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じゅう

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チュンチュンという小鳥の鳴き声と暖かな日差しを感じて私は目を開けた。

もう朝だ。

体を起こし伸ばすと、目の前にアランがいた。


「おはようございます。洋服は置いてありますので、では扉の前で待ってます。」

「…ええ、ありがとうございます。」

アランは表情を変えず淡々とそう言って部屋を出ていく。

私は屋敷でも彼はこんな感じだったなと思い出しながら、着替え始めた。

そして、脱いだ服を部屋の外にいるアランに渡す。アランはそれを空間に収納した。

「サーシャはいましたか?」

「いや、姿はなかったですね。とりあえず、昨日の応接室にいきましょう。」

「分かりました、アラン。」

私とアランは2人で昨日話した部屋へと向かう。すると、アランが扉を開ける前にカチャッと扉が開いた。

「サーシャ…」

「サーシャおはようございます。」

思わず名を呼んで息を呑んでしまう私と違って、アランはにこやかに挨拶をした。

サーシャは少し困った顔をしていたが、口を開き「昨日のことを話したいわ」と言った。


でも、アランは一言「私たちの会話を聞いて迷惑ならば、即刻この家から立ち去ります。」と言った。

サーシャは目を見張り、そして俯いた。

やはり、私たちの会話を聞いてしまったのだろう。どこから聞いてどこまで聞こえたのかは分からないけれど、困惑するほどには聞いていたらしい。

「…違うのよ、アラン、ルナ。私はね、私は貴方たちを還してあげられるの。」

「どういう、ことですか?」

「ごめんなさい。この話をするには、私だけではどうにもならないわ。町にいるナターシャという人も呼ばないと…」

還す?ナターシャ?町?
私は彼女の口から出る言葉を一つ一つ記憶していく。

私たちを還す?どこへ?

私はアランを見る。が、しかし彼はサーシャをじっと静かに見据えていた。


「まあ、なんだい。とりあえずご飯でも食べて、この辺散歩しといで。」

そう言ってサーシャは何処かへ行ってしまった。私達は机の上に置いてある、パンとスープを昨日の挨拶をしてから食べた。

残念ながら生活魔法は使えないため、自分たちで洗って拭いて棚にしまった。


「散歩、しますか?アラン」

「もちろん、しますよルナ。この周辺の生態系を把握しときましょう。」


アランはなぜか生き生きと足を外へと向かわせ、私に早く来いと催促をする。


…こういうところはまだまだ子どもね。

私は彼の歩幅に合わせついていく。
昨日は全然余裕がなくて、見れていなかったがこの草原は生き物がイキイキと輝いていた。

草も花も虫も、もちろん木も。

視界には小動物もいて、兎、狸、猪に猿。
みんな美味しそうに木の実を食べたり毛繕いをしたりしていた。

風もそよそよと吹いていてとても気持ちいい。


「素敵な場所ですね、アラン。」

「そうですね、でも、伯爵家のほうが素敵な庭がございますよ。」

伯爵家と言ったアランを思わず睨む。
アランは私の睨みを一瞥しわらった。

「大丈夫ですよ。私たちの周りに人はいません。もちろんサーシャもです。なので、ここではルミナス様でいていいんですよ。」

「…昨日はそれでサーシャに聞かれたでしょう?」

「昨日は油断してましたから。」


昨日は昨日。今日は今日ですよなんていうアランをとりあえず一発叩いていいのよね?

私はわざとらしく溜息を吐いて、空を仰ぐ。


「そうね、今はルミナスでいるわ!さあ、アラン!食べられそうなものを調達するよ!」

「えっ、あ、待ってくださいお嬢様!勝手に歩いて魔獣でもいたらどうするんですか!!」

「大丈夫大丈夫!魔獣なんて滅多に会わないってサーシャも言ってたじゃない!さあ、いきましょー!!!!!」


気合を入れてレッツゴー!と進もうとしたら大きな影が。

あら?と視線を上に向けると、大きな狼らしき生き物がいた。


ジュルりとよだれを垂らし、荒い息でこちらを見つめる真紅の瞳。

あ、喰われる。そう思ったけど、その前にアランが助けて狼との距離を取った。


「アラン、ありがとう。礼を言うわ」

「焦りましたよお嬢様、あまり変な行動は避けてください!」

私は一言「剣よ我の元へ!」と叫んだ。
アランは何か言おうとしたが、その前に私の手に剣が宿った。

私はその剣を握りしめ、素早く狼の攻撃を避けながら後ろへ回り込む。

アランの援護を受けながら狼の背中に乗り、剣を突き刺した。

ーーーアオォオオオオオオオンンンンンンン!!!!!!!!!!!

けたましい鳴き声に思わず片耳を塞ぐが、それにより重心がずれ落下する。

私は「風よ、舞え」と呟きながら剣を振る。
そうすると剣から風魔法が出てきて、私はゆっくりと地面に着地することができた。

私は再び距離を取り、剣を構える。

「さあ!狼よ!どうする?!我が剣は貴様を突き刺し、命を奪うだろう!!しかし、今この場を去れば命を奪わないとこの剣に誓おう!」

狼相手に何をと言うかもしれないが、強い魔獣ほど知性があり人間の言葉を深く理解すると言われている。

そのため私はいつもこのように声をかけてから、命を奪うようにしている。

すると、狼は攻撃も去りもせず私に頭を垂れた。これは降参又は服従を意味する。

私は近寄りフサフサの毛を撫ぜた。

「…降参が服従かは分からないが、君の大きさでは共には連れてはいけない。元いた場所へ帰るといい。」

そう真紅の瞳を見て言えば、グルルルルと言って何故か体が光り…縮んだ。

いや、小さくなったのかもしれない。
今の大きさは猪より少し大きいくらいだった。


「…私についてくるの?」

私の問いに返事するようにグルルルルと鳴く狼に、嬉しさと困惑の感情が出てくる。

私はアランを探すべく視線を彷徨わせると、彼は私の後ろにいた。

「アラン、どうしよう?」

「…ソレが来たいと言ってるなら側に置いても問題はないかと。」

「ええ…そう言う問題かしら?」

アランの言葉に頭を抱える。
つまりは私の好きにしろと言うことだよね?
本当に困った。私の世界にこの子は連れてはいけないから、契約はできない。

「とりあえず、ついてくるのは許可する。でも、君を私の世界へは連れていけないからその時はここにいるサーシャを守ってね?」

狼の好意も嫌じゃないので、ついてくるのは許可した。でも、ずっとはいられないこともしっかりと伝える。

私は弱々しくグルルルルと鳴く狼の頭を優しく撫でた。

名前をつけてしまうと契約してしまうから、名前もつけてあげられない。

心の中でごめんねと呟き、私はまた頭を撫でた。

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