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一番大事な人?
一番大事な人?⑥(※ステラ視点)
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レイチェルと入れ替わるようにジョシュアがやって来て、かなり強引にフラーゼ家のタウンハウスに連れて帰られてしまった。やりたい仕事が残っていたので不満に思ったものの、問答無用とでもいいたいかのような雰囲気に圧倒された。
何か急ぎの用があったかというと、そうでもなく。
彼の私室のカウチに座らされ、ティーセットを挟んでお喋りというのんびりとした状況になった。
部屋の主と香水の売上について話しているうちに陽が暮れ、話が続かなくなる。彼との間には、最近では珍しい気まずい沈黙が落ちた。
目の前に座る男は一つ息をつき、陶器のランプに火を灯す。
(いつももっと口数多い人なのに、今日は途切れがちだなぁ。私何か悪い事したっけ?)
怒っている素振りは無い。
しかしこのジョシュアという人は笑顔のままキレるなど、読みずらい性格をしているので、注意が必要だ。
先程人払いを命じていたのも気になる。
「ステラは……」
「うわ! はい!」
漸くかけられた声に驚き、腰を少し浮かす。
ジョシュアは目を見張ったが、直ぐにクスリと笑った。
「ごめん。考え事をしていたんだ。一つ質問してもいいかな?」
「どうぞです!」
「君ってさ、スキルをもう一つ持っていたりしないよね?」
ハッとした。
保有している三つのスキルのうち、二つしか伝えていないのがバレたのだろうか。
人払いをしてまで、それについて話したい理由とは一体……。
当惑して答えずにいると、更に言葉を付け加えられる。
「二つで間違いないなら問題ないんだよ。三つ保有してない?」
まるでステラに三つスキルがあったら、困るかのような口振りだ。
ここで嘘をついたなら、容易く騙せるのだろう。だけど、どういうわけか、彼に知ってほしいと思った。
「……ありますよ。私、三つスキルを使えるんです。でも、それで何に協力するかは私自身で選ぼうと思ってます」
そう言った後のジョシュアの表情は、不気味な程静かだった。
失望? 失笑? 悲嘆?
どれも違っているようで、全てがこもっているようでもある。
「ピンクブロンドの髪に、空色の瞳を持つ十五歳の少女。そして保持するスキルは三つって……。まんま君じゃん」
「? そうですね」
隠していたのを怒るでもなく、ただ『誰かが言ったであろう言葉』を復唱するだけのような彼に違和感を覚え、眉根を寄せる。本当に彼が知りたい内容は何なのか。
「出会ったばかりの頃、君は産みの親に興味を持たなかったよね。オレは調べてあげると言ったけど、拒否してた。今も変わらない?」
「脈絡の無い質問を重ねられても困るというか……」
「オレには有るから、答えて」
「えぇと……」
わざわざこんな質問をしてくるのは、ステラの両親に心当たりがあるからなのだろう。
だから、仕方無く真剣に考える。
ここ三ヶ月の間にフラーゼ家やネイック家の親子を観察し、血縁関係の重要性を思わずにいられなかった。
本当の親に会って、もし壁一つ感じないような接し方をされたら、どこか空虚な心が満たされるのかもしれない。
そうでなくても、彼等と会う事で、別の新しい関係を構築するための区切になる可能性もある。
答えは一つだ。
「あ……いたい……です。一度でいいから……。どんな暮らしをしているのか、気になる……」
勇気を持ってやっと絞りだした言葉に、ジョシュアはあろうことか、弾かれた様に笑い出した。
その様子に傷つき、じわりと目が潤む。
「酷いです! 何で笑うんですか!」
握り拳で彼の頭や肩を思い切り叩く。
両親と会えるかもと期待を持つステラを見て笑うなんて、どうかしている。
神罰が下ればいい。
「アハハ……、ごめん。オレが居なかったら、全員の希望が叶うのかなって思ったら、馬鹿馬鹿しく思えて」
「意味わかんないです! くたばれジョシュア!」
べシリと胸を打った拳は、しかし彼の手に掴まれた。
「ぐぬぬ! 離せー!」
「だけどさ、ステラ」
「許せないです! 自分は何でも持っているからって、人の心を踏みにじってもいいんですか!?」
「君と永遠に会えなくなるくらいだったら、嫌われた方がずっと良いって思えるくらいに」
「ジョシュア?」
「君が好き」
「へ……?」
告げられた言葉をうまく飲み込めなくて、間近にある双眸をポカンと見つめる。
スキルを聞かれ、産みの親の事で笑われ、それで「好き」とは?
こちらに向けられている紅茶色の瞳は、赤色に近く、蠱惑的。直前まで人を馬鹿にしていたとは思えない程に真剣な面持ちである。
「たぶん、出会った時から何となく惹かれてた」
「それって、恋愛の、意味で?」
「うん」
「そうなんだ……」
頭の中は混乱を極める。
一つだけ確かなのは、ジョシュアの言葉が真実だということ。
思い返せば、成る程と思える言動を、何度もとっていた。
(なんで私、違う意味でしか受け取れなかったんだろ?)
