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化け物に食わせるB級グルメ
化物に食わせるB級グルメ⑤
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五分程前、先行していた舟がいきなりスピードを上げ、マリ達が乗る舟を引き離した。
何事かと、こちらも漕ぐ速度を上げてもらったのだが、聖域まであと100m程という地点まで来た時、前方に大量の水が噴き上がり、停止せざるをえなくなった。
(グレンがもう戦ってるんだ!!)
目を凝らすと、派手に飛び散る水飛沫の向こうに、グレンらしき人の姿が確認できた。そして、海から姿を現したカリュブディスの禍々しさ……。震えそうになる。でも、化物の頭部にグレンが降り立つのを見て、腹が据わった。
マリは目を限界まで見開き、その両者をシッカリと見つめた。
「ど……どうしますか?」
神殿騎士が震える声でマリに問いかけた。
そんなの決まってる。
マリは手を握り締めて立ち上がった。
「行こう! グレンが一番危険な所で頑張ってるのに、私達が怖気付いてられないでしょ!!」
舟の上は一瞬静まり返った。黒き異形の姿を目にし、完全にビビってしまってた者が複数名居るようだ。しかし……。
「カリュブディスの攻撃は、僕が防ぎきってみせるよ。君達は自分の役割を果たすんだ」
公爵が珍しく厳しい口調で、船員に命じた。
彼が右手を前にかざし、魔法の障壁を展開してくれると、舟がゆらゆらと動きだす。神殿騎士の一人がオールを漕ぎ出したのだ。
「今この場に居るのはっ! 僕達が抱え込む問題を片付けるためだ! それなのに僕達が尻込みしてどうするんだよ!」
彼の、ほとんど怒声と言っていい口調で放たれた言葉に、他の面々は顔を赤くしてオールを漕ぎ出した。自分達の命を優先しようと考えた事を恥じているのかもしれない。
バトル地点に近付く程に、障壁には土砂降りの雨の様に水が降り注ぐ。
牽引する舟が気になり、振り返ってみると、そちらにもちゃんと障壁が張られていたので、マリは胸を撫で下ろした。
前を行っていた舟に追いつく。そちらではモイスが不機嫌丸出しで障壁を張り、アリアが投石器でカレーマンを投げていた。
こちらの舟の面々と向こうの舟のメンバーは各々目を合わせ、頷き合う。
「マリ。カレーマンは一つも食べさせられてないわ。貴女も加勢してちょうだい!」
「そのつもりだよ! セバスちゃん、準備はどう!?」
「万端ですよ!!」
セバスちゃんは船尾から細長いノズルを二つ持ってきて、そのうち一つをマリに渡す。
このノズルは、後方の舟の中に入れたエンジンポンプに繋げたホースの先に付いている。レバーを引けば、ワインを高圧で遠くに飛ばせるらしい。
二人でカリュブディスの様子を注視し、隙を窺う。
「化物の頭がこちらを向いたら、障壁を解除するよ」
公爵がマリ達の準備が整ったのを確認し、二人に声をかける。
「分かった!」「了解です」
カリュブディスはちょうど海の中に潜ったところだった。直ぐに蛇の様な尾が海中から出て、水面を叩く。間髪置かずに、飛び出してきた頭部が大波を生み、マリ達の乗る舟はグンッと高く上がった。
「……つぅ」
これ程荒れては、立っていられない。舟のヘリに必死に捕まるが。身体のアチコチを打ち付けてしまい、痛みに呻く。
上体を起こし、バトル地点を確認すると、カリュブディスがグレンを噛みちぎろうとしていた。
(グレン!)
彼は何とか剣で防いでいるが、劣勢に見える。今にもグレンが死んでしまいそうで、心臓が縮む。
こちらに背を向け、カリュブディスにジワジワと押されて__いや、違う。化物の巨大な口をマリ達が狙いやすい様に動いてくれている!
「公爵、障壁を解除して!」
「え、でも……」
「早く!」
「分かったよ!」
公爵はマリの訴えを聞き、右手を下ろした。
戦闘音がクリアに聞こえだし、水飛沫が容赦無く身体を濡らす。だけどそんな事気にしていられない!
ノズルのレバーを引くと、血液の様に赤い液体が噴出する。それをカリュブディスの大きく開いた口に食らわせた。マリの隣に立ったセバスちゃんも同じ様に狙いをつけ、赤い水泡をもう一発発射した。
カリュブディスの動きが一瞬止まる。
(うまくいった……?)
しかし、その巨体は大きくのたうち回り、激しい波がマリ達を濡らす。
公爵が声を張り上げた。
「一度中断で!」
舟はもう一度障壁に覆われる。水飛沫で障壁が曇り、外が見えなくなる。再び見える様になるまで、マリは障壁に張り付いて待つ。
心配でならない。あの海の状態で、グレンが無事なのだろうか?
早く早くと念じる。
何十秒間が永遠にも思えた頃に、漸く外が見えた。
海の上に、アイスリンクが出来ていた。その上にカリュブディスが打ち上げられ、ビダンビダンッと跳ねている。
(あれ……? カリュブディスの身体、少し小さくなった?)
「障壁を解除するよ!」
公爵が、外の安全を確認し、障壁を取り外した。マリは首を回し、グレンの姿を探す。
(いた!!)
