微笑みの梨乃亜姫

魚口ホワホワ

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不思議な術『ニコニコ』

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 あるところに天守閣に立派な金のしゃちほこがついたお城がありました。お城には殿様と奥方とお姫様がいました。そのお姫様の名前は梨乃亜姫と言いました。

 この梨乃亜姫は、可愛いお顔でおてんばで、数え年で15歳になります。城下に町民の暮らしを見に行こうといつもこっそり出掛けようとしますが、家老やお付きの女中に見つかり止められます。

 実は、梨乃亜姫は、町へ出て世直しをすることが、楽しくてしょうがありません。そして、梨乃亜姫は、なんとひとつだけ『不思議な術』を使えました。その術は、町民の悲しい顔や怒った顔もたちどころに笑顔に変えてしまいます。

 今まで、この術を使い、町民達の争い事を仲裁したり、会う人達を笑顔にしてきました。

 今日もこっそりとお城を抜け出そうと仲の良い女中見習いの「美代」と「美津」を呼び出し、町娘の着物を持ってきてもらい、支度を始めました。

「姫!姫!お勉学のお時間でございます」

 そこへ家老がやって来ましたので、姫は慌てて、布団に潜り込みました。襖が開き、家老が部屋を覗きました。

「あれ、姫はお寝坊ですか?」
「いえ、ご家老様、姫は、ちょっと体調がすぐれないようでございます」
「姫…今日はゆっくりなさってください」
「ごほん…ごほん…」

 家老は襖を閉めて、行ってしまいました。

「美代、行くわよ…美津はここで私の代わりにお布団に入っておいて…」
「はい…行きましょう」
「はい…お布団かぶっておきます」

 梨乃亜姫は、美代を連れて城の裏口へ向かいます。そこには門番がいましたが、梨乃亜姫は美代の後ろで顔を隠して、門を通って行こうとしました。

「ちょっと待て!」
「はい、何でございましょう…」
「どこへ行くんだ!」
「ご家老様のご用事で、城下へ参ります…」
「えっ!それは失礼した…気をつけて行って参れ!」
「行って参ります…」
「行って参る…」
「あれっ…どこかで聞いたような声…」

 門番は、誰の声かと一瞬考えましたが、まあ空耳だろうと流しました。

 梨乃亜姫と美代は、うまく門を通過出来ました。あとは城下町まで一本道です。城下町に入るとお店屋さんやいろんな人達が往来していて、楽しい気分になります。

 しばらく歩くと小さい女の子が泣いていました。どうやら、買ったばかりの飴を落としたようです。

「うえーん、えーん…」

 梨乃亜は早速、術を使います。女の子の顔を見て、首を少し傾け『ニコニコ』とします。すると、不思議と女の子は泣き止み、笑顔になりました。梨乃亜は、やっぱりこの術『ニコニコ』は、凄いと思いました。

「これで、新しい飴を買いなさい」
「うん…ありがと…ひ…あっ」
「それでは、さようなら」
「さよなら…」

 また、進んで行くと威勢の良い男達が争っていました。料理屋と魚屋でした。

「こんな腐りかけの魚なんていらねぇ」
「なにおー、まだ漁って一刻だぞ」
「目が死んでるのよ…魚屋なのにわからないのかよ…」
「うちの魚にケチつけないでくれ!」

 梨乃亜は、この二人男達の前に立ちはだかると首を傾け『ニコニコ』としました。すると男達は、あっという間に笑顔になりました。

「だいの男が、往来で争わぬように…」
「あっはい…ひ…いや…」
「わかりやした…ひ…はい」

「良く見るといい魚だねぇ…」
「今度は、もっと早く持ってきやすぜぇ」
「もらっておくよ…」
「ありやんした…」

 今日も町民達の助けになり、ご満悦の梨乃亜姫はまた先に進んで行きました。
 
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