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再調査
しおりを挟むあの日の出来事はアリシアと閣下には時が来るまで沈黙を貫いてもらう約束をして、私はヴィーダ・グランツェンとその周辺について再調査を指示した。
・ヴィーダ・グランツェン(二十歳)
婚約当初はまだフレアが雇われていないため彼は王女宮へ足繁く通い私との交流を重ねていた。
フレアと関係を持ったのは彼女の遅めの第二次性徴期がおきてから暫くしてのこと。グランツェン公爵家に勤めてから半年後だ。
ヴィーダは次期当主として申し分ない采配がとれる頭脳があるが、その能力を不貞関係隠蔽に使い上手に隠し通した。同時に適度に私からの距離を取りながら、婚約関係を維持し続けた。
二人の関係がアリシアに知られたのは偶然にすぎず、婚姻を結ばれた後も二人は関係を続ける予定だった。
更には私との間には子をつくるつもりはなく、子どもが必要であるなら私を薬で眠らせてから別の者に抱かせる計画である。
フレアには将来ヴィーダの近くにいても不自然にならないように私の侍女の一人にするべく勉強をさせている。
・フレア・ユリヴェーラ(十六歳)
ユリヴェーラ子爵の愛人の子ども。母親が病気で儚くなり一人となったことで子爵家に七歳の時引き取られる。
義母となる夫人との親子関係は良好であり、グランツェン公爵家への働き口を紹介したのも義母の繋がりからである。出自が問題で貴族子息との結婚は望めないことでフレアが少しでも苦労しないようにと思ってのこと。
高位貴族には密かに愛人を囲う者が居る説明を義母から受けており、ヴィーダとの関係を悩まずに受け入れたのも義母の教育の賜物であることは調査の結果判明。
義母はフレアの母親とは親友であり、お互い好いた相手を共有できるほど歪な友情関係を結んでいた。その事よりフレアの異常さは常識から外れた環境下で情緒育成がなされた結果ともいえる。
出るとこは出て引き締まっている身体をもち年齢を重ねて美少女から美女へと変貌した。
私に対して優越感を持ちつつもそれを外に出さない理性を持ち合わせていることからヴィーダとの精神面の相性は合っているともいえよう。
・グランツェン公爵家
この度アリシアを通して私を秘密裏に公爵家訪問を実現したことは評価している。この時彼等は一族郎党罰せられる覚悟を持っていたからだ。
アリシアと閣下の覚悟と忠誠心を受け、私個人的な意見として公爵家の処罰は不要にしたいところ。
ヴィーダについて公爵家で秘密裏に罰せることも可能であったのにも関わらず、私に打ち明け、且つ私自身で確認できる場を用意した。代々一族の長とその妻にしか知り得ない非常時のための隠し通路を私に教えたのも彼等の覚悟を感じ取れたのも大きい。
私が直接ヴィーダとフレアへ処罰を下すまでは、二人の不敬な発言を纏めてもらうように指示した。
またヴィーダを次期当主から外すため新たな次期当主候補者を選び王家に申告するよう命じている。
流石に王族に対して不敬な発言を重ねた男を表舞台に置き続けるわけにはいかない。それこそ一族郎党罰せられる未来しかないからだ。
グランツェン公爵は承諾しアリシアと共に遂行してくれている。
・ユリヴェーラ子爵家
子爵家の中でもーーー…
「なんだコレは」
「ご機嫌よう兄様」
五日ほど部屋に篭もり各方面の調査指示を出しその結果をまとめていると、兄が部屋に入ってきており挨拶はそこそこに散らばっている資料を手にとり目を通していた。
「マリーツェ、私はお前に対して状況確認をしているんだ」
「今兄様が手にしている資料で確認は事足りると思います」
「私が何を言いたいのか分かっていながら受け流すのはやめろ」
大きな溜め息を吐いて兄様は忙しなくペンを走らせている私の手を掴み動きを止めた。
「クマがひどいことになっている」
「……眠れないもので」
「食事を抜いているようだな」
「適度に摂っていますよ」
「マリーツェ、お前ってやつは……はぁ…お前がそんなだから侍女達が私に泣き付いてくるんだ。私の言葉で止まらないなら仕方ない、リリエンダを呼ぼう」
「え」
思わず顔を上げるとようやく目が合ったことに兄様は嬉しそうに微笑んだ。
だけど兄様から告げられた言葉は今の私にとって大問題でしかない。
「しっかりリリエンダに可愛がられろ」
「え、ま、待ってください兄様!それだけはっ」
私の言葉を無視して兄様はそれはもう素晴らしいほど良い笑顔を浮かべて王族らしかぬほど大きな声で姉様の名前を呼んだ。
「リリエンダーー!お前の出番だーー!!」
紳士らしかぬ兄の行動、そして城の中ではあり得ないほどの足音を立てて私の名前を叫びながら近づく存在。
「まあまあまあまあ!わたくしの可愛いマリーツェ!貴女のお姉様が今参りましたわよ!」
現在国一番の美女と言われる姉様が私の部屋へ突撃してきた。
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