153 / 156
テスカティア山からニューヨークへ
テスカティア山からニューヨークへ②
しおりを挟む
マリとヘイムがゲートを出ると、そこはセントラルパークに面した道路だった。
「選定者様、ここが貴女が生まれた世界で間違いないですかな?」
「うん。私が生まれた世界だね。一度私が生まれた家に行くよ」
「お付き合い致します」
道路を走るタクシーを停め、二人で乗り込む。
運転手に目的地を告げると、車は滑らかに走り出し、ヘイムは外の風景に感嘆の声を上げた。
「これは! なんという!! 魔法の英知をもってしても、アレほど高い建造物は建てれないでしょう!」
「メチャクチャ高いよね! 私もアッチの世界の建物の小ささに慣れちゃったから、ニューヨークのビルが妙に高く感じるや」
「セバスさんも一緒に来ればよかった気がしますが」
「そーだね。まぁ、彼にも色々あるんじゃないかな?」
セバスちゃんは、一人で王都に向かうアリアを心配し、こちらの世界に戻って来なかった。
アリアの方が彼より数倍強いだろうが、その辺を考えるのは野暮なのかもしれない。
高級ブティックの店舗が並ぶ通りをタクシーで走りぬけ、閑静な住宅街に入る。
久し振りの光景に、漸く戻ってこれたという実感がわいてきた。
向うの世界でやるべき事はまだ沢山残っているが、ちゃんと戻って来れるのだと知れたのは良かった。
感動しきりのヘイムに、街の建造物をアレコレと説明しているうちに、ストロベリーフィールド家の邸宅前に着いた。
マリがタクシーから降り立つと、守衛が慌てた様子で駆け寄って来た。
「マリお嬢様! 失踪されたと聞いておりましたが、ご無事だったのですね! 良かったです!! ……っと、その男性はどなたですか??」
一緒に居るヘイムの服装が、死神かなにかの様なので、守衛の顔には警戒の色が浮かんでいる。
「久し振り。この人はヘイム・センテリスさん。私の客人だから丁重にもてなしてあげて」
「初めまして。ヘイム・センテリスでございます」
「は、はぁ……。マリお嬢様、今日は旦那様がお帰りになっておられます。お顔を見せて、どうか安心させてあげてくださいませ」
「あーパパがね。ママは居る?」
「トモコ様はご友人とお買い物に出掛けておられます」
「そっか。色々教えてくれて有難う。門扉を開けて」
「はい! 直ぐに!」
取りあえず家の中に入った方がいいだろうと、守衛と別れて敷地内を歩き、エントランスに入る。
「マリ!! 無事に戻って来れたんだな! 嬉しいよ!」
大袈裟な程喜びを表現するのは、マリの父だ。
守衛から連絡が届いていたからか、待ち構えていたようだ。
「ただいまパパ。私の客人の事は守衛さんから聞いてる? 元宮廷魔法使いのヘイム・センテリスさん。二つの世界を繋ぐゲートを開けれるの」
父にヘイムの事を紹介すると、彼等は名乗り合い、握手を交わした。
「貴方の事はメイドに任せよう」
「お世話になります」
風の神を説得したらすぐに向うに戻るつもりなので、もしかしたら出発までの間に父と話せるのは今だけかもしれない。
「パパ、少し時間もらえるかな? 話したい事があるんだよ」
「勿論だとも。私もマリと話したい」
父は後ろに控えていたメイドに、ヘイムの事を託し、居間へと向かう。
住み慣れたはずの家なのに、居心地悪く感じるのは、たぶんこれから話をする内容が重いからだ。
居間のソファセットに向かい合って座る。
にこやかな父に対し、マリは真顔で話しを切り出した。
「パパは昔、私の記憶の一つを消したね」
「む……。何故それを思い出した?」
「水の神に貰ったスキルのお陰でね」
「ああ……、水の神に会ったのか。彼の事は噂でしか聞いた事がなかったが、過去に関与する様なスキルを付与してくれるようだな。それで思い出してしまったんだな」
父の回答により、マリの記憶を操作したのが事実だと知る。
だとすると、芋づる式にグレンに関わる話も全て本当の事になるのだ。
「あのさ、勇者のコピーの研究はまだ続いているの?」
「いや……。66番目の試験体を受け入れてからは、一体も作り出していない」
「その言い方、まるで人間だと思ってないみたい」
