上 下
73 / 156
魚は食いますが、トカゲに用はありません!

魚は食いますが、トカゲに用はありません!④

しおりを挟む
「……どちらも初めての食べ物だわ。どこの国の料理なのかしら?」

 アリアはつみれ汁と梅干しを乗せた白飯を見て、戸惑った様に視線を泳がせた。見覚えの無い食べ物ばかり出され、警戒しているのかもしれない。

「これは私のママが生まれ育った国の料理だよ。まぁ、国って言っても、この世界とは別の世界なんだけどね」

「貴女は別の世界から来たの?」

「うん。私の服装とか、今居る部屋にある家具のいくつかを見た事ないでしょ?」

「そうなのよ。だからとても混乱してしまって……。あ、誤解しないでちょうだい。フレイティア公爵が連れている方だから、怪しんではいなかったのよ。でも、異世界から来たと言うなら、風変わりなのにも納得だわ」

 早くも公爵を連れて来た効果が現れた。社会的地位が高い人が居ると、話がスムーズでいい。ただ、まぁ、彼が居なかったら、アリアは早々に立ち去っただろうけども……。

「取り敢えず、それ食べてみて。異物は入ってないからさ」

「えぇ。ではお言葉に甘えて……」

 箸は使えないだろうから、フォークとスプーンを用意した。
 彼女は美しい所作でスプーンを扱い、お椀の中のつみれを口に運ぶ。

 つみれ汁は公爵から好評だったので、この世界の人達に全然ウケないわけではないと分かっている。だけど、人の味覚は様々だし、アリアにとって受け付けない味の可能性もある。はたしてどっちだろうか?

 彼女は激しく瞬きし、ゆっくりと、慎重に咀嚼した。
 その様子をマリはチョコチップクッキーに夢中なフリをしながら観察する。

「……おい……しい?」

 ごくりと飲み込み、意外だとばかりに感想を言う。マリは密かに感心した。彼女は思ったよりも柔軟な人間なのだ。

「具だけじゃなくて、スープも飲んでみて。つみれから出た出汁のおかげでかなり美味しくなってる」

「つみれ? 出汁? 貴女の話の内容は、さっぱり分からないのだけど、言われた通りに食べてみるわ」

 アリアはスプーンでスープをすくい、ほんの一口だけ飲み込む。
 ワナワナと震え出したのは、気に入らなかったからなのだろうか?

「駄目だった?」

「いいえ!! 素晴らしいスープだわ! こんなに味わい深い料理が存在するだなんて! スプーンでチマチマと食べてなどいられないわ!」


 アリアはガチャンとスプーンを置き、お椀を口に持っていく。フォークでワイルドにかき込む様は、マリより日本人的な食べ方だ。その姿に感動しつつ、白飯を薦める。きっとこちらも受け入れられるだろう。

「この白い食べ物、ご飯って言うんだけど、そのスープと相性バツグンだよ。赤くて丸いのは、口に合わなかったら残して」

 アリアの目がキラリと光る。
 乱暴にお椀を置き、今度はご飯をガツガツと食べだした。さっきの楚々としたお嬢様はどこへ行ってしまったのか。でもこういう姿の方が好ましい。気持ちのいい食べっぷりは見る価値がある。

(いい絵面だ……)

「うぐ!? この赤いの、とてつもない酸味だわ! でも、ご飯とやらで誤魔化せる……、ていうか、美味ですらあるような!?    嗚呼、なんて事なの! 食の神が舞い降りたみたい!」

 梅干しもクリアしたらしい。「無くなってしまった」とションボリとお椀を見るアリアの為に、マリはキッチンスペースからおかわりを持ってきてやる。

「有難う! 美味しくて、しかも栄養も考えられてて……、貴女はきっと名のある料理人なのでしょうね」

「無名だけど、その言葉だけで幾らでも親切に出来そう」

 手放しで褒められ、感謝されるとやはり恥ずかしい。微妙に可愛くない言葉を言ってしまうマリであった。

「ここ数日、碌な食事をしていなかったのよ。だから生き返る感覚だわ」

「食事を疎かにしちゃったのは、盗人を追いかけるのに忙しかったから?」

「そうなのよ。十日程前に、急にリザードマンの集団が水の神殿に侵入して、神器を奪って行った……、って、水の神器は今どこに!?」

「公爵が秘宝だと教えてくれたから、一応私の金庫にいれてるよ。今返す?」

「保管してくれていたという事なのかしら? 働かせてばかりで悪いのだけど、返してもらえるかしら?」

「オーケー」

 アリアは、一時大声で騒ぎだしたが、キャンプカーの中に神器があると知り、トーンダウンした。
 彼女の視線を背中に感じながら、キッチンスペースの隣にある棚を開ける。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

時岡継美
ファンタジー
怪我を負って倒れていたテオは、大食いの女とその女に甲斐甲斐しく肉を焼き続ける壮年の男、そして白くて丸っこい魔物と出会う。 自分もこいつらの餌食になるのかと覚悟した時、差し出されたステーキを食べたところなぜか怪我がみるみる回復して!? 広大な異空間「ガーデン」を舞台に魔法使いのリリアナ、ウォーリアのテオ、調理士のハリスの3人とモフモフ1匹が、魔物を狩っては食べながら奮闘する冒険ファンタジー。 小説家になろう、エブリスタ、ベリーズカフェに掲載している同作を改稿しながら載せていきます

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

処理中です...