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夕空の下で食べるスパイスカレー
夕空の下で食べるスパイスカレー⑥
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フライパンの中にスライスした玉ねぎを加えた後、冷蔵庫の中から壺を二つ取り出す。王都で買って来たヨーグルトとバターだ。これら乳製品が普通に売られているのに驚いたが、考えてみると地球でも紀元前から食べられている。文化のレベルが低めのこの世界で普及していても、おかしな事ではない。
(スパイスカレーにはヨーグルトを入れないと!)
摩り下ろしたニンニクと生姜を投入し、香りをたたせてから、ヨーグルトとトマトを入れる。
コンロを強火に調整していると、グレンが戻って来た。
髪はちゃんと乾いたみたいなので、もう手伝ってもらってもいいだろう。
「グレン。フライパンで白米を炒めてもらってもいい?」
「白米を……?」
「うん。アンタはターメリックライス係に任命する!」
マリはビシリとグレンを指差して宣言し、ターメリックパウダーの小瓶とバターの壺を手渡した。
「バターをフライパンの上で溶かしてから、米を入れて炒めてね。米の分量は__」
「なんで米を炒める必要が? いつもはそのまま炊いてるのに」
「ターメリックライスをパラリと仕上げたいから!」
「パラリ? そうなんだ……」
納得したのかしてないのか不明だが、棚からステンレスボールと計量カップを取ったので、分量を伝える。
カレーの方の作業も進めたいため、マリは再びコンロに火をつけた。暫く炒めると、フライパンの中で具材と油が分離してくる。いい感じだ。
ターメリックやレッドペッパー等のパウダースパイスを加える。
フライパンから立ち昇る香りが一気にカレー特有のものになった。
グレンがバターを溶かし始めたタイミングとも重なり、キャンプカーの中は、空腹な者にとっての地獄と化した。
「うー、お腹空いたな」
「……昼から色々あったしね」
「ありすぎだ! 今日は早めに寝てしまおう」
「片付けは僕に任せてくれていいよ」
「!」
よく出来た男である。マリは感心してグレンの整った顔をマジマジと見た。
「何?」
「別にー。フライパンの中の米が透明になったら教えて」
「うん? 了解……」
(グレン、ニューヨークに戻ったら結構モテモテになりそうだなー。今ってちょっとナヨっとした奴でも需要あるからな)
ちょっと面白くない気分になる。恐らく、グレンには人気度合いで負けるだろうから、異世界に居る今から嫉妬しているのだろう。
マリは自分の心の狭さに呆れる。
(アレックスが婚約者じゃなくなったら、私もモテるかもしれないし!)
そう考えると、ツマラナイ気分が少し解消された。
塩揉みしておいたロック鳥の肉をフライパンに入れ、色が変わるまで熱し続ける。その間にグレンにターメリックライスを土鍋に移して、火にかけてもらう。それが完了するのを見届けた後、マリは彼に休憩するように言った。
口に出さないが、疲れているだろう。無理はさせたくない。
スパイスカレーも煮込みの段階になったところで、ポケットに入れているスマホが振動した。
この世界に来てから、震える頻度が極端に減っていたので、マリは軽く飛び上がった。
ポケットからスマホを取り出す。
正直、画面を見なくても誰からのメッセージが届いたか分かる。この世界でマリに送ってこれるのはアイツしかいないからだ。
開いた画面に“アレックス”の名前を確認し、マリは唇をへの字に曲げた。
“ロック鳥とかいう凶暴なモンスターの群れに襲われて、もう二時間も馬車に引きこもっているよ! 優秀な冒険者達だって聞いてたのに、こんなに手こずるだなんて! もしかしたらコイツらは伝説級のモンスターなのかもしれないよ!”
メッセージを読み、首を傾げる。
確かに自分達もここに来るまでの間、ロック鳥から襲撃を受けたし、その肉は現在フライパンの中だ。
卵を温めていた個体を残して全て片付けたと思ったのに、違っていたのだろうか?
(ロック鳥が他の場所に居たか、アレックス達が私達と別ルートから来ているのかな?)
向こうはマリ達の何倍もの人数でこちらに来る予定と聞いている。それでも苦戦しているのは、それ程多くのロック鳥に襲われてしまっているからだろう。実戦経験が少ないアレックスにはキツイかもしれない。
(お気の毒様)
マリは苦笑いし、アレックスに返信してやった。
“私達も昨夜ロック鳥の群れに襲われたけど、無事に水の神殿に着いたよ。それとケートスの討伐はしなくてよくなったー。アンタは無理に来なくてもいいかも?”
