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試供品は退魔のフレグランス
試供品は退魔のフレグランス⑦
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ステラはジョシュアの膝に座って一緒に新聞を読むはめになり、恥ずかしさで顔が茹でダコ状態だ。
熱を冷まそうと、手の平を扇いで一生懸命に風を送る。
もがいているのに、お腹を抑える腕の所為で逃げられないのが悔しい。
動揺するステラとは逆に、ジョシュアはステラの肩に顎を置き、平然と新聞を読んでいる。
一体全体この男の神経はどうなっているのか。
異性との触れ合いに圧倒的な経験値の差を感じなくもない。
(そういえばジョシュアって、婚約者がいたんだった……。もう婚約は破棄したみたいだけど…。むぅ……。いや、気にならない! 全く気にならない!)
思考が妙な方向にいきそうなのを制すため、目の前に広げられた新聞を読む事にした。
企業家等をデフォルメした風刺画や、興味を引かれるタイトルがズラリと並んでいるので、目移りする。
左上から端の方まで見ていくと、一つ気になる記事があった。
「政治家さんが毒殺されてます……」
うっかり口に出してしまったのは、ネイック伯爵家のお茶会で死亡した三人の軍人を思い出したからだ。実際には彼等の死因は原因不明らしいのだが、シトリーのイメージが鈴蘭になっているため、どうしても毒を連想してしまう。
「え! あの人殺されちゃったの!?」
「お知り合いなんですか?」
「うん。この女性は貴族院の若手の中でもかなりのやり手だったんだ。葬式に参列しないとな」
珍しくしんみりしているので、それなりの交流があったのだと伺える。
「あの……。仲良しさんが亡くなったのに不謹慎かもしれないんですけど、悪魔シトリーに接触されたかどうか、周囲の方に聞いてもらうことって出来ますか?」
「シトリーに殺されたと思ってる?」
「決めつけるのは早いですが、同じ人物の犯行だと解れば、ネイック伯爵家の疑いも晴れるかなって思いますし……。調べてみる価値はある気がしています」
「そうだね。彼の秘書あたりにでも聞いてみる事にしよう」
テーブルから少し遠ざかっていたレイフが気まずそうな表情で近寄って来た。
何だろうと思っていると、微妙に視線を逸らされる。その仕草でピンときた。
恐らくステラとジョシュアが過剰に接触しているから、見ていてきついのだろう。
「ジョシュア様、ソロソロ出社の準備をしませんと……」
「もうそんな時間か。ステラはまだユックリしているといいよ」
「実はデザートを食べ損なっていたので、そうさせてもらいます!」
「食べたいのを我慢してたんなら、言ってよ!」
硬くホールドしていた腕が離れていったので直ぐに離れてしまおうとしたが、相手が一枚上手だった。
ステラが椅子から降りるやいなや、再び抱きしめられ、頬に口付けられる。
「うわぁ! もうしちゃダメです! キス禁止!」
「はいはい、行ってきまーす」
楽しそうに笑いながら去っていく男の後ろ姿を見ながら、危機感を募らせる。
(うぅぅ……。何かあの人、私への接触が酷くなってない? こわ……)
◇◇◇
青々とした葉を茂らす木の下で、ステラは小瓶の中身を地面に垂らす。
すると、小さな悪魔の邪悪な表情が緩み、「ギギ……?」と不思議そうに首を傾げた。
「どうやらインプにも効果がありそうです」
「だね!! 召喚した悪魔全部に効いたし、アンタが作った“聖水Ex”は悪魔全般に効果あるって思っていいかも」
ステラに拍手してくれるのは、召喚士のレイチェルだ。
昨夜この屋敷に来てくれた彼女の腕を見込み、ステラは更なる実験の協力を取り付けていた。
サキュパスには効いたが、他の悪魔に効くかどうか分からないので、もっと様々な対象に試してみたくなったのだ。
朝から午後三時までかけて分かったのは、次の通りだ。
1.聖水Exを嗅いだ悪魔は、そのモチベーションを著しく低下させる
2.アンジェリカの様な香りが持続している間、効果は一度のみ発動する
3.聖水Exは香りが重要らしく、悪魔に香りが届く場所なら、どこに垂らしてもいい(少量なら香りの範囲は狭くなり、大量なら範囲が広くなる)
ステラは判明した事を忘れないうちに、手帳にメモした。
「実際大したもんだと思うよー。これ程の質なら、わざわざフレグランスに入れなくてもそのまま売れちゃいそう!」
「あ、そっか。考えもしませんでした」
「もっと欲望出してこうよ! アタシなんか、年がら年中金の事ばっか考えてるよ!」
アハハと笑うレイチェルにつられ、ステラも笑顔になる。
自らを悪く思わせようとしているのだろうが、あっけらかんとした話し方だから、逆に親しみを感じる。
彼女自体に感心が湧いてきたステラは、少し踏み込んだ質問をしてみる事にした。
「レイチェルさんは、召喚の仕事一本で暮らしているんです?」
「そうだね。今んとこ下級の悪魔とか雑魚モンスターしか呼べないけど、そのうち強ーい奴を呼べるような凄腕召喚士になるんだ!」
「やっぱり上級の悪魔って、そうそう呼び出せない存在なんですね」
「呼び出せる者は各国に一人居るか居ないかってくらいだと思う! 召喚スキル自体がレアだし!」
「おお!」
思い浮かべるのは美しき悪魔シトリーの姿だ。
彼女は何故この国を拠点にし、人々の魂を集めているのだろうか。
召喚のプロであるレイチェルなら、上級悪魔についても何か知っているかもしれない。
熱を冷まそうと、手の平を扇いで一生懸命に風を送る。
もがいているのに、お腹を抑える腕の所為で逃げられないのが悔しい。
動揺するステラとは逆に、ジョシュアはステラの肩に顎を置き、平然と新聞を読んでいる。
一体全体この男の神経はどうなっているのか。
異性との触れ合いに圧倒的な経験値の差を感じなくもない。
(そういえばジョシュアって、婚約者がいたんだった……。もう婚約は破棄したみたいだけど…。むぅ……。いや、気にならない! 全く気にならない!)
