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食材ゲット

食材ゲット③

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「さて、土の神殿側はいつ頃出発の準備が整うのかな? こちらとしてはなるべく急いでほしいね」

 沈黙を破り、公爵が話を切り出す。彼は長椅子に脚を組んで座り、余裕ある態度だ。

「術者達には既に伝達してある。だが、近隣の村に行っている者達がいてな……。今いる者達だけなら今日の夜出発する事も出来るだろうが、今居ない者達の方が熟練しているし、現場慣れしている。だから出発は明日の朝だ」

「なるほどね。了解だよ。明日の朝から馬の足で二日か……。マリちゃん、僕達は先にキャンプカーで戻ろうか?」

 話を振られたマリは、先程思いついた案を提案する事にした。

「二日かからず連れて行けると思う」

「どうする気かな? あ、もしかしてキャンプカーに乗せる?」

「何人かはキャンプカーに乗せる事も出来ると思う。でも、全員だと鮨詰め状態になるから、馬車の客車? だけ使って、キャンプカーで牽引したいんだ」

「なるほど。いいかもしれない。曲がり角を曲がる時だけ気をつけたら、そこそこ安全に、かつ早くレアネーまで連れて行ける!」

「貴様ら……。危険な話を持ちかけようとしていないだろうな……?」

「そこまで危険じゃない! はず!」

 眉間に皺を寄せるエイブラッドに二人掛かりで説明する。
 そうこうしているうちに、執務室にはゾロゾロと術者達が集まり、簡単なミーティングを行う事になった。状況説明や、浄化の割り当て等を話し合っていると、結構時間がかかり、夕方になってしまっていた。

 昼過ぎに行った青空市で依頼したアボガドは意外と早く土の神殿まで届けられ、マリ達三人は、陽が沈む前に大量の食材と共にキャンプカーに引っ込んだ。



「結局出発は明日の朝になったね」

「仕方がないよ。彼等は普段通り仕事をしていたわけだから」

 今日入手した食材でマリが作った料理を三人で囲み、ノンビリと会話する。土の神殿で張り詰めていた神経が緩んでいるのが、態度にも現れ、各々少しテーブルマナーが崩れている。

「このクリーミーな料理、とても美味しいよ。もしかして昼のザリガニを使っている?」

「うん。試験体066が解体して持って来てくれたから、お試しで作ってみた」

 黄金色のキングクレイフィッシュの身は、トマトクリームパスタにした。その味はワタリガニに近いのだが、もっと濃い様にも思える。高級食材と言っていいレベルだ。

「今日持って来れたのは一部。……残り九割程は浄化し終わったら渡してくれるみたい。パスタ美味しかった……」

 彼の前にあるパスタの皿は既に空になっていて、昼に買ったパンをオリーブオイルに浸して口に運び、顔を顰めている。

「こっちのサラダも食べて。さっき貰ったアボガドで作ったんだよ。野菜も食べないと、身体が弱まるよ」

 少年の皿に、トングでワザと大盛りにサラダを持ってやる。アボガドとトマトをワサビドレッシングで和えているので、結構サッパリ食べられるはずだ。

「ピリピリしてて楽しい……」
 
「タレが初めての味わいだね。フレイティアフォレストバター大好きなんだけど、引き締める様な味付けが最高だ」

 少年は相変わらずズレた感想を言い、公爵は大絶賛だ。マリも一口食べて、頷く。

「うん! 味は想定通りアボガド! 良かった!」

 レアネーの住人に振る舞う料理に使う前に食べてみようと思ったのは、期待した味と異なる事を恐れたから。レアネーは今、危機的な状況下にあるけれど、やっぱりマリが作るベストな味を食べてほしい。ちょっとしたプライドだ。

「……キッチンスペースの方から、凄い蒸気が上がってる……」

 試験体066はボンヤリしたアメジストの瞳をキッチンの方へと向けていて、マリは慌てた。

「あ! トウモロコシ蒸してたんだった!」

 キッチンスペースへと足を運び、ミトンを手に嵌めて蒸し器の蓋を開けると、盛大に湯気が立ち昇る。
 篭った湯気のお陰で周囲に素朴な香りが漂い、顔が自然に綻んだ。

 トングでグラスジェムコーンを取り出してみると、蒸された事でさらに発色が良くなり、透明感が出ていて、一粒一粒がまるで宝石の様に輝く。

(相変わらず可愛い!)

 少しだけ見惚れてからテーブルの上に持っていくと、男二人も思わず、っといった感じに笑った。

「これ、さっき買ってもらったやつだ……。責任持って食べないと」

「これまた珍しい。フレイティアレインボーコーンだね。地元で殆ど消費されるから、レアネーにはなかなか流通しないんだよ」

 この世界の果物や野菜には、やたら長い名前がつくらしい。なかなかしっくりくる名前が付くものだ。だが、このトウモロコシ、見た目はいいものの、味は結構微妙なのだ。

(ガッカリするかもね!)

 マリは一人性質の悪い笑みを浮かべ、豪快にトウモロコシに齧り付く。そして「あれ?」と首を傾げる。

「美味しい……?」

「何で不思議そうなの? フレイティアレインボーコーンが不味いわけないじゃない」

 スィートコーン並みの糖度だろうか? 十分すぎる甘さだ。スッキリした後味もいい感じで、上品な味わいと言えるかもしれない。

「これは嬉しい誤算かも」

 白髪の少年も「美味しい」と呟きながら齧り続けている。買う気にさせてくれた彼にちょっとだけ感謝だ。





「グスン……グスン……まっず……」

 どこからともなく、女性の泣き声が聞こえる。キャンプカーの中に女は自分しかいなかったはずなのに、どういう事なのか?

 辺りを見回してみると、足元には深い緑色の苔、生い茂る草木は先程踏み入った森よりもだいぶ密度が濃い。
 夜だったはずなのに、何故かそこかしこに木洩れ陽が落ち、いざなうがごとく、先へ先へと揺れる。

(食器洗って、男達にシャワーの使い方教えて、アイツの服を洗濯して……十時にはベッドに入ったよね? って事はこれは夢!?)

 あり得ない状況にやや混乱する。夢にしてはやけに意識がはっきりしているのが不気味なのだが、突っ立っていてもしょうがない。

「めんどくさいな」

 たぶん、声の主に会う必要がある。マリはため息を一つつき、足を進めた。

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