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道中は危険に溢れている!

道中は危険に溢れている!②

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 香水店から程近い区画にレイチェルは家を構えていた。
 大きな建物に挟まれ、窮屈そうに建つ細長い家は、尖った屋根や斜めにはまった窓等のせいで風変わりな感じを醸し出している。

 三階の居間らしき部屋まで案内され、ステラはアジ・ダハーカと共に、怪しくも可愛らしい内装をジロジロ眺めて過ごす。
 棚にも、床にもたくさんの蝋燭が並べられ、ハートや髑髏を模るモニュメントがそこかしこに置かれている。
 アジ・ダハーカは、ドラゴンの人形を片手で押してみながら、首を傾げた。

「ふぅむ……、儂へのリスペクトを感じ取れなくもない」

「それって、アジさんなんですか? ドラゴンの一般的な造形のような気もしますけどね」

 アレコレ感想を言い合っているうちに、レイチェルが木製のトレーに丸っとしたカップと深皿を乗せて戻ってきた。
 
「お待たせ~。私達二人はココアで、アジ・ダハーカにはミルクね」

「わぁ、有難うございます!」

「悪いな」

 湯気を上げるココアを一口飲み込む。
 甘さが控えめでありながらも味わい深く、思考がハッキリしてくるようだ。
 ステラはコップで両手を温めながら、口を開く。

「実は、ミクトラン帝国に行こうと思っています」

 その言葉に驚いたのか、アジ・ダハーカは深皿から顔を上げた。

「随分急だな」

「私の産みの親が帝国に住んでいるかもしれないんです。それに、その人物がシトリーの召喚に一枚噛んでいるかもしれなくて……。シトリーに魂の提供がなされる前に一度会って、悪行を咎めねばと思ってます」

「ちょっと待って! シトリー召喚の代償として、アンタの親の魂が提供されようとしてるってこと!?」

 質問してくれたレイチェルに頷く。
 すると彼女は胸の辺りで腕を組んで唸った。

「アンタ皇族なの?」

「もしかするとそうかもしれないです。でも、私は赤ちゃんの頃に捨てられてしまいましたし、皇族だと名乗ってはいけないのかもって気がしてます」

 そうではあるが、今更帝国がステラの特徴と合致する少女を探そうとしているのは何故なのか。
 一人で考えても分からなかった事をアジ・ダハーカとレイチェルにも共有してみる。

「一度は捨てたくせに、今帝国は私を必要として探しているみたいなんです。何でなのかな?」

「考えるまでもないだろう。親の代わりとして、お主の魂をシトリーに差し出す為だ」

「……」

 アジ・ダハーカの言葉に俯く。
 可能性を考えなかったわけじゃないが、そうあってほしくないと思っているのだ。
 再び産みの親に絶望を味わされるかもしれないのなら、帝国になんか行かない方がいいだろうか。

「そう決まったわけじゃないでしょ? 死ぬ前に実の娘に会いたくなったとかー、死んだ後に後継者にしちゃおうとかー、理由なんて幾らでも思いついちゃうよ! アタシは一度会ってみてもいいと思うなー」

「レイチェルさん……」

 耳障りの良い意見の方に惹かれてしまうのは、あまり良くないのかもしれない。だが、彼女の言葉に勇気づけられ、自分の親とやらの善悪をこの目で確かめたい気持ちになった。

「取り敢えず会ってみようと思いますっ」

「それがいいよ。何も知らないまま全てが終わったら、きっと死ぬまで疑い続けるでしょ? 真相を知ってサッパリスッキリしちゃお! ちょうどアタシも明日帝国に出発しようとしてたし、一緒に行こう」

「いいんですか! 是非是非! そういえば、レイチェルさんもっと早くに帝国に向かうと思っていました」

「貴族がたくさん殺されちゃった所為で、夜会の警備を厚くしたがる人が多くてねー。依頼が立て続きだったんだよね。街の中の巡察官も夜会に駆り出されちゃってるもんだから、さっきみたいなモンスターが野放し状態なのは笑えちゃう」

「なるほどなのです」

 それから、アジ・ダハーカとレイチェルを相手に、閉じ込められていた事や、シトリーから持ちかけられた取引内容等を伝え、今後の旅程等を話し合っているうちに時刻は二時を過ぎ、全員そのまま居間のソファで眠りについた。
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