子ども。母親が病気で儚くなり一人となったことで子爵家に七歳の時引き取られる。
 義母となる夫人との親子関係は良好であり、グランツェン公爵家への働き口を紹介したのも義母の繋がりからである。出自が問題で貴族子息との結婚は望めないことでフレアが少しでも苦労しないようにと思ってのこと。
 高位貴族には密かに愛人を囲う者が居る説明を義母から受けており、ヴィーダとの関係を悩まずに受け入れたのも義母の教育の賜物であることは調査の結果判明。
 義母はフレアの母親とは親友であり、お互い好いた相手を共有できるほど歪な友情関係を結んでいた。その事よりフレアの異常さは常識から外れた環境下で情緒育成がなされた結果ともいえる。
 出るとこは出て引き締まっている身体をもち年齢を重ねて美少女から美女へと変貌した。
 私に対して優越感を持ちつつもそれを外に出さない理性を持ち合わせていることからヴィーダとの精神面の相性は合っているともいえよう。


・グランツェン公爵家
 この度アリシアを通して私を秘密裏に公爵家訪問を実現したことは評価している。この時彼等は一族郎党罰せられる覚悟を持っていたからだ。
 アリシアと閣下の覚悟と忠誠心を受け、私個人的な意見として公爵家の処罰は不要にしたいところ。
 ヴィーダについて公爵家で秘密裏に罰せることも可能であったのにも関わらず、私に打ち明け、且つ私自身で確認できる場を用意した。代々一族の長とその妻にしか知り得ない非常時のための隠し通路を私に教えたのも彼等の覚悟を感じ取れたのも大きい。
 私が直接ヴィーダとフレアへ処罰を下すまでは、二人の不敬な発言を纏めてもらうように指示した。
 またヴィーダを次期当主から外すため新たな次期当主候補者を選び王家に申告するよう命じている。
 流石に王族に対して不敬な発言を重ねた男を表舞台に置き続けるわけにはいかない。それこそ一族郎党罰せられる未来しかないからだ。
 グランツェン公爵は承諾しアリシアと共に遂行してくれている。

・ユリヴェーラ子爵家
 子爵家の中でもーーー…



「なんだコレは」
「ご機嫌よう兄様」

 五日ほど部屋に篭もり各方面の調査指示を出しその結果をまとめていると、兄が部屋に入ってきており挨拶はそこそこに散らばっている資料を手にとり目を通していた。

「マリーツェ、私はお前に対して状況確認をしているんだ」
「今兄様が手にしている資料で確認は事足りると思います」
「私が何を言いたいのか分かっていながら受け流すのはやめろ」

 大きな溜め息を吐いて兄様は忙しなくペンを走らせている私の手を掴み動きを止めた。

「クマがひどいことになっている」
「……眠れないもので」
「食事を抜いているようだな」
「適度に摂っていますよ」
「マリーツェ、お前ってやつは……はぁ…お前がそんなだから侍女達が私に泣き付いてくるんだ。私の言葉で止まらないなら仕方ない、リリエンダを呼ぼう」
「え」

 思わず顔を上げるとようやく目が合ったことに兄様は嬉しそうに微笑んだ。
 だけど兄様から告げられた言葉は今の私にとって大問題でしかない。

「しっかりリリエンダに可愛がられろ」
「え、ま、待ってください兄様!それだけはっ」

 私の言葉を無視して兄様はそれはもう素晴らしいほど良い笑顔を浮かべて王族らしかぬほど大きな声で姉様の名前を呼んだ。

「リリエンダーー!お前の出番だーー!!」

 紳士らしかぬ兄の行動、そして城の中ではあり得ないほどの足音を立てて私の名前を叫びながら近づく存在。

「まあまあまあまあ!わたくしの可愛いマリーツェ!貴女のお姉様が今参りましたわよ!」

 現在国一番の美女と言われる姉様が私の部屋へ突撃してきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

全てを諦めた令嬢は、化け物と呼ばれた辺境伯の花嫁となる

毛蟹葵葉
恋愛
それは、第一王子の気まぐれで結ばれた縁談だ。 国で一番美しい令嬢と、化け物と呼ばれる辺境伯との婚姻を強制するものだった。 その哀れな美しい令嬢は、アストラの妹ライザだった。 嘆き悲しむライザを慰めるのは、アストラの婚約者のフレディだった。 アストラは、二人が想い合っている事を前々から気がついていた。 次第に距離が近くなっていく二人に、アストラは不安を覚える。 そして、その不安は的中した。 アストラとフレディとの婚約発表の日、ライザは体調を崩した。 フレディは、アストラの制止を振り切りライザに付きそう。 全てを諦めたアストラは、王命の抜け穴を利用して、化け物と呼ばれる辺境伯の所へ向かう。 序盤は胸糞です

僕の恋、兄の愛。2

BL
『僕の恋、兄の愛。』の続話です。 健介くんは大学生になりました。 彼は普段は普通の青年です。 別作品の『息子の運命、父の執着。』ファミリーも出てきます。(特に息子が) 受け同士でキャッキャ、ウフフしてる様なお話を目指しましたが、何か思ってたのと違う感じに。 兄ちゃんがなかなか出てこない・・R18がちょっと遠いです。 短編にしたいのに長くなったらどうしよう、短編と長編の基準て何だろう、と色々迷子です。 ※はエロいのに着けようと思っていますが、基準を見失い、これまた迷走中です。 誤字脱字もすいません。 いつか時系列に並べようと思っています。 タイトルに振ったナンバーが変わるかもしれません。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...