カリュブディスの影になって見え辛いが、グレンが中腰で立っていた。彼は氷の床に剣を突き立て、肩で息をしている。
ホッとするが、呑気に見守り続けるわけにはいかない。
「舟をあそこにつけて! 私達も凍っている海の所に行くよ!」
「「「了解(です)!!!」」」
何事かと、こちらも漕ぐ速度を上げてもらったのだが、聖域まであと100m程という地点まで来た時、前方に大量の水が噴き上がり、停止せざるをえなくなった。
(グレンがもう戦ってるんだ!!)
目を凝らすと、派手に飛び散る水飛沫の向こうに、グレンらしき人の姿が確認できた。そして、海から姿を現したカリュブディスの禍々しさ……。震えそうになる。でも、化物の頭部にグレンが降り立つのを見て、腹が据わった。
マリは目を限界まで見開き、その両者をシッカリと見つめた。
「ど……どうしますか?」
神殿騎士が震える声でマリに問いかけた。
そんなの決まってる。
マリは手を握り締めて立ち上がった。
「行こう! グレンが一番危険な所で頑張ってるのに、私達が怖気付いてられないでしょ!!」
舟の上は一瞬静まり返った。黒き異形の姿を目にし、完全にビビってしまってた者が複数名居るようだ。しかし……。
「カリュブディスの攻撃は、僕が防ぎきってみせるよ。君達は自分の役割を果たすんだ」
公爵が珍しく厳しい口調で、船員に命じた。
彼が右手を前にかざし、魔法の障壁を展開してくれると、舟がゆらゆらと動きだす。神殿騎士の一人がオールを漕ぎ出したのだ。
「今この場に居るのはっ! 僕達が抱え込む問題を片付けるためだ! それなのに僕達が尻込みしてどうするんだよ!」
彼の、ほとんど怒声と言っていい口調で放たれた言葉に、他の面々は顔を赤くしてオールを漕ぎ出した。自分達の命を優先しようと考えた事を恥じているのかもしれない。
バトル地点に近付く程に、障壁には土砂降りの雨の様に水が降り注ぐ。
牽引する舟が気になり、振り返ってみると、そちらにもちゃんと障壁が張られていたので、マリは胸を撫で下ろした。
前を行っていた舟に追いつく。そちらではモイスが不機嫌丸出しで障壁を張り、アリアが投石器でカレーマンを投げていた。
こちらの舟の面々と向こうの舟のメンバーは各々目を合わせ、頷き合う。
「マリ。カレーマンは一つも食べさせられてないわ。貴女も加勢してちょうだい!」
「そのつもりだよ! セバスちゃん、準備はどう!?」
「万端ですよ!!」
セバスちゃんは船尾から細長いノズルを二つ持ってきて、そのうち一つをマリに渡す。
このノズルは、後方の舟の中に入れたエンジンポンプに繋げたホースの先に付いている。レバーを引けば、ワインを高圧で遠くに飛ばせるらしい。
二人でカリュブディスの様子を注視し、隙を窺う。
「化物の頭がこちらを向いたら、障壁を解除するよ」
公爵がマリ達の準備が整ったのを確認し、二人に声をかける。
「分かった!」「了解です」
カリュブディスはちょうど海の中に潜ったところだった。直ぐに蛇の様な尾が海中から出て、水面を叩く。間髪置かずに、飛び出してきた頭部が大波を生み、マリ達の乗る舟はグンッと高く上がった。
「……つぅ」
これ程荒れては、立っていられない。舟のヘリに必死に捕まるが。身体のアチコチを打ち付けてしまい、痛みに呻く。
上体を起こし、バトル地点を確認すると、カリュブディスがグレンを噛みちぎろうとしていた。
(グレン!)
彼は何とか剣で防いでいるが、劣勢に見える。今にもグレンが死んでしまいそうで、心臓が縮む。
こちらに背を向け、カリュブディスにジワジワと押されて__いや、違う。化物の巨大な口をマリ達が狙いやすい様に動いてくれている!
「公爵、障壁を解除して!」
「え、でも……」
「早く!」
「分かったよ!」
公爵はマリの訴えを聞き、右手を下ろした。
戦闘音がクリアに聞こえだし、水飛沫が容赦無く身体を濡らす。だけどそんな事気にしていられない!
ノズルのレバーを引くと、血液の様に赤い液体が噴出する。それをカリュブディスの大きく開いた口に食らわせた。マリの隣に立ったセバスちゃんも同じ様に狙いをつけ、赤い水泡をもう一発発射した。
カリュブディスの動きが一瞬止まる。
(うまくいった……?)
しかし、その巨体は大きくのたうち回り、激しい波がマリ達を濡らす。
公爵が声を張り上げた。
「一度中断で!」
舟はもう一度障壁に覆われる。水飛沫で障壁が曇り、外が見えなくなる。再び見える様になるまで、マリは障壁に張り付いて待つ。
心配でならない。あの海の状態で、グレンが無事なのだろうか?
早く早くと念じる。
何十秒間が永遠にも思えた頃に、漸く外が見えた。
海の上に、アイスリンクが出来ていた。その上にカリュブディスが打ち上げられ、ビダンビダンッと跳ねている。
(あれ……? カリュブディスの身体、少し小さくなった?)
「障壁を解除するよ!」
公爵が、外の安全を確認し、障壁を取り外した。マリは首を回し、グレンの姿を探す。
(いた!!)
カリュブディスの影になって見え辛いが、グレンが中腰で立っていた。彼は氷の床に剣を突き立て、肩で息をしている。
ホッとするが、呑気に見守り続けるわけにはいかない。
「舟をあそこにつけて! 私達も凍っている海の所に行くよ!」
「「「了解(です)!!!」」」
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