上 下
67 / 156
新たな冒険

新たな冒険③

しおりを挟む
 キャンプカーを停めた場所は、森の中なのに木々が枯れ、拓けた様になっていた。
 試験体066は水の剣を出すと、幹が折れてしまった木に近付き、それを膝の高さで切断した。

「ここに座って……」

「うん」

 水の剣はよほど切れ味が良いのか、木の切断面はツルリとして座り易い。
 マリが木の座り心地を確かめている間に、少年はテキパキと倒した木の幹や枝を集め、魔法で火を起こす。

 少しずつ暗闇に目が慣れつつあったマリだが、焚き木の明かりで周囲がよく見える様になると、心にゆとりが生まれた。

「アンタも座れば?」

 彼はコクリと頷き、地面に直接腰を下ろす。
 温くなったホットココアを手渡す。マシュマロはもう溶けて無くなっていて、少し残念。

「有難う……」

 マグカップにソッと口付ける彼の様子を眺めながら、話の糸口を探る。世間話から入るべきか、いきなりキツめの話をするか。薪が燃え尽きるまでに話を切り上げたいのに、決められない。

「……ニューヨークにある研究所から脱走したのは、自由が欲しかったから……」

 話の口火を切ったのは、少年の方だった。マリは慌てて頷く。

「いずれこの世界に渡り、勇者としての使命を果たす為、僕は創られ、ずっと訓練漬けの日々だった」

「あらかじめ決まってたんだね」

「うん。二十年前勇者と共に世界の狭間を渡った男が、大企業の御曹司? だったらしくて……、この国の国王との約束を守り、会社のクローン技術で勇者のクローンを作ったと聞いた」

「え……」

 これから国王との謁見の為、王都に行くわけだが、少し心配になる話だ。試験体066の話では、彼はこの世界の統治者の願いで生み出された存在らしい。それなのに、国王はアレックスを勇者として受け入れている。
 試験体066の訪れを待っているのか、いないのか。
 いずれにせよ、面倒事の気配を感じずにはいられない。

「僕は普通の人間じゃない」

「でも、アンタは、自分の意思で逃げ出した。普通の人生を歩みたかったんじゃないの?」

「そうだよ。だけど、無理だって気がついた。実際にはコピーより酷い……、爆弾を抱えた危険物だよ。君や市民を巻き添えにしてまでも魔王を消し去ろうとした……」

 自分は巻き込まれるかもしれないと思ったが、市民まで道連れにする威力だったらしい。思わず眉間に皺が寄る。

「二度としないって約束してくれない?」

 語気が強くなった。だけどこれは譲れない。

「アンタは、ちょっとズレてて、……ギャグ一つ言えないつまらない奴だけど! アンタと数日過ごして、私はアンタを普通の友人みたく思える様になったよ! アンタは私をどー思ってるか分かんないけど! 私の事、生きてても死んでもどうでもいいって思ってるかもしれないね! だけど……、独断で、全部終わりにしないでくれないかな!?」

 少年は、早口で言いたい事を捲したてるマリの顔を、そして自らの手の平を途方に暮れた様に見る。

「約束したい。……でも、このスキルは、自我が目覚める前にはもう備わってたと思うし、……先日の件から想像すると、自分の意思では制御も無理そうだ……。だから……」

 彼は顔を背け、「ごめん」と呟く。

 悲しい返事だ。彼の命は、彼自身の意思とは別の所で握られているらしい。たとえマリを巻き込まなくても、ちょっと離れているうちに死ぬかもしれないのだろうか?
 珍しく泣きたい気持ちになり、マグカップを下ろす。

 空いた右手を伸ばし、開かれたままの彼の手の平に重ね合わせて、ギュッと握る。

(二度とスキルが発動しません様に……)

 こんな祈りは何の意味もない。ただの自己満足だ。

 目を閉じ、手の皮膚や骨、筋肉、そして体温を感じ取る。すると、更に奥にうねりの様な流れがある事に気がつく。

(ん……?)

 それが気になって仕方がなくて、親指を彼の手の平の中央にグッと突き立てる。

「マリさん、痛い……」

「ちょっと静かにしてくれる!?」

「あ、うん……」

 ある。確かに、血液とは違う何かが動いている。何だこれは、何なんだ?
 辿る様に探っていくと、巨大な力にいきあたった。
 背中がザワリとする。たぶんこれは、介入してはだめなやつだ。だけど、力の一部に、先日彼が使ったスキルの気配がある。ちぎり取れるかもしれない……。   
そう思うと、やらずにいられない。
 
 もう一度強く念じる。

(“自爆スキル”消えろ!)

 マリと少年の触れ合っている箇所が、火傷しそうな程の熱を持つ。マリは今、少年の根源に介入した。今消失していったのはきっと……。

 いつのまにか近い位置まで近付いていたらしい。困惑した様に揺らめく、綺麗な瞳が目前に迫っていた。

「マリさん、今何かした?」

「……別に」

 マリは彼の手の平をペイッと捨て、ニヤリとする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

捨てられ第二王子は、神に愛される!

水魔沙希
ファンタジー
双子が疎ましく思われるシュテルツ王国で、双子の王子が生まれた。 案の定、双子の弟は『嘆きの塔』と呼ばれる城の離れに隔離されて、存在を隠されてしまった。 そんな未来を見た神様はその子に成り代わって、生きていく事にした。 これは、国に捨てられた王子が国に認められるまでの話。 全12話で完結します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...