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火の神殿へ

火の神殿へ⑥

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 不思議な岩の表面に映し出された映像を食い入る様に見つめていたモイスが、マリの方を向く。

「マリ様は風の神さんが居た建物に心当たりありそうやね」

「心当たりがあるどころか、私の生活圏内だよ。アレックスが通う学校でもあるし……。風の神メルクリウスさんは今もアレックスと一緒に居るって事じゃないかな」

 風の神が身に着けていた今ニューヨークで流行っている服装についても、アレックスの家が買い与えたのだとするなら納得出来る。

「そうなんでしょうな。風の大神官は今、風の神さんと交信出来ないかとアノ手コノ手を試してはりますわ。別の世界との交信なんて、本当に可能なんかいな、と思いますけど」

 別世界への交信と聞いて、イメージするのはスマートフォンだ。
 マリはニューヨークに居る時に一度、こちらの世界に居たアレックスからメッセージを貰っている。あのヘタレに出来て自分がまだ出来ていないのが悔しいのだが、一体どの位レベルを上げたら別の世界との交信になるのか、改めて気になり始める。

「アレックスが元の世界へと帰った時点でどのくらいのレベルだったか知ってる?」

「噂で聞いた限りやと、レベル31だったらしいですわ」

「31……」

 マリのレベルは現在26。アレックスとのレベル差は5なわけだが、あと少しで世界をまたいでメッセージを送れるのだろうか?

(アレックスに、風の神だけこの世界に帰す様に伝えたいよなぁ……。でもレベルを5つ上げるって、どの位の労力が必要なんだろ? 私ってそもそも26まで上がるまでどのくらいモンスターを倒したんだっけな……――)

 イブンナ山でアースドラゴンを倒したら、連絡出来るくらいレベルが上がったらいいと、マリはボンヤリと考える。

「――ご存知の通り、世界に風が吹かなくなり、空気の浄化がうまくいっていません。それに瘴気の濃度が急上昇しています」

 モイスと風の神は上の空な状態になったマリを放置し、世情について話題を変えていた。

「あぁ、ここ数百年もの間出現していなかったモンスター等も現れているようだ。そして当代の魔王の元にもぞくぞくと配下が集いつつある」

「えぇ……。北部に位置する小さな村々には、すでに魔王軍に占拠されているのではないかとの情報も来ています。ですから、どうかウルカヌス様。風の神メルクリウス様をこちらに呼び戻す事が出来るのでしたら、お願いしたく……」

「神族同士、身体、行動に影響を与える事は出来ないが……。何か我々に出来る事がないか考えてみよう」

「感謝いたします」

 モイスと火の神のやり取りを聞いていると、この世界が危機的な状況に陥りつつあるのをヒシヒシと感じられた。

(やばいなぁ……。でも私に出来る事は限られてる。焦らずにこなしていこう)

 マリは胸の前で拳を握り、深呼吸した。



 洞窟深層にある聖域から出たマリは、モイスを連れたまま一度キャンプカーに戻り、昼食後にドワーフの里に向けて出発した。

「ドワーフの里の族長? には連絡を入れてくれたんだよね?」

「昨日使いの者を送って、今日訪問すると伝えておきましたわ。――それにしても、このキャンプカーとやらは快適やわ。移動する家ですやん」

 モイスはキャンプカーの中をうろついた後、窓の前で立ち止まった。
 何を見ているのか気になり、彼の隣に並ぶと、ちょうど種類が別々のモンスターが数匹集まり、死闘を繰り広げていた。直ぐにその現場を通り過ぎたものの、モンスター達の行動が妙に引っかかり、モイスに質問する。

「モンスター同士でも対立するんだ?」

「異種でも、同種でも、縄張り争いはしはりますよ。人間とモンスターとの関係と同じですね。今は瘴気の濃度が濃くなっているから、本能に従う様な行動をとるモンスターが多いのかもしれまへんな」

「なるほどね。人間同士でも縄張り争いしたりするし、皆同じか」

「嫌やわ、マリ様。そんな野蛮な行為をしてはりましたの?」

「してないから!」

 モイスの軽いノリにムカつき、マリはジロリと睨み付けた。
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