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水の神殿で待ち受ける脅威
水の神殿で待ち受ける脅威⑧
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ロック鳥の襲撃を受けた次の日の早朝、キャンプカーは西に向かってひた走る。
マリは窓から見える砂丘の風景を眺めながら、のんびりと朝食作りをしている。キッチンスペースに来てまず驚かされたのは、カウンターにズラリと並んだ肉塊だった。公爵は宣言通り、昨夜ロック鳥を解体してくれ、巨大な氷(魔法で出したと思われる)で冷していてくれたのだ。
試しに一口分だけ切ると、血抜きは完璧で、状態はかなりいい。それを塩胡椒だけで焼き、食べてみる。
まず、その味の濃厚さに驚く。地鶏の様でもあるし、雉(キジ)っぽさもある。でも少々野生的な匂いが鼻を付き、苦手な人は拒絶しそうな感じだ。
(うーん。やっぱ野生の生き物の肉は臭み取りが大事だね)
肉の表面に塩胡椒を振りかけ、馴染ませる。フライパンを熱して、オリーブオイルにニンニクの香りを移し、そこにロック鳥の肉をジュワジュワいわせながら静かに置き、上からオレンジの皮を摩り下ろす。さらに王都で買ってきたタイムの鉢植えから葉っぱを千切り、洗ってから、フライパンの中に投入した。
キャンプカーの中に、焼いた肉や、爽やかなハーブの香りが漂う。運転席まで匂いが届いたのか、セバスちゃんが、テンション高めに「腹が減ってきます!」と叫び声を上げた。
マリはプッと吹き出してから、フライパンをアルミホイルで蓋をする。
オーブンに投入し、焼き時間を指定。後は文明の力が上手いこと調理してくれるだろう。
次に、別のフライパンで発酵させておいたパン生地をコンロで弱火にかけ、一度運転席に顔を出した。
「セバスちゃん、水の神殿には後どのくらいで着く?」
「後100km程のようですね。一時間半くらいでしょう」
「だいぶ進んだなぁ。っていうか、アンタ何時から運転してたの? 私が起きた時にはもうキャンプカーが動いてたけど」
「午前四時起きです! この世界に来てから健康な生活が出来てるんで、最近だと年寄並みに早く目が覚めるんですよね。しかし、早く起きすぎても暇を潰せるものもないんで、こうして運転するしかないんですよ」
「確かに。娯楽になりそうな物を持ってきてないもんね。私は料理で楽しんでるからまぁまぁ充実してるけど」
「先程からとんでもなくいい香りがしてますけど、何を作ってるんです?」
「ジビエ料理っぽい物? 昨日のロック鳥を朝食にと思ってね。肉が新鮮なうちに皆に振る舞いたいんだ」
「ジビエ! 我々の手で獲物を仕留め、その肉を食らう! 今こそ狩猟民族としての本能を目覚めさせる時!」
セバスちゃんは何を興奮しているのか、手を握りしめ、叫び声を上げる。言ってる事はよく分からないけど、喜んでくれる人がいるのはいいものだ。
「野生の生き物の調理って面白い! 個体によって味や食感が全然違うんだ。ちゃんと個性あるってところが、生き物の命をいただいてる感じがするんだよ」
「養殖産とは全く異なるのですね! ジビエ料理を食べまくってニューヨークに帰った暁には、野生のシティボーイとして、モテモテに!!」
「シ、シティボーイ、ってアンタ……」
朝6時とは思えない程ハイテンションで喋りまくる二人だったが、カーブを曲がった後に、いきなり広がった光景に目を奪われた。
「海だ!!」
コバルトブルーの海。
光の関係なのか、それとも水質が影響しているのか、驚く程に綺麗な色合いだ。
ニューヨークの海とは全然違い、二人で歓声を上げる。
「一瞬ハワイに迷いこんだのかと思いました。いやぁ、いいですね。解放感が凄い」
「ちょっとだけでも泳げないかな!? あ、別に遊びたいわけじゃないよ!? もしかしたら泳がないと移動出来ない場所があるかもしれないって思っただけ!」
「この季節には泳がない方がいいと思う……」
後ろから聞こえた第三者の声にビクリとする。振り返ると、グレンが眠そうな顔で立っていた。
「なんだ。驚かせないでよ。おはよう」
「おはよう。マリさん、セバスさん」
「おはようございます。グレン殿」
「コンロに火がついてるけど、大丈夫?」
「あ! そろそろ裏返さないと!」
海にテンションが上がって、フライパンでちぎりパンを焼いているのを忘れてしまうところだった。マリは慌ててキッチンスペースに戻った。
ちぎりパンが焼けると、見計らった様なタイミングで公爵が起きて来たので、四人で海を見ながら、ロック鳥のローストをメインにした朝食を楽しんだ。
オレンジピールとハーブで臭みを消したのは大正解だった。モンスターとは思えないくらいに上品に仕上がった一品は、マリ以外の三人にも好評で、一流レストランの味とまで言われてしまった。
(ロック鳥の肉、まだ大量にあるけど、これなら全部食べきれそうかな)
「見て、マリちゃん。沖の方に塔があるだろう? あれが水の神殿だよ」
運転席に座る公爵が前方を指差す。
海の中に道があった。遠浅の海なのだろうか?
