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俺んちに来ないか

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ある春の日、あたしの指定席の教室の陽だまりに来客があった。あたしはもう3年生に進級していたが、相変わらず教室の中で一番日当たりもいい、居心地の良い場所はあたしの居場所として確保していた。例によって休み時間も放課後もその場所に佇むことでここはあたしの居場所だよと主張し続けて。その日はたまたま果歩ちゃんも美羽ちゃんも一緒にはいなくてあたしひとりでのお留守番の最中だった。その来客は叶うのならいつでもあたしが迎え入れたい人。亮君はそっとあたしのそばに寄って来て、あたしにしか聞こえない小さな声でこう言った。

「今日一緒に帰れないかな?」

あたしは顔と胸を熱くして、

「うん。いいよ。」

亮君にしか聞こえない声でそう返した。

 下校の時間がやって来た。これからあたしに訪れる下校の時間は間違いなくとても幸せなものだろうけど、それを迎える前にあたしにはやらなきゃいけないことがある。果歩ちゃんと美羽ちゃんにあたしにも幸せがやって来たよ、と伝えなくちゃいけない。もちろんそのこと自体は全く悪いことではないし、とても誇らしいことなのだけど、そのことをふたりに伝えることはとても照れ臭い。今日の最後の授業が終わったときに、あたしは勇気を出してあたしの帰り支度を待ちわびているふたりの元に足を運んだ。

ああ、なんて言おう。嘘をつくつもりなんてまるでないけど、どうやって説明していいのか分からない。うん。正直にあるがままに話せばいいんだよね。あたしの気になっている人に誘いを受けたんだよって。

「嘘おーっ。マジで言っているの?」

ああ、やっぱりそうだよね。そんなリアクションになるよね。果歩ちゃんは周囲の注目を浴びるくらい大きな声で驚いた。反対に美羽ちゃんはとても落ち着いてあたしの言葉を受け入れてくれた。そうか、やっとその日が来たか。みたいにうんうんと頷いていた。ふたりの反応は全く正反対のものだったけど、そのどちらにもあまり上手く受け答えが出来ないと思ったあたしは最低限の言うことだけ伝えてふたりの元を足早に離れてしまった。ごめんね、薄情なあたしで。

 教室にもいづらくなってしまったあたしは、そこを飛び出しせかせかと校舎を飛び出した。今日も亮君は待ち合わせ場所を指定してきてくれなかった。お願いだからこのあいだと同じようにあの場所であたしを待っていて。その思いが天に通じたのか彼は先日と同じように校門であたしを待ち構えていてくれた。本当にホッとしたよ。

 安心したのはほんの束の間。ふたりきりになってしまえば相変わらず恥ずかしさがいっぱいだったけれど。少しの間ふたり肩を並べて自転車を押しながら歩いたけど、前回と少し違ったのは今日の亮君も少し緊張しているような気がするのよね。そのことが彼らしくなくてとても気になったあたしは、彼に尋ねたの。

「どうしたの?なにかいつもの亮君と違うみたい。」

 あたしの問いに対して。余程言い出しにくいことだったのか、彼は「ああ。」とか「うん。」とか、曖昧な返事を何度か繰り返すだけ。しかし、意を決したのだろうか、あたしの顔は見ずに随分早口でこう言った。

「今日、うちの両親いないんだ。良かったらうちに遊びにこない?」

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