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プロローグ
プロローグ①
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――ゴーン……、ゴーン……
構内に鐘が鳴る。
ここは、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタンに位置するキュリー&バンフォード女学園。
本日最後の授業を終え、教室から出て来る女生徒達の顔はどれも晴れやか。
彼女達は全員制服に身を包んでいるものの、手に持つバッグや履いているパンプス等は、高級ブランド品――その辺の普通の少女では持ち物だけで値踏みされ、簡単に彼女達に見下されてしまいそうだ。
どこかピリピリとした空気の中、教室から出てきたのはマリ・ストロベリーフィールドという名の、アメリカ人と日本人のハーフの少女。薄茶色のボブカットは顔の小ささを強調し、クリッとした目は、高身長な女生徒達の中にあっても、自信に輝く。
彼女は制服であるボックスプリーツのスカートを大胆に捌き、出口へと向かう。
そんなマリを見つめる視線はキッパリ二種類に分かれる。一つは憧れ、もう一つは嫉妬。
温度差を生んでいるのは、彼女の生家の家柄によるところが大きい。
ストロベリーフィールド家は、その昔、石油の採掘で財産の基礎を築き、時代に合わせた事業を展開する事で、順調に資産を増やしてきた。政財界へ与える影響も大きく、取引先企業の関係者は勿論、支援を受ける政治家の子弟もたとえ学校内といえど、彼女に頭が上がらない。
しかし、マリの家と全く関わりの無い生徒からすると、彼女の存在は目障りでしかなく、大胆にも蹴落とそうとしてくる者達は少なからず居る。
階段の下でお喋りしていた上級生達は、歩いて来るマリの姿を見るやいなや、目を見合わせ嫌な笑いを浮かべた。
「ハーイ! マリ。ご機嫌いかが?」
「ミランダ、今日も相変わらずのケバさだね。何か用?」
マリを呼び止めたのは、この高校のカースト最上位のミランダだった。彼女はマリの毒舌に一瞬ムッとした顔をしたものの、直ぐに魅力的な笑みを浮かべた。
「貴女の婚約者のアレックス、まだ見つかってないそうね」
「そうらしいね。まぁ、ろくに情報も貰ってないから、今はどうなってるのか謎だけど」
「さっき警察が来てたから、色々話を聞いたんだけど、どうやら殺人を視野に入れ始めたみたい」
「殺人って……、正気? アイツの事だからまたどっかでフラフラしてるだけでしょ」
アレックスは親同士が決めたマリの婚約者だ。近くの男子校に通う彼は、この女子校でもそれなりに人気らしく、よく噂話に名前があがる。
しかしそんな彼は一か月程家に帰っていない。いくらなんでも長すぎるので、事件に巻き込まれたのではないかと囁かれている。
彼の行方を心配する女子達に質問攻めにされ、マリは本当に迷惑していた。
「警察にさ、マリが事情を知ってそうって言っといたよ」
「はぁ? 知ってるわけないでしょ。彼とは親込みでしか関わってないし」
「彼と貴女が不仲だったって伝えておいたの。警察はアレックスの失踪は貴女が何かしたからだって、疑い始めたかもね。まぁ、頑張ってよ。おチビちゃん」
ミランダはマリの肩を馴れ馴れしく撫で、取り巻き達と去っていった。
膨れっ面で外に出て、校門の傍に停めてあるピンク色のベントレー・コンチネンタルのドアを開けた。
後部座席に乗り込むと、運転席に座る太っちょな男が振り返った。
「マリお嬢様、お疲れ様でございます」
彼はセバス・ライトミール。ストロベリーフィールド家の執事だ。アニオタの彼は、つぶらな瞳をパチパチさせながら、タブレットを助手席に置いた。待っている間、動画でも観ていたんだろう。
「セバスちゃん! またアレックスの事で絡まれたの! もうあんな奴と関わりたくない!」
「むむ……。アレックス殿は確か行方不明では?」
「そうなの! 一体アイツどこ行った!」
アレックスの愚痴をこぼしていたマリだったが、コンコンとちょうど座っている側の窓を叩かれ、飛びあがった。
窓越しに車内を覗き込むのは、ダサいスーツを着た強面のオッサンだった。
マリはウィンドゥを下ろし、「何かご用?」と取り澄ます。
「失礼。マリ・ストロベリーフィールドさんかな? 私はニューヨーク市警の者なんだが、君の婚約者の事でちょっと聞きたい事がある」
「……」
オッサンが掲げる身分証を見ると、確かに市警の物で間違いなさそうだ。
マリはついさっきミランダが言っていた事を思い出し、背中がヒヤリとする。
「彼は既に死んでいるのではないかという証言があってな……。彼に近しい立場の君の口から、彼が消息を絶つ前の様子を聞きたいんだよね」
そんな一か月以上も前の事なんか、思い出せるわけがない。運悪く彼と鉢合わせした時も上の空で会話していたくらいなのに、イキナリ証言を求められても困る。何か答え方を間違ったら手錠をかけられるかもしれないのに……。
「ちょっと、ちょっと! 悪いんですけどね。そういうのはウチの顧問弁護士を通してからにしてくださいよ!」
運転席に座るセバスちゃんは、そう言い、ピ〇チュウ柄のメモ帳にサラサラと何事かを書き記し、ぐしゃぐしゃに丸めて窓の外に放り投げた。
「そこに連絡してくださいね!」
「何て反抗的な態度なんだ! この無礼な豚め!」
「無礼はどっちだ!」
声を荒げる刑事に言い返しながら、セバスちゃんはベントレーを急発進させた。
「ナイス!」
マリは豆粒になっていく刑事の姿にガッツポーズする。
「今日は確か料理教室の日でしたな」