「クローン体を人間だと思ったら、研究等出来ないぞ。クローン技術の発展の為には、仕方がなしに自らの心を殺さなければやってられない」
「え……。クローン研究は続けているって事?」
「勇者のクローン体を作り出した時のデータが勿体ないからな。将来この国の規制が緩くなったら本格的に事業化していくつもりだ」
父のあまりにも心無い言葉に、マリはカッとした。
「最低だよ!! 今すぐそんな研究やめて!」
「すでに巨額の資金を投入しているのだから、今更引く事は出来ない」
「ふざけんな!」
「上に立つ者は、過去の意思決定に責任を持つ必要がある。ここまできたからには引き返せないのだ」
困り果てた父の顔を、マリは心底憎いと思った。
なんて情けない大人なんだろうか。
自分はこんな大人にはなりなくない。そんな想いで口を開く。
「じゃあ、私がやめさせる。組織を変えてやるよ! それがアンタの娘に生まれた使命なんだって、たった今、漸く分かった!」
自分が動かなければ、不幸が連鎖するかもしれない。
そう思うと、父の話を聞かなかった事になんて出来なかった。
本当の夢を叶えるのは、全部終わった後だって遅くないはずなんだ。
「選定者様、ここが貴女が生まれた世界で間違いないですかな?」
「うん。私が生まれた世界だね。一度私が生まれた家に行くよ」
「お付き合い致します」
道路を走るタクシーを停め、二人で乗り込む。
運転手に目的地を告げると、車は滑らかに走り出し、ヘイムは外の風景に感嘆の声を上げた。
「これは! なんという!! 魔法の英知をもってしても、アレほど高い建造物は建てれないでしょう!」
「メチャクチャ高いよね! 私もアッチの世界の建物の小ささに慣れちゃったから、ニューヨークのビルが妙に高く感じるや」
「セバスさんも一緒に来ればよかった気がしますが」
「そーだね。まぁ、彼にも色々あるんじゃないかな?」
セバスちゃんは、一人で王都に向かうアリアを心配し、こちらの世界に戻って来なかった。
アリアの方が彼より数倍強いだろうが、その辺を考えるのは野暮なのかもしれない。
高級ブティックの店舗が並ぶ通りをタクシーで走りぬけ、閑静な住宅街に入る。
久し振りの光景に、漸く戻ってこれたという実感がわいてきた。
向うの世界でやるべき事はまだ沢山残っているが、ちゃんと戻って来れるのだと知れたのは良かった。
感動しきりのヘイムに、街の建造物をアレコレと説明しているうちに、ストロベリーフィールド家の邸宅前に着いた。
マリがタクシーから降り立つと、守衛が慌てた様子で駆け寄って来た。
「マリお嬢様! 失踪されたと聞いておりましたが、ご無事だったのですね! 良かったです!! ……っと、その男性はどなたですか??」
一緒に居るヘイムの服装が、死神かなにかの様なので、守衛の顔には警戒の色が浮かんでいる。
「久し振り。この人はヘイム・センテリスさん。私の客人だから丁重にもてなしてあげて」
「初めまして。ヘイム・センテリスでございます」
「は、はぁ……。マリお嬢様、今日は旦那様がお帰りになっておられます。お顔を見せて、どうか安心させてあげてくださいませ」
「あーパパがね。ママは居る?」
「トモコ様はご友人とお買い物に出掛けておられます」
「そっか。色々教えてくれて有難う。門扉を開けて」
「はい! 直ぐに!」
取りあえず家の中に入った方がいいだろうと、守衛と別れて敷地内を歩き、エントランスに入る。
「マリ!! 無事に戻って来れたんだな! 嬉しいよ!」
大袈裟な程喜びを表現するのは、マリの父だ。
守衛から連絡が届いていたからか、待ち構えていたようだ。
「ただいまパパ。私の客人の事は守衛さんから聞いてる? 元宮廷魔法使いのヘイム・センテリスさん。二つの世界を繋ぐゲートを開けれるの」
父にヘイムの事を紹介すると、彼等は名乗り合い、握手を交わした。
「貴方の事はメイドに任せよう」
「お世話になります」
風の神を説得したらすぐに向うに戻るつもりなので、もしかしたら出発までの間に父と話せるのは今だけかもしれない。
「パパ、少し時間もらえるかな? 話したい事があるんだよ」
「勿論だとも。私もマリと話したい」
父は後ろに控えていたメイドに、ヘイムの事を託し、居間へと向かう。
