上 下
54 / 87

俺んちに来ないか

しおりを挟む
ある春の日、あたしの指定席の教室の陽だまりに来客があった。あたしはもう3年生に進級していたが、相変わらず教室の中で一番日当たりもいい、居心地の良い場所はあたしの居場所として確保していた。例によって休み時間も放課後もその場所に佇むことでここはあたしの居場所だよと主張し続けて。その日はたまたま果歩ちゃんも美羽ちゃんも一緒にはいなくてあたしひとりでのお留守番の最中だった。その来客は叶うのならいつでもあたしが迎え入れたい人。亮君はそっとあたしのそばに寄って来て、あたしにしか聞こえない小さな声でこう言った。

「今日一緒に帰れないかな?」

あたしは顔と胸を熱くして、

「うん。いいよ。」

亮君にしか聞こえない声でそう返した。

 下校の時間がやって来た。これからあたしに訪れる下校の時間は間違いなくとても幸せなものだろうけど、それを迎える前にあたしにはやらなきゃいけないことがある。果歩ちゃんと美羽ちゃんにあたしにも幸せがやって来たよ、と伝えなくちゃいけない。もちろんそのこと自体は全く悪いことではないし、とても誇らしいことなのだけど、そのことをふたりに伝えることはとても照れ臭い。今日の最後の授業が終わったときに、あたしは勇気を出してあたしの帰り支度を待ちわびているふたりの元に足を運んだ。

ああ、なんて言おう。嘘をつくつもりなんてまるでないけど、どうやって説明していいのか分からない。うん。正直にあるがままに話せばいいんだよね。あたしの気になっている人に誘いを受けたんだよって。

「嘘おーっ。マジで言っているの?」

ああ、やっぱりそうだよね。そんなリアクションになるよね。果歩ちゃんは周囲の注目を浴びるくらい大きな声で驚いた。反対に美羽ちゃんはとても落ち着いてあたしの言葉を受け入れてくれた。そうか、やっとその日が来たか。みたいにうんうんと頷いていた。ふたりの反応は全く正反対のものだったけど、そのどちらにもあまり上手く受け答えが出来ないと思ったあたしは最低限の言うことだけ伝えてふたりの元を足早に離れてしまった。ごめんね、薄情なあたしで。

 教室にもいづらくなってしまったあたしは、そこを飛び出しせかせかと校舎を飛び出した。今日も亮君は待ち合わせ場所を指定してきてくれなかった。お願いだからこのあいだと同じようにあの場所であたしを待っていて。その思いが天に通じたのか彼は先日と同じように校門であたしを待ち構えていてくれた。本当にホッとしたよ。

 安心したのはほんの束の間。ふたりきりになってしまえば相変わらず恥ずかしさがいっぱいだったけれど。少しの間ふたり肩を並べて自転車を押しながら歩いたけど、前回と少し違ったのは今日の亮君も少し緊張しているような気がするのよね。そのことが彼らしくなくてとても気になったあたしは、彼に尋ねたの。

「どうしたの?なにかいつもの亮君と違うみたい。」

 あたしの問いに対して。余程言い出しにくいことだったのか、彼は「ああ。」とか「うん。」とか、曖昧な返事を何度か繰り返すだけ。しかし、意を決したのだろうか、あたしの顔は見ずに随分早口でこう言った。

「今日、うちの両親いないんだ。良かったらうちに遊びにこない?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...