思考が妙な方向にいきそうなのを制すため、目の前に広げられた新聞を読む事にした。
企業家等をデフォルメした風刺画や、興味を引かれるタイトルがズラリと並んでいるので、目移りする。
左上から端の方まで見ていくと、一つ気になる記事があった。
「政治家さんが毒殺されてます……」
うっかり口に出してしまったのは、ネイック伯爵家のお茶会で死亡した三人の軍人を思い出したからだ。実際には彼等の死因は原因不明らしいのだが、シトリーのイメージが鈴蘭になっているため、どうしても毒を連想してしまう。
「え! あの人殺されちゃったの!?」
「お知り合いなんですか?」
「うん。この女性は貴族院の若手の中でもかなりのやり手だったんだ。葬式に参列しないとな」
珍しくしんみりしているので、それなりの交流があったのだと伺える。
「あの……。仲良しさんが亡くなったのに不謹慎かもしれないんですけど、悪魔シトリーに接触されたかどうか、周囲の方に聞いてもらうことって出来ますか?」
「シトリーに殺されたと思ってる?」
「決めつけるのは早いですが、同じ人物の犯行だと解れば、ネイック伯爵家の疑いも晴れるかなって思いますし……。調べてみる価値はある気がしています」
「そうだね。彼の秘書あたりにでも聞いてみる事にしよう」
テーブルから少し遠ざかっていたレイフが気まずそうな表情で近寄って来た。
何だろうと思っていると、微妙に視線を逸らされる。その仕草でピンときた。
恐らくステラとジョシュアが過剰に接触しているから、見ていてきついのだろう。
「ジョシュア様、ソロソロ出社の準備をしませんと……」
「もうそんな時間か。ステラはまだユックリしているといいよ」
「実はデザートを食べ損なっていたので、そうさせてもらいます!」
「食べたいのを我慢してたんなら、言ってよ!」
硬くホールドしていた腕が離れていったので直ぐに離れてしまおうとしたが、相手が一枚上手だった。
ステラが椅子から降りるやいなや、再び抱きしめられ、頬に口付けられる。
「うわぁ! もうしちゃダメです! キス禁止!」
「はいはい、行ってきまーす」
楽しそうに笑いながら去っていく男の後ろ姿を見ながら、危機感を募らせる。
(うぅぅ……。何かあの人、私への接触が酷くなってない? こわ……)
◇◇◇
青々とした葉を茂らす木の下で、ステラは小瓶の中身を地面に垂らす。
すると、小さな悪魔の邪悪な表情が緩み、「ギギ……?」と不思議そうに首を傾げた。
「どうやらインプにも効果がありそうです」
「だね!! 召喚した悪魔全部に効いたし、アンタが作った“聖水Ex”は悪魔全般に効果あるって思っていいかも」
ステラに拍手してくれるのは、召喚士のレイチェルだ。
昨夜この屋敷に来てくれた彼女の腕を見込み、ステラは更なる実験の協力を取り付けていた。
サキュパスには効いたが、他の悪魔に効くかどうか分からないので、もっと様々な対象に試してみたくなったのだ。
朝から午後三時までかけて分かったのは、次の通りだ。
1.聖水Exを嗅いだ悪魔は、そのモチベーションを著しく低下させる
2.アンジェリカの様な香りが持続している間、効果は一度のみ発動する
3.聖水Exは香りが重要らしく、悪魔に香りが届く場所なら、どこに垂らしてもいい(少量なら香りの範囲は狭くなり、大量なら範囲が広くなる)
ステラは判明した事を忘れないうちに、手帳にメモした。
「実際大したもんだと思うよー。これ程の質なら、わざわざフレグランスに入れなくてもそのまま売れちゃいそう!」
「あ、そっか。考えもしませんでした」
「もっと欲望出してこうよ! アタシなんか、年がら年中金の事ばっか考えてるよ!」
アハハと笑うレイチェルにつられ、ステラも笑顔になる。
自らを悪く思わせようとしているのだろうが、あっけらかんとした話し方だから、逆に親しみを感じる。
彼女自体に感心が湧いてきたステラは、少し踏み込んだ質問をしてみる事にした。
「レイチェルさんは、召喚の仕事一本で暮らしているんです?」
「そうだね。今んとこ下級の悪魔とか雑魚モンスターしか呼べないけど、そのうち強ーい奴を呼べるような凄腕召喚士になるんだ!」
「やっぱり上級の悪魔って、そうそう呼び出せない存在なんですね」
「呼び出せる者は各国に一人居るか居ないかってくらいだと思う! 召喚スキル自体がレアだし!」
「おお!」
思い浮かべるのは美しき悪魔シトリーの姿だ。
彼女は何故この国を拠点にし、人々の魂を集めているのだろうか。
召喚のプロであるレイチェルなら、上級悪魔についても何か知っているかもしれない。
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