その道の先にある輝く塔は遠目にも神々しい。
マリは窓から見える砂丘の風景を眺めながら、のんびりと朝食作りをしている。キッチンスペースに来てまず驚かされたのは、カウンターにズラリと並んだ肉塊だった。公爵は宣言通り、昨夜ロック鳥を解体してくれ、巨大な氷(魔法で出したと思われる)で冷していてくれたのだ。
試しに一口分だけ切ると、血抜きは完璧で、状態はかなりいい。それを塩胡椒だけで焼き、食べてみる。
まず、その味の濃厚さに驚く。地鶏の様でもあるし、雉(キジ)っぽさもある。でも少々野生的な匂いが鼻を付き、苦手な人は拒絶しそうな感じだ。
(うーん。やっぱ野生の生き物の肉は臭み取りが大事だね)
肉の表面に塩胡椒を振りかけ、馴染ませる。フライパンを熱して、オリーブオイルにニンニクの香りを移し、そこにロック鳥の肉をジュワジュワいわせながら静かに置き、上からオレンジの皮を摩り下ろす。さらに王都で買ってきたタイムの鉢植えから葉っぱを千切り、洗ってから、フライパンの中に投入した。
キャンプカーの中に、焼いた肉や、爽やかなハーブの香りが漂う。運転席まで匂いが届いたのか、セバスちゃんが、テンション高めに「腹が減ってきます!」と叫び声を上げた。
マリはプッと吹き出してから、フライパンをアルミホイルで蓋をする。
オーブンに投入し、焼き時間を指定。後は文明の力が上手いこと調理してくれるだろう。
次に、別のフライパンで発酵させておいたパン生地をコンロで弱火にかけ、一度運転席に顔を出した。
「セバスちゃん、水の神殿には後どのくらいで着く?」
「後100km程のようですね。一時間半くらいでしょう」
「だいぶ進んだなぁ。っていうか、アンタ何時から運転してたの? 私が起きた時にはもうキャンプカーが動いてたけど」
「午前四時起きです! この世界に来てから健康な生活が出来てるんで、最近だと年寄並みに早く目が覚めるんですよね。しかし、早く起きすぎても暇を潰せるものもないんで、こうして運転するしかないんですよ」
「確かに。娯楽になりそうな物を持ってきてないもんね。私は料理で楽しんでるからまぁまぁ充実してるけど」
「先程からとんでもなくいい香りがしてますけど、何を作ってるんです?」
「ジビエ料理っぽい物? 昨日のロック鳥を朝食にと思ってね。肉が新鮮なうちに皆に振る舞いたいんだ」
「ジビエ! 我々の手で獲物を仕留め、その肉を食らう! 今こそ狩猟民族としての本能を目覚めさせる時!」
セバスちゃんは何を興奮しているのか、手を握りしめ、叫び声を上げる。言ってる事はよく分からないけど、喜んでくれる人がいるのはいいものだ。
「野生の生き物の調理って面白い! 個体によって味や食感が全然違うんだ。ちゃんと個性あるってところが、生き物の命をいただいてる感じがするんだよ」
「養殖産とは全く異なるのですね! ジビエ料理を食べまくってニューヨークに帰った暁には、野生のシティボーイとして、モテモテに!!」
「シ、シティボーイ、ってアンタ……」
朝6時とは思えない程ハイテンションで喋りまくる二人だったが、カーブを曲がった後に、いきなり広がった光景に目を奪われた。
「海だ!!」
コバルトブルーの海。
光の関係なのか、それとも水質が影響しているのか、驚く程に綺麗な色合いだ。
ニューヨークの海とは全然違い、二人で歓声を上げる。
「一瞬ハワイに迷いこんだのかと思いました。いやぁ、いいですね。解放感が凄い」
「ちょっとだけでも泳げないかな!? あ、別に遊びたいわけじゃないよ!? もしかしたら泳がないと移動出来ない場所があるかもしれないって思っただけ!」
「この季節には泳がない方がいいと思う……」
後ろから聞こえた第三者の声にビクリとする。振り返ると、グレンが眠そうな顔で立っていた。
「なんだ。驚かせないでよ。おはよう」
「おはよう。マリさん、セバスさん」
「おはようございます。グレン殿」
「コンロに火がついてるけど、大丈夫?」
「あ! そろそろ裏返さないと!」
海にテンションが上がって、フライパンでちぎりパンを焼いているのを忘れてしまうところだった。マリは慌ててキッチンスペースに戻った。
ちぎりパンが焼けると、見計らった様なタイミングで公爵が起きて来たので、四人で海を見ながら、ロック鳥のローストをメインにした朝食を楽しんだ。
オレンジピールとハーブで臭みを消したのは大正解だった。モンスターとは思えないくらいに上品に仕上がった一品は、マリ以外の三人にも好評で、一流レストランの味とまで言われてしまった。
(ロック鳥の肉、まだ大量にあるけど、これなら全部食べきれそうかな)
「見て、マリちゃん。沖の方に塔があるだろう? あれが水の神殿だよ」
運転席に座る公爵が前方を指差す。
海の中に道があった。遠浅の海なのだろうか?
その道の先にある輝く塔は遠目にも神々しい。
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