上 下
35 / 89
事件の真相

事件の真相①

しおりを挟む
 フラーゼ侯爵邸に連れ去られてから一ヶ月目にして、ステラは漸く王都を出る事を許された。
 とはいっても、完全な自由が許されたわけではなく、攫った張本人も同行しているし、しかも向かっている先は、彼が治める領地第一の都市だったりするが……。

 何故そんな所に向かっているかと言うと、ウィローとフレディの件を終わらせるためらしい。
 二日前にふらりと侯爵邸を訪れたウィローは、彼女の死んだ兄の元恋人と話すために、フラーゼ侯領の都市ザサーに向かうと言い、その日のうちに旅立った。王都に長らく住んでいたその元恋人は、変な噂が広まってしまった事を苦にし、サザーに移住したらしい。
 ウィローが彼女との対話を望むのは、今回が初めてではないようだ。彼女の兄が死んでから直ぐに、元恋人と会おうとしたようだが、取りつく島もないほど拒絶され、何も聞き出せずじまいに終わった。
 それでも今回また話そうとするのは、きっと彼女が何かを知っているのだと確信しているからなのだろう。

 ウィローが旅立ってから二日