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一番大事な人?

一番大事な人?⑤(ジョシュア視点)

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 国民の血税で維持される絢爛豪華な城内。
 ジョシュアは靴の底を殊更に高く鳴らしながら、廊の奥へと進む。
 急な呼び出しは今に始まった事では無いが、相手の都合を考慮しない強引さには毎度辟易とさせられる。

 目当ての部屋まで来ると、両脇に立つ衛兵がサッと敬礼した。
 それに目礼で返し、ドアノッカーを打ち鳴らす。
 「入れ」との硬質な声に従って入室すれば、待ち受けるのは一切の感情を消し去ったような鉄面皮の男。
 この国の宰相チャド・アトパーラだ。
 自分よりも二十以上も年上の人物に、ジョシュアは愛想笑いを浮かべる。

「お呼びでございますか? 宰相閣下」

「漸く来たか」

 彼は持っていた書類を置き、デスクの上で両手を組んだ。

「貴族の連続不審死はピタリと止んだようだな」

「そのようですね。犯人は心を入れ替えたのかもしれません」

 ステラの香水の影響のお陰かもしれないと考えているものの、彼女の存在を表に出せば、国の為に利用されないとも限らない。

「侯の研究所で開発した新型の毒ガスの実験台にされている、との噂も出回っていたようだが?」

「根も葉もない噂です。事実、ウチにとって貴族を殺して回るメリットなど何もありませんし」

「将来有望な者を亡き者とすれば、有利なポストに就ける機会が増すのではないか? 例えばこの座とか」

「ご冗談を……」

 苛立ちが顔に表れないよう、笑顔を意識し続けるのが面倒だ。
 それなりに忙しい合間に来ているというのに、前置きに長々とした嫌味を言ってくるとは、良い性格をしている。

「半分は冗談だ」

「……」

「実はな、お前が新たに手掛ける香水店について聞きたい事がある」

「何でしょう?」

 何故わざわざ宰相ともあろう人物が、小さな香水店に興味を示すのか。
 これから伝えられる内容に、内心身構える。

「ピンクブロンドの髪に空色の瞳を持つ少女が働いているそうだな?」

「えぇ、まぁ……。店長かと思いますが、それが?」

「ミクトラン帝国から人探しの要請を受けているのだ。三つのスキルを持つ、ピンクブロンドの髪に空色の瞳の十五歳の少女……、その店長とやらがそうなのではないか?」

 思わず、宰相の怜悧な眼差しから目を逸らした。
 隣国の皇族に、ステラと似た者が居ると聞いた事がある。
 それに宰相が口にした、少女の特徴は……。やはりステラを示すのだろうか。
 彼女との別れを強く予感せざるをえない。
 今ここでの返事を誤れば、おそらく永遠に会えなくなる。

「彼女のスキルは三つではありません。人違いでは?」

 聞いていたスキルは二つ。だから返答内容に嘘は無い。
 しかし、彼女がもう一つのスキルを隠しているのだとしたら?

(帰ったら、聞いとかないと……)

「そうか。まぁこちらでも調べてみよう」

 ジョシュアの考えを見透かす様に笑う宰相に舌打ちしたくなった。人の気も知らないで……。
 話は最新の軍需兵器の話題に移るが、ステラの事で頭が一杯で、集中出来ない。

(ミクトラン帝国は、一昨年先帝が崩御し、彼の弟が皇帝位に就いたはず……。何故今人探しをしている?)

 対象がステラだと決まったわけではないものの、嫌な予感を覚えずにいられなかった。
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