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未練
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県予選2回戦敗退。面白みのない結果を残して、3年生は引退する。それなりに頑張った部活動も今日でお納めだ。想像以上にあっけない幕切れで、まだ実感が湧かない。
部長としての最後の仕事は新たなチームへの激励だった。それなのに昨年部長を務めた先輩と似たり寄ったりの言葉しか紡げなかったのは、結局大した意志がなかったからかもしれない。
それなりに頑張った。それだけだった。全国に行こうだとか、そんな大層な夢をかけていなかった。
激励した1、2年生のチームもどうせ全国に行ける実力はないと、まだロクに始動さえしていないのに心の中で思っていた。部長がこんな感じでは、全国に行けるはずもない。そんな思いを後悔や反省ではなく、諦念と共に抱いているところがダメなのだろうと他人事のように考えた。
「お疲れさん」
「ああ、そっちこそお疲れ」
マネージャーの言葉で意識を現実に引き戻す。普段は体育館で顔を合わせるマネージャーを、階段で見る機会はあまりなく新鮮だった。
「マネの方も引き継ぎ終わった?」
「下が優秀だと助かるね」
「今日の打ち上げは全員来るっけ」
「そそ」
優秀だという下よりさらに優秀なマネージャーは相変わらず仕事が早い。
「今日でお前と話すの、最後になるかもね」
「ま、クラス違うからね。可能性は否めない」
「大学どこ行くの」
「第1は東京。そっちは九州だったかな」
「うん、福岡」
「じゃあもう本格的に会えなくなるのか」
「会いたいの?」
「拒絶するほどじゃない」
距離感の掴みづらいマネージャーとも今日でお別れだ。
「ね、最後にキスくらいやっとく?」
「唐突すぎてついていけないんだけど」
「なんか、流れ?」
「なにそれ怖い」
「何回かあったじゃん、そういう空気になるの」
マネージャーと2人きりのとき、たまに流れる空気は思い違いではなかったらしい。
「どうせ最後なんだから」
「ちょっとお前が心配になったよ」
「さすがに1発やっとこうとは思わないよ。そこまで貞操観念ゆるくない」
「キスはするのに?」
「だって未練とか残したくないじゃん」
心臓に小さなトゲが刺さったような気がした。
「で、どうする?」
「どうって……」
「どっちでもいいならしようよ。ほら動かないで」
言われるがままに固まっていると、2段上に立つマネージャーがこちらの肩に手をかける。
「目、閉じて」
やはりマネージャーの言葉に素直に閉じるまぶたはもう、誰のものかわかったものではない。続いて、唇に柔らかな感触。どんな感情でなされたのかもわからないキスに、何を思えばいいのだろう。
「ん、満足」
「よかったね」
「じゃ、打ち上げ来てね」
本当に満足そうに昇降口に足を向けるマネージャーは、もう後ろ姿しか見えない。
柔らかな感触。思い出しても、何の感慨も湧かない。レモンもイチゴもブドウも感じられない、情熱も感傷も愛着も感じられないただのキス。それで満足されてしまった。
「あーあ」
未練を残してくれたらよかったのに。さすがにそこまでは言葉にならず、胸の奥で澱のように漂っている。
きっとこれが似合いなのだ。本気で全国を目指さず、本気で悔やむこともできない者に似合いの結末。マネージャーを引き止めることもできない間抜けのつまらない青春の1ページに、痛む胸など要らないのだ。
部長としての最後の仕事は新たなチームへの激励だった。それなのに昨年部長を務めた先輩と似たり寄ったりの言葉しか紡げなかったのは、結局大した意志がなかったからかもしれない。
それなりに頑張った。それだけだった。全国に行こうだとか、そんな大層な夢をかけていなかった。
激励した1、2年生のチームもどうせ全国に行ける実力はないと、まだロクに始動さえしていないのに心の中で思っていた。部長がこんな感じでは、全国に行けるはずもない。そんな思いを後悔や反省ではなく、諦念と共に抱いているところがダメなのだろうと他人事のように考えた。
「お疲れさん」
「ああ、そっちこそお疲れ」
マネージャーの言葉で意識を現実に引き戻す。普段は体育館で顔を合わせるマネージャーを、階段で見る機会はあまりなく新鮮だった。
「マネの方も引き継ぎ終わった?」
「下が優秀だと助かるね」
「今日の打ち上げは全員来るっけ」
「そそ」
優秀だという下よりさらに優秀なマネージャーは相変わらず仕事が早い。
「今日でお前と話すの、最後になるかもね」
「ま、クラス違うからね。可能性は否めない」
「大学どこ行くの」
「第1は東京。そっちは九州だったかな」
「うん、福岡」
「じゃあもう本格的に会えなくなるのか」
「会いたいの?」
「拒絶するほどじゃない」
距離感の掴みづらいマネージャーとも今日でお別れだ。
「ね、最後にキスくらいやっとく?」
「唐突すぎてついていけないんだけど」
「なんか、流れ?」
「なにそれ怖い」
「何回かあったじゃん、そういう空気になるの」
マネージャーと2人きりのとき、たまに流れる空気は思い違いではなかったらしい。
「どうせ最後なんだから」
「ちょっとお前が心配になったよ」
「さすがに1発やっとこうとは思わないよ。そこまで貞操観念ゆるくない」
「キスはするのに?」
「だって未練とか残したくないじゃん」
心臓に小さなトゲが刺さったような気がした。
「で、どうする?」
「どうって……」
「どっちでもいいならしようよ。ほら動かないで」
言われるがままに固まっていると、2段上に立つマネージャーがこちらの肩に手をかける。
「目、閉じて」
やはりマネージャーの言葉に素直に閉じるまぶたはもう、誰のものかわかったものではない。続いて、唇に柔らかな感触。どんな感情でなされたのかもわからないキスに、何を思えばいいのだろう。
「ん、満足」
「よかったね」
「じゃ、打ち上げ来てね」
本当に満足そうに昇降口に足を向けるマネージャーは、もう後ろ姿しか見えない。
柔らかな感触。思い出しても、何の感慨も湧かない。レモンもイチゴもブドウも感じられない、情熱も感傷も愛着も感じられないただのキス。それで満足されてしまった。
「あーあ」
未練を残してくれたらよかったのに。さすがにそこまでは言葉にならず、胸の奥で澱のように漂っている。
きっとこれが似合いなのだ。本気で全国を目指さず、本気で悔やむこともできない者に似合いの結末。マネージャーを引き止めることもできない間抜けのつまらない青春の1ページに、痛む胸など要らないのだ。
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