住み慣れたはずの家なのに、居心地悪く感じるのは、たぶんこれから話をする内容が重いからだ。
居間のソファセットに向かい合って座る。
にこやかな父に対し、マリは真顔で話しを切り出した。
「パパは昔、私の記憶の一つを消したね」
「む……。何故それを思い出した?」
「水の神に貰ったスキルのお陰でね」
「ああ……、水の神に会ったのか。彼の事は噂でしか聞いた事がなかったが、過去に関与する様なスキルを付与してくれるようだな。それで思い出してしまったんだな」
父の回答により、マリの記憶を操作したのが事実だと知る。
だとすると、芋づる式にグレンに関わる話も全て本当の事になるのだ。
「あのさ、勇者のコピーの研究はまだ続いているの?」
「いや……。66番目の試験体を受け入れてからは、一体も作り出していない」
「その言い方、まるで人間だと思ってないみたい」
「クローン体を人間だと思ったら、研究等出来ないぞ。クローン技術の発展の為には、仕方がなしに自らの心を殺さなければやってられない」
「え……。クローン研究は続けているって事?」
「勇者のクローン体を作り出した時のデータが勿体ないからな。将来この国の規制が緩くなったら本格的に事業化していくつもりだ」
父のあまりにも心無い言葉に、マリはカッとした。
「最低だよ!! 今すぐそんな研究やめて!」
「すでに巨額の資金を投入しているのだから、今更引く事は出来ない」
「ふざけんな!」
「上に立つ者は、過去の意思決定に責任を持つ必要がある。ここまできたからには引き返せないのだ」
困り果てた父の顔を、マリは心底憎いと思った。
なんて情けない大人なんだろうか。
自分はこんな大人にはなりなくない。そんな想いで口を開く。
「じゃあ、私がやめさせる。組織を変えてやるよ! それがアンタの娘に生まれた使命なんだって、たった今、漸く分かった!」
自分が動かなければ、不幸が連鎖するかもしれない。
そう思うと、父の話を聞かなかった事になんて出来なかった。
本当の夢を叶えるのは、全部終わった後だって遅くないはずなんだ。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
努力しても平均的だった俺が異世界召喚された結果
ひむよ
ファンタジー
全てが平均的な少年、山田 涼太。
その少年は努力してもしなくても、何をしても平均的だった。そして少年は中学2年生の時に努力することをやめた。
そのまま成長していき、高校2年生になったとき、あることが起こり少年は全てが異常へと変わった。
それは───異世界召喚だ。
異世界に召喚されたことによって少年は、自分のステータスを確認できるようになった。すぐに確認してみるとその他の欄に平均的1と平均的2というものがあり、それは0歳の時に入手していた!
少年は名前からして自分が平均的なのはこれのせいだと確信した。
だが全てが平均的と言うのは、異世界ではチートだったのだ。
これは平均的で異常な少年が自由に異世界を楽しみ、無双する話である。
hotランキング1位にのりました!
ファンタジーランキングの24hポイントで1位にのりました!
人気ランキングの24hポイントで 3位にのりました!
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る
六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。
だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。
それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。
世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。
快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。
●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる