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テスカティア山からニューヨークへ

テスカティア山からニューヨークへ①

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 マリはセバスちゃんと魔法使いのヘイムと共に、水の神殿へと行き、アリアや水の神と再会した。
 水の神に告げられたのは、テスカティア山にあるオーパーツの所まで行き、修復するか、新しい物を創ってほしいとの事だった。

 水の神とアリアを同行者に加え、マリ達はアダマンタイトを背負って、テスカティア山に登った。途中までは活発化したモンスター達が襲い掛かって来たが、オーパーツに近付くと、その残された浄化作用のお陰なのか、平和が保たれていた。

 王都でグレン達と別れてから三日目で、漸くテスカティア山の山頂に辿り着く。
 目の前にあるのは、ケートスの内部で見た虹色の芍薬がある。しかしそのサイズは二回りも、三回りも小さくなっていて、強い風が吹いたら全壊しそうなほどに頼りなく見える。

「うわぁ、こんなに小さくなっていたとは……」

 マリは急いでアダマンタイトが入った籠を背から下ろし、逆さにして、中身を地面に転がした。

「それでも、凄く綺麗ですわ。この山は立ち入り禁止になっているので、初めてみました」

「これが1000年前の創造物ですか。凄いですねぇ」

 セバスちゃんとアリアも、アダマンタイトを地面に置きながら感嘆の声を漏らした。
 年齢が高いヘイムは、登山で疲れ切ったらしく、少し離れたところで休憩している。

「カミラのオーパーツの隣に新しいやつを創るよ」

「しっかりやんなさいよ!」

 オーパーツを感慨深そうに見ていた水の神が、マリの方を見てウィンクした。
 彼に見せてやりたい。今世のマリも、やる時はやるのだと。
 
「任せてよ」

 マリはスゥ……と空気を吸い込み、両手を広げる。
 すると、周囲に落ちているアダマンタイトが次々に舞い上がり、光に包まれる。
 セバスちゃんとアリアが感嘆の声を上げるのに、集中を乱さないように気を付けながら、形成を始める。

 大量にあるだけあり、形成に時間がかかっているが、アルケウスの模倣自体はスンナリと出来たため、間違いなく成功するはずだ。10分経ち、20分経ち、30分程経過して、漸く一つの巨大な蕾が形づくられた。

 力の使い過ぎで、疲労困憊状態のマリだが、もうひと頑張りする必要がある。
 カミラのオーパーツの横に自分のオーパーツを置き、さらに浄化の力を付与した。

 ほぼ球体だった芍薬の蕾が、柔らかく、そして軽やかにほころび、花の形になっていく。

「流石マリお嬢様ですね。前に置かれたオーパーツよりずっと美しい造作ですよ」

「アンタが貶したオーパーツを創ったの、前世の私みたいだけどね!」

「な、なんと!?」

 大袈裟に驚くセバスちゃんに肩を竦める。
 いつしか傍に寄っていた水の神が、オーパーツを指さした。

「見なさい。お前が創ったオーパーツが浄化を始めているわよ」

 そちらを見てみると、オーパーツの周囲に黒っぽいモヤが集まっていて、虹色の花弁に触れると消え去った。
 浄化の様子を見て、マリは自分が成し遂げた仕事の大きさを知る。

「良くやったわ。頑張ったわね」

「うん! これで私の役割の一つが終わった!」

「後は勇者にアタシ達四神の力を与えるだけね」

「え? 風の神の事まだ知らないの?」

「聞いているわよ。でもお前が選定者としてあの娘を連れ戻してくれるでしょう?」

「ナニソレ!?」

「火の神に聞いたところによると、あの子、お前が生まれ落ちた世界に渡ったらしいじゃない。連れ戻してちょうだいよ」

 薄々分かってはいたが、やはりマリが連れ戻す流れになってしまった。
 王都に居る二人の事を考えると、直ぐに返事が出来ないが、体力を回復させたヘイムが進む出てきて、話の主導権を握った。

「選定者様! オーパーツの創造、見させてもらいましたぞ! 素晴らしい! さぁ、後は私に任せてください!」

「な、何するつもりなの!?」

 何故かテンションが上がっているヘイムに、マリは慌てる。
 彼は疲れすぎて、一周まわって元気になったのだろうか?

「異世界へのゲートを開きます!! 選定者様、一緒に風の神を連れ戻しに行きましょう!!」

「アンタも行くつもりなの!?」

「私も行かなければ、誰がこの世界に戻るためのゲートを開くのですかっ!?」

「あー、それもそうか」

 ヘイムは疲れているにも関わらず、この世界の為に働こうとしている。
 その気持ちが伝わり、マリも自分に出来る最後の事を成し遂げるために動き出そうと腹をくくった。

「分かったよ。アンタが勇気出して世界を渡ると言っているんだから、私も行かないわけにはいかないね。ねぇ、アリア、お願いしたい事があるんだけど!」

「私に? 勿論いいわよ! 何でも言ってちょうだい!」

 オーパーツをウットリと眺めていたアリアは、マリの言葉に嬉しそうに頷いてくれる。

「私、一度元の世界に戻る! でも必ず戻るから……、その事を王都にいるグレンとフレイティア公爵に伝えてほしい!」

「任せてちょうだい!」

 感じの良い返事をもらえ、マリはホッとした。

 ヘイムの朗々とした声が長い詠唱を紡ぐ。時空を捻じ曲げ、ニューヨークに繋がるゲートが開かれようとしているのだ。
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