プセマ

奥猫かえる

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モノ

にい

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 高校は工業高校だった、というのもあってほかからみたら結構特殊な環境だったと思う。
 共学だけど、私のクラスには女子しかいなかった。だから出会いと言うとは3年生になるまでてんでなかった。
 当時のわたしは大学に行きたかったけど、両親は金がないから行くな、の一点張りだったから家族を支えるために就職する予定だった。まあ仕方ない、と学校で習ったことを活かし、就職するつもりだったのだが。

「陸軍?」

 担任が呆然と呟いた。まあそうだろう、私も驚いている。勧誘がかかって試験を受けてみたら受かっちゃいましたなんて笑えたもんではない。
 いやまあ別にうちの国が戦争しててとても危険だ!なんてことは一切ない。あくまで国としての自衛のために軍隊なるものを配備しているだけだ。それでも女が行くのはいかがなものか、と担任は眉をしかめた。
 ましてやわたしは細い体で、バイトに明け暮れているとは言え文化部に所属しているわたしは明らかに体力不足。体育科の先生に言わせれば極度の運動音痴なのであった。

「いやまあでも前線部隊とかに絶対いくとかそういうわけではなくてなんか色んな職種があるらしくて」

 ……行きたい仕事でもないのに何故かわたしは弁明するようにそう言っていた。と、いうのも両親から行け行けと背中を押されたからである。挙句の果てには「公務員でしょ?わたしもなりたかったのよ」なんて言われる始末だ。

 担任は合格通知とわたしを交互に何回も睨んで溜息をついた。
「親御さんはなんて?」
 なんかめちゃくちゃ喜んでました!
 そう応えると可哀想なものを見る目でこちらを見てくる。まあ高校にいる間に何が常識がなんとなく学んだから言いたいことは分かる。でも、あくまで「先生」な彼には口を出すことができない。
「まあ、考え直すなら今のうちだし、一応このリスト渡しとくな……」
 と、担任は優しいことにリストアップされた応募中の職場の書類を渡してくれた。

 というわけでなんなく就職活動を終えてしまったわたしは遊び呆けるわけでもなく、より一層バイトと学校に明け暮れた。

 高校最後の冬を迎えようと言う時、ふと同級生に聞かれた。「バイトしてるけど遊んでなくない?今度カラオケ行こうよ」
 そういえば友人と遊ぶと言ったら家にお邪魔するかウインドウショッピングを楽しむかの2択だったな……。でも、と首を振る。
「なんか、カラオケ行くことに親はいい顔しないしそもそもバイト代は全額親行きなんだよね」
 すると聞いてきた同級生の後ろに隠れるようにして聞いていたふたりがはあ!?!?と大きい声を上げて身を乗り出してきた。
 中学の時の二の舞かも、と思った。しかしその子達は憤慨する一方だった。「バイトさせといて全額もらうとかなめてんの!?」「弁当も自分でつくってんでしょ!?」
「いやあの別に普通だから……」
「「普通じゃないから!!!!」」
 慌てて親のフォローしようとしたが一蹴される。亀のように首を縮こませ彼女らの話を黙って聞いた。

 しばらく聞いていたがバイトがあるから、と彼女らの話を打ち切った。
「あ、ごめん」と謝る彼女らになんてことないよ、と微笑み帰り支度をする。

 帰る時も、どこかぼんやりしていた。
 彼と出会ったのはその数日後だったか。
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