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テスカティア山からニューヨークへ

テスカティア山からニューヨークへ②

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 マリとヘイムがゲートを出ると、そこはセントラルパークに面した道路だった。

「選定者様、ここが貴女が生まれた世界で間違いないですかな?」

「うん。私が生まれた世界だね。一度私が生まれた家に行くよ」

「お付き合い致します」

 道路を走るタクシーを停め、二人で乗り込む。
 運転手に目的地を告げると、車は滑らかに走り出し、ヘイムは外の風景に感嘆の声を上げた。

「これは! なんという!! 魔法の英知をもってしても、アレほど高い建造物は建てれないでしょう!」

「メチャクチャ高いよね! 私もアッチの世界の建物の小ささに慣れちゃったから、ニューヨークのビルが妙に高く感じるや」

「セバスさんも一緒に来ればよかった気がしますが」

「そーだね。まぁ、彼にも色々あるんじゃないかな?」

 セバスちゃんは、一人で王都に向かうアリアを心配し、こちらの世界に戻って来なかった。
 アリアの方が彼より数倍強いだろうが、その辺を考えるのは野暮なのかもしれない。

 高級ブティックの店舗が並ぶ通りをタクシーで走りぬけ、閑静な住宅街に入る。
 久し振りの光景に、漸く戻ってこれたという実感がわいてきた。
 向うの世界でやるべき事はまだ沢山残っているが、ちゃんと戻って来れるのだと知れたのは良かった。

 感動しきりのヘイムに、街の建造物をアレコレと説明しているうちに、ストロベリーフィールド家の邸宅前に着いた。

 マリがタクシーから降り立つと、守衛が慌てた様子で駆け寄って来た。

「マリお嬢様! 失踪されたと聞いておりましたが、ご無事だったのですね! 良かったです!! ……っと、その男性はどなたですか??」

 一緒に居るヘイムの服装が、死神かなにかの様なので、守衛の顔には警戒の色が浮かんでいる。

「久し振り。この人はヘイム・センテリスさん。私の客人だから丁重にもてなしてあげて」

「初めまして。ヘイム・センテリスでございます」

「は、はぁ……。マリお嬢様、今日は旦那様がお帰りになっておられます。お顔を見せて、どうか安心させてあげてくださいませ」

「あーパパがね。ママは居る?」

「トモコ様はご友人とお買い物に出掛けておられます」

「そっか。色々教えてくれて有難う。門扉を開けて」

「はい! 直ぐに!」

 取りあえず家の中に入った方がいいだろうと、守衛と別れて敷地内を歩き、エントランスに入る。

「マリ!! 無事に戻って来れたんだな! 嬉しいよ!」

 大袈裟な程喜びを表現するのは、マリの父だ。
 守衛から連絡が届いていたからか、待ち構えていたようだ。

「ただいまパパ。私の客人の事は守衛さんから聞いてる? 元宮廷魔法使いのヘイム・センテリスさん。二つの世界を繋ぐゲートを開けれるの」

 父にヘイムの事を紹介すると、彼等は名乗り合い、握手を交わした。

「貴方の事はメイドに任せよう」

「お世話になります」

 風の神を説得したらすぐに向うに戻るつもりなので、もしかしたら出発までの間に父と話せるのは今だけかもしれない。

「パパ、少し時間もらえるかな? 話したい事があるんだよ」

「勿論だとも。私もマリと話したい」

 父は後ろに控えていたメイドに、ヘイムの事を託し、居間へと向かう。

 住み慣れたはずの家なのに、居心地悪く感じるのは、たぶんこれから話をする内容が重いからだ。

 居間のソファセットに向かい合って座る。
 にこやかな父に対し、マリは真顔で話しを切り出した。

「パパは昔、私の記憶の一つを消したね」

「む……。何故それを思い出した?」

「水の神に貰ったスキルのお陰でね」

「ああ……、水の神に会ったのか。彼の事は噂でしか聞いた事がなかったが、過去に関与する様なスキルを付与してくれるようだな。それで思い出してしまったんだな」

 父の回答により、マリの記憶を操作したのが事実だと知る。
 だとすると、芋づる式にグレンに関わる話も全て本当の事になるのだ。

「あのさ、勇者のコピーの研究はまだ続いているの?」

「いや……。66番目の試験体を受け入れてからは、一体も作り出していない」

「その言い方、まるで人間だと思ってないみたい」

「クローン体を人間だと思ったら、研究等出来ないぞ。クローン技術の発展の為には、仕方がなしに自らの心を殺さなければやってられない」

「え……。クローン研究は続けているって事?」

「勇者のクローン体を作り出した時のデータが勿体ないからな。将来この国の規制が緩くなったら本格的に事業化していくつもりだ」

 父のあまりにも心無い言葉に、マリはカッとした。

「最低だよ!! 今すぐそんな研究やめて!」

「すでに巨額の資金を投入しているのだから、今更引く事は出来ない」

「ふざけんな!」

「上に立つ者は、過去の意思決定に責任を持つ必要がある。ここまできたからには引き返せないのだ」

 困り果てた父の顔を、マリは心底憎いと思った。
 なんて情けない大人なんだろうか。

 自分はこんな大人にはなりなくない。そんな想いで口を開く。

「じゃあ、私がやめさせる。組織を変えてやるよ! それがアンタの娘に生まれた使命なんだって、たった今、漸く分かった!」

 自分が動かなければ、不幸が連鎖するかもしれない。
 そう思うと、父の話を聞かなかった事になんて出来なかった。

 本当の夢を叶えるのは、全部終わった後だって遅くないはずなんだ。
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