「そうそう! 一度家に帰って着替えるから、また車を出して」
「お任せください!」
構内に鐘が鳴る。
ここは、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタンに位置するキュリー&バンフォード女学園。
本日最後の授業を終え、教室から出て来る女生徒達の顔はどれも晴れやか。
彼女達は全員制服に身を包んでいるものの、手に持つバッグや履いているパンプス等は、高級ブランド品――その辺の普通の少女では持ち物だけで値踏みされ、簡単に彼女達に見下されてしまいそうだ。
どこかピリピリとした空気の中、教室から出てきたのはマリ・ストロベリーフィールドという名の、アメリカ人と日本人のハーフの少女。薄茶色のボブカットは顔の小ささを強調し、クリッとした目は、高身長な女生徒達の中にあっても、自信に輝く。
彼女は制服であるボックスプリーツのスカートを大胆に捌き、出口へと向かう。
そんなマリを見つめる視線はキッパリ二種類に分かれる。一つは憧れ、もう一つは嫉妬。
温度差を生んでいるのは、彼女の生家の家柄によるところが大きい。
ストロベリーフィールド家は、その昔、石油の採掘で財産の基礎を築き、時代に合わせた事業を展開する事で、順調に資産を増やしてきた。政財界へ与える影響も大きく、取引先企業の関係者は勿論、支援を受ける政治家の子弟もたとえ学校内といえど、彼女に頭が上がらない。
しかし、マリの家と全く関わりの無い生徒からすると、彼女の存在は目障りでしかなく、大胆にも蹴落とそうとしてくる者達は少なからず居る。
階段の下でお喋りしていた上級生達は、歩いて来るマリの姿を見るやいなや、目を見合わせ嫌な笑いを浮かべた。
「ハーイ! マリ。ご機嫌いかが?」
「ミランダ、今日も相変わらずのケバさだね。何か用?」
マリを呼び止めたのは、この高校のカースト最上位のミランダだった。彼女はマリの毒舌に一瞬ムッとした顔をしたものの、直ぐに魅力的な笑みを浮かべた。
「貴女の婚約者のアレックス、まだ見つかってないそうね」
「そうらしいね。まぁ、ろくに情報も貰ってないから、今はどうなってるのか謎だけど」
「さっき警察が来てたから、色々話を聞いたんだけど、どうやら殺人を視野に入れ始めたみたい」
「殺人って……、正気? アイツの事だからまたどっかでフラフラしてるだけでしょ」
アレックスは親同士が決めたマリの婚約者だ。近くの男子校に通う彼は、この女子校でもそれなりに人気らしく、よく噂話に名前があがる。
しかしそんな彼は一か月程家に帰っていない。いくらなんでも長すぎるので、事件に巻き込まれたのではないかと囁かれている。
彼の行方を心配する女子達に質問攻めにされ、マリは本当に迷惑していた。
「警察にさ、マリが事情を知ってそうって言っといたよ」
「はぁ? 知ってるわけないでしょ。彼とは親込みでしか関わってないし」
「彼と貴女が不仲だったって伝えておいたの。警察はアレックスの失踪は貴女が何かしたからだって、疑い始めたかもね。まぁ、頑張ってよ。おチビちゃん」
ミランダはマリの肩を馴れ馴れしく撫で、取り巻き達と去っていった。
膨れっ面で外に出て、校門の傍に停めてあるピンク色のベントレー・コンチネンタルのドアを開けた。
後部座席に乗り込むと、運転席に座る太っちょな男が振り返った。
「マリお嬢様、お疲れ様でございます」
彼はセバス・ライトミール。ストロベリーフィールド家の執事だ。アニオタの彼は、つぶらな瞳をパチパチさせながら、タブレットを助手席に置いた。待っている間、動画でも観ていたんだろう。
「セバスちゃん! またアレックスの事で絡まれたの! もうあんな奴と関わりたくない!」
「むむ……。アレックス殿は確か行方不明では?」
「そうなの! 一体アイツどこ行った!」
アレックスの愚痴をこぼしていたマリだったが、コンコンとちょうど座っている側の窓を叩かれ、飛びあがった。
窓越しに車内を覗き込むのは、ダサいスーツを着た強面のオッサンだった。
マリはウィンドゥを下ろし、「何かご用?」と取り澄ます。
「失礼。マリ・ストロベリーフィールドさんかな? 私はニューヨーク市警の者なんだが、君の婚約者の事でちょっと聞きたい事がある」
「……」
オッサンが掲げる身分証を見ると、確かに市警の物で間違いなさそうだ。
マリはついさっきミランダが言っていた事を思い出し、背中がヒヤリとする。
「彼は既に死んでいるのではないかという証言があってな……。彼に近しい立場の君の口から、彼が消息を絶つ前の様子を聞きたいんだよね」
そんな一か月以上も前の事なんか、思い出せるわけがない。運悪く彼と鉢合わせした時も上の空で会話していたくらいなのに、イキナリ証言を求められても困る。何か答え方を間違ったら手錠をかけられるかもしれないのに……。
「ちょっと、ちょっと! 悪いんですけどね。そういうのはウチの顧問弁護士を通してからにしてくださいよ!」
運転席に座るセバスちゃんは、そう言い、ピ〇チュウ柄のメモ帳にサラサラと何事かを書き記し、ぐしゃぐしゃに丸めて窓の外に放り投げた。
「そこに連絡してくださいね!」
「何て反抗的な態度なんだ! この無礼な豚め!」
「無礼はどっちだ!」
声を荒げる刑事に言い返しながら、セバスちゃんはベントレーを急発進させた。
「ナイス!」
マリは豆粒になっていく刑事の姿にガッツポーズする。
「今日は確か料理教室の日でしたな」
「そうそう! 一度家に帰って着替えるから、また車を出して」
「お任せください!」
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