彼の手が淡い光を放つ様を綺麗だな……と思っているうちに、抗いがたい眠気が襲いかかり、「うぅ……」と呻く。
目の前にあるシッカリした胸に倒れ込み、その温もりを感じながら意識を手放した。
◇◇◇
何か急ぎの用があったかというと、そうでもなく。
彼の私室のカウチに座らされ、ティーセットを挟んでお喋りというのんびりとした状況になった。
部屋の主と香水の売上について話しているうちに陽が暮れ、話が続かなくなる。彼との間には、最近では珍しい気まずい沈黙が落ちた。
目の前に座る男は一つ息をつき、陶器のランプに火を灯す。
(いつももっと口数多い人なのに、今日は途切れがちだなぁ。私何か悪い事したっけ?)
怒っている素振りは無い。
しかしこのジョシュアという人は笑顔のままキレるなど、読みずらい性格をしているので、注意が必要だ。
先程人払いを命じていたのも気になる。
「ステラは……」
「うわ! はい!」
漸くかけられた声に驚き、腰を少し浮かす。
ジョシュアは目を見張ったが、直ぐにクスリと笑った。
「ごめん。考え事をしていたんだ。一つ質問してもいいかな?」
「どうぞです!」
「君ってさ、スキルをもう一つ持っていたりしないよね?」
ハッとした。
保有している三つのスキルのうち、二つしか伝えていないのがバレたのだろうか。
人払いをしてまで、それについて話したい理由とは一体……。
当惑して答えずにいると、更に言葉を付け加えられる。
「二つで間違いないなら問題ないんだよ。三つ保有してない?」
まるでステラに三つスキルがあったら、困るかのような口振りだ。
ここで嘘をついたなら、容易く騙せるのだろう。だけど、どういうわけか、彼に知ってほしいと思った。
「……ありますよ。私、三つスキルを使えるんです。でも、それで何に協力するかは私自身で選ぼうと思ってます」
そう言った後のジョシュアの表情は、不気味な程静かだった。
失望? 失笑? 悲嘆?
どれも違っているようで、全てがこもっているようでもある。
「ピンクブロンドの髪に、空色の瞳を持つ十五歳の少女。そして保持するスキルは三つって……。まんま君じゃん」
「? そうですね」
隠していたのを怒るでもなく、ただ『誰かが言ったであろう言葉』を復唱するだけのような彼に違和感を覚え、眉根を寄せる。本当に彼が知りたい内容は何なのか。
「出会ったばかりの頃、君は産みの親に興味を持たなかったよね。オレは調べてあげると言ったけど、拒否してた。今も変わらない?」
「脈絡の無い質問を重ねられても困るというか……」
「オレには有るから、答えて」
「えぇと……」
わざわざこんな質問をしてくるのは、ステラの両親に心当たりがあるからなのだろう。
だから、仕方無く真剣に考える。
ここ三ヶ月の間にフラーゼ家やネイック家の親子を観察し、血縁関係の重要性を思わずにいられなかった。
本当の親に会って、もし壁一つ感じないような接し方をされたら、どこか空虚な心が満たされるのかもしれない。
そうでなくても、彼等と会う事で、別の新しい関係を構築するための区切になる可能性もある。
答えは一つだ。
「あ……いたい……です。一度でいいから……。どんな暮らしをしているのか、気になる……」
勇気を持ってやっと絞りだした言葉に、ジョシュアはあろうことか、弾かれた様に笑い出した。
その様子に傷つき、じわりと目が潤む。
「酷いです! 何で笑うんですか!」
握り拳で彼の頭や肩を思い切り叩く。
両親と会えるかもと期待を持つステラを見て笑うなんて、どうかしている。
神罰が下ればいい。
「アハハ……、ごめん。オレが居なかったら、全員の希望が叶うのかなって思ったら、馬鹿馬鹿しく思えて」
「意味わかんないです! くたばれジョシュア!」
べシリと胸を打った拳は、しかし彼の手に掴まれた。
「ぐぬぬ! 離せー!」
「だけどさ、ステラ」
「許せないです! 自分は何でも持っているからって、人の心を踏みにじってもいいんですか!?」
「君と永遠に会えなくなるくらいだったら、嫌われた方がずっと良いって思えるくらいに」
「ジョシュア?」
「君が好き」
「へ……?」
告げられた言葉をうまく飲み込めなくて、間近にある双眸をポカンと見つめる。
スキルを聞かれ、産みの親の事で笑われ、それで「好き」とは?
こちらに向けられている紅茶色の瞳は、赤色に近く、蠱惑的。直前まで人を馬鹿にしていたとは思えない程に真剣な面持ちである。
「たぶん、出会った時から何となく惹かれてた」
「それって、恋愛の、意味で?」
「うん」
「そうなんだ……」
頭の中は混乱を極める。
一つだけ確かなのは、ジョシュアの言葉が真実だということ。
思い返せば、成る程と思える言動を、何度もとっていた。
(なんで私、違う意味でしか受け取れなかったんだろ?)
彼の手が淡い光を放つ様を綺麗だな……と思っているうちに、抗いがたい眠気が襲いかかり、「うぅ……」と呻く。
目の前にあるシッカリした胸に倒れ込み、その温もりを感じながら意識を手放した。
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