(スパイスカレーにはヨーグルトを入れないと!)
摩り下ろしたニンニクと生姜を投入し、香りをたたせてから、ヨーグルトとトマトを入れる。
コンロを強火に調整していると、グレンが戻って来た。
髪はちゃんと乾いたみたいなので、もう手伝ってもらってもいいだろう。
「グレン。フライパンで白米を炒めてもらってもいい?」
「白米を……?」
「うん。アンタはターメリックライス係に任命する!」
マリはビシリとグレンを指差して宣言し、ターメリックパウダーの小瓶とバターの壺を手渡した。
「バターをフライパンの上で溶かしてから、米を入れて炒めてね。米の分量は__」
「なんで米を炒める必要が? いつもはそのまま炊いてるのに」
「ターメリックライスをパラリと仕上げたいから!」
「パラリ? そうなんだ……」
納得したのかしてないのか不明だが、棚からステンレスボールと計量カップを取ったので、分量を伝える。
カレーの方の作業も進めたいため、マリは再びコンロに火をつけた。暫く炒めると、フライパンの中で具材と油が分離してくる。いい感じだ。
ターメリックやレッドペッパー等のパウダースパイスを加える。
フライパンから立ち昇る香りが一気にカレー特有のものになった。
グレンがバターを溶かし始めたタイミングとも重なり、キャンプカーの中は、空腹な者にとっての地獄と化した。
「うー、お腹空いたな」
「……昼から色々あったしね」
「ありすぎだ! 今日は早めに寝てしまおう」
「片付けは僕に任せてくれていいよ」
「!」
よく出来た男である。マリは感心してグレンの整った顔をマジマジと見た。
「何?」
「別にー。フライパンの中の米が透明になったら教えて」
「うん? 了解……」
(グレン、ニューヨークに戻ったら結構モテモテになりそうだなー。今ってちょっとナヨっとした奴でも需要あるからな)
ちょっと面白くない気分になる。恐らく、グレンには人気度合いで負けるだろうから、異世界に居る今から嫉妬しているのだろう。
マリは自分の心の狭さに呆れる。
(アレックスが婚約者じゃなくなったら、私もモテるかもしれないし!)
そう考えると、ツマラナイ気分が少し解消された。
塩揉みしておいたロック鳥の肉をフライパンに入れ、色が変わるまで熱し続ける。その間にグレンにターメリックライスを土鍋に移して、火にかけてもらう。それが完了するのを見届けた後、マリは彼に休憩するように言った。
口に出さないが、疲れているだろう。無理はさせたくない。
スパイスカレーも煮込みの段階になったところで、ポケットに入れているスマホが振動した。
この世界に来てから、震える頻度が極端に減っていたので、マリは軽く飛び上がった。
ポケットからスマホを取り出す。
正直、画面を見なくても誰からのメッセージが届いたか分かる。この世界でマリに送ってこれるのはアイツしかいないからだ。
開いた画面に“アレックス”の名前を確認し、マリは唇をへの字に曲げた。
“ロック鳥とかいう凶暴なモンスターの群れに襲われて、もう二時間も馬車に引きこもっているよ! 優秀な冒険者達だって聞いてたのに、こんなに手こずるだなんて! もしかしたらコイツらは伝説級のモンスターなのかもしれないよ!”
メッセージを読み、首を傾げる。
確かに自分達もここに来るまでの間、ロック鳥から襲撃を受けたし、その肉は現在フライパンの中だ。
卵を温めていた個体を残して全て片付けたと思ったのに、違っていたのだろうか?
(ロック鳥が他の場所に居たか、アレックス達が私達と別ルートから来ているのかな?)
向こうはマリ達の何倍もの人数でこちらに来る予定と聞いている。それでも苦戦しているのは、それ程多くのロック鳥に襲われてしまっているからだろう。実戦経験が少ないアレックスにはキツイかもしれない。
(お気の毒様)
マリは苦笑いし、アレックスに返信してやった。
“私達も昨夜ロック鳥の群れに襲われたけど、無事に水の神殿に着いたよ。それとケートスの討伐はしなくてよくなったー。アンタは無理に来なくてもいいかも?”
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