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水の神殿で残る雑務
水の神殿で残る雑務⑤
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「一応読んだけど、知らない単語が多すぎて何がなんだか」
1000年前の選定者が書き綴ったという石板。それを読んでみると、だいたい3項目はオーパーツの作成に必須といえそうだった。
“イヴンナ山の洞窟で採取出来るアダマンタイトを使う”
”瘴気は、肉体と魂を繋ぐアルケウスに引き寄せられるので、その力を模倣する“
”それは一般的な生命体のアルケウスよりも明らかに強力にする必要がある“
重要そうだというのは分かるのだが、一つとして実行出来そうな事がない。というか、理解出来ないのだ。水の神に正直に伝えてみると、ニンマリと笑われる。
「アダマンタイトは鉱石の名称ね。この世界では随分前から採取されなくなったようだけど……、ここから東の方角にあるドワーフの里に行って、聞いてみるといいかもしれないわ」
「何でドワーフの里に?」
「ドワーフの里はイヴンナ山の麓にあるし、古来よりあの種族は、鉱物の採集と加工を生業としてきた。だから何かしら知ってるのではないかしら」
王都で見た小柄な姿を思い出し、「ふむ……」と頷く。ブチギレられたりもしたけど、うまく交渉出来るだろうか。今から不安だ。
聞いておきたいのは、アダマンタイトだけではない。水の神が居るうちにアルケウスという単語についてもヒントが欲しい。
「アルケウスの模倣ってどうしたらいいの?」
「いやぁねぇ。アタシはやり方を知らないわよ。それを考えるのが錬金術師の仕事じゃないの」
「無理すぎるッッ!!」
マリは一応料理を通して錬金術を使っているらしいが、具体的にどの様に自分の力を行使しているのかはいまだに良く分からない。難易度の高い事なんか出来るわけがない。
「そんなアンタに、ちょうどいいスキルをあげるわ!」
「カリュブディスの浄化のお礼も兼ねて?」
「そうよ。オーパーツの構築にきっと役立つわ。”記憶再生“ならね」
「記憶……再生……?」
水の神が告げたスキル名を、マリは復唱した。
言葉通りなら、そのスキルの使用により、既に消えてしまった記憶を蘇えらせそうである。どんな機能なのかと考えるマリの額に、水の神の手が置かれる。
「あ……」
「マリ・ストロベリーフィールドに恩寵を与える。その魂に刻むはユニークスキル。アタシの求める効果を発現しなさい」
触れられた箇所から大きな力のうねりが流れ込み、マリの身体はポカポカしだした。
(これが、スキルの付与なんだ。なんか、アルコールをチョッピリ飲んだ時みたいな感覚……)
クセになりそうなフワフワ感に、ボゥ……としてしまう。水の神はそんなマリをクスリと笑い、手を離した。
「これでスキルを使えるようになったはずよ」
「どうやって使うの?」
「記憶の再生は、就寝中に起こる。記憶が蘇った認識は、夢の中でなされ、その後は比較的新しい記憶と同様に、単語や五感からの情報で容易に思い出す事が出来るようになるのよ」
「うーん……、分かった様な、分からない様な……」
「一度体験してみたら、どういう事か理解出来ると思うわ」
錬金術のスキルの使用すら意図して出来ているわけじゃないから、若干不安だ。
「さっき訓練中の勇者君に会ったから、あの子にもスキルは渡してある。これで娘を救ってくれた事へのお礼は完了よ。オーパーツの件、目処がついたらまたここに来てちょうだいね」
「目処なんかつかないと思うけどね」
「うふ……。カミラの生まれ変わりなんだから、何とか出来るはずよ」
どこまでも勝手な水の神は、用は済んだとばかりに踵を返し、海の方へと歩いていく。彼が水面に近づくと、ケートスがニョキッと現れ、一柱と一匹は海の中へと共に去ってしまった。
「はぁ……、行っちゃった」
彼から託された物の重さを思うと、ウンザリしてしまう。口を尖らせて、水の神が消えた方向を見つめ続けていると、マリの様子を心配したのか、神殿騎士が話しかけてくる。それに更に辟易とさせられた。
いつまでもそうしているわけにもいかず、マリはキャンプカーに足を運ぶ。
外ではグレンと公爵が訓練中で、マリは彼等に軽く手を上げてから車内に入った。
セバスちゃんが、洗濯物を畳みながら、マリを出迎えてくれる。
「おや、マリお嬢様。神殿でのお話は__むむ!? その瞳の色、どうしたので!?」
「瞳?」
「ええ! 金色になっています。カラーコンタクトですか??」
「そんなの入れてないよッ」
自分の身に何か起きてしまっているようだ。慌てて自室へと走り、鏡を覗き込む。そこに映っていたのは__。
「う、嘘……」
瞳の色は、セバスちゃんが言うように、金色になっていた。マリの元々の瞳の色はこげ茶色だったのに、変化してしまったのだ。理由は一つしか思いつかない。
カリュブディスだ。彼女の瞳の色はちょうどこんな色だったはず。
爪だけならともかく、こんな目立つ部位に人外染みた変化があると大いに困る。
「勝手に人の身体作り変えるなぁぁぁぁああああ!!!!」
1000年前の選定者が書き綴ったという石板。それを読んでみると、だいたい3項目はオーパーツの作成に必須といえそうだった。
“イヴンナ山の洞窟で採取出来るアダマンタイトを使う”
”瘴気は、肉体と魂を繋ぐアルケウスに引き寄せられるので、その力を模倣する“
”それは一般的な生命体のアルケウスよりも明らかに強力にする必要がある“
重要そうだというのは分かるのだが、一つとして実行出来そうな事がない。というか、理解出来ないのだ。水の神に正直に伝えてみると、ニンマリと笑われる。
「アダマンタイトは鉱石の名称ね。この世界では随分前から採取されなくなったようだけど……、ここから東の方角にあるドワーフの里に行って、聞いてみるといいかもしれないわ」
「何でドワーフの里に?」
「ドワーフの里はイヴンナ山の麓にあるし、古来よりあの種族は、鉱物の採集と加工を生業としてきた。だから何かしら知ってるのではないかしら」
王都で見た小柄な姿を思い出し、「ふむ……」と頷く。ブチギレられたりもしたけど、うまく交渉出来るだろうか。今から不安だ。
聞いておきたいのは、アダマンタイトだけではない。水の神が居るうちにアルケウスという単語についてもヒントが欲しい。
「アルケウスの模倣ってどうしたらいいの?」
「いやぁねぇ。アタシはやり方を知らないわよ。それを考えるのが錬金術師の仕事じゃないの」
「無理すぎるッッ!!」
マリは一応料理を通して錬金術を使っているらしいが、具体的にどの様に自分の力を行使しているのかはいまだに良く分からない。難易度の高い事なんか出来るわけがない。
「そんなアンタに、ちょうどいいスキルをあげるわ!」
「カリュブディスの浄化のお礼も兼ねて?」
「そうよ。オーパーツの構築にきっと役立つわ。”記憶再生“ならね」
「記憶……再生……?」
水の神が告げたスキル名を、マリは復唱した。
言葉通りなら、そのスキルの使用により、既に消えてしまった記憶を蘇えらせそうである。どんな機能なのかと考えるマリの額に、水の神の手が置かれる。
「あ……」
「マリ・ストロベリーフィールドに恩寵を与える。その魂に刻むはユニークスキル。アタシの求める効果を発現しなさい」
触れられた箇所から大きな力のうねりが流れ込み、マリの身体はポカポカしだした。
(これが、スキルの付与なんだ。なんか、アルコールをチョッピリ飲んだ時みたいな感覚……)
クセになりそうなフワフワ感に、ボゥ……としてしまう。水の神はそんなマリをクスリと笑い、手を離した。
「これでスキルを使えるようになったはずよ」
「どうやって使うの?」
「記憶の再生は、就寝中に起こる。記憶が蘇った認識は、夢の中でなされ、その後は比較的新しい記憶と同様に、単語や五感からの情報で容易に思い出す事が出来るようになるのよ」
「うーん……、分かった様な、分からない様な……」
「一度体験してみたら、どういう事か理解出来ると思うわ」
錬金術のスキルの使用すら意図して出来ているわけじゃないから、若干不安だ。
「さっき訓練中の勇者君に会ったから、あの子にもスキルは渡してある。これで娘を救ってくれた事へのお礼は完了よ。オーパーツの件、目処がついたらまたここに来てちょうだいね」
「目処なんかつかないと思うけどね」
「うふ……。カミラの生まれ変わりなんだから、何とか出来るはずよ」
どこまでも勝手な水の神は、用は済んだとばかりに踵を返し、海の方へと歩いていく。彼が水面に近づくと、ケートスがニョキッと現れ、一柱と一匹は海の中へと共に去ってしまった。
「はぁ……、行っちゃった」
彼から託された物の重さを思うと、ウンザリしてしまう。口を尖らせて、水の神が消えた方向を見つめ続けていると、マリの様子を心配したのか、神殿騎士が話しかけてくる。それに更に辟易とさせられた。
いつまでもそうしているわけにもいかず、マリはキャンプカーに足を運ぶ。
外ではグレンと公爵が訓練中で、マリは彼等に軽く手を上げてから車内に入った。
セバスちゃんが、洗濯物を畳みながら、マリを出迎えてくれる。
「おや、マリお嬢様。神殿でのお話は__むむ!? その瞳の色、どうしたので!?」
「瞳?」
「ええ! 金色になっています。カラーコンタクトですか??」
「そんなの入れてないよッ」
自分の身に何か起きてしまっているようだ。慌てて自室へと走り、鏡を覗き込む。そこに映っていたのは__。
「う、嘘……」
瞳の色は、セバスちゃんが言うように、金色になっていた。マリの元々の瞳の色はこげ茶色だったのに、変化してしまったのだ。理由は一つしか思いつかない。
カリュブディスだ。彼女の瞳の色はちょうどこんな色だったはず。
爪だけならともかく、こんな目立つ部位に人外染みた変化があると大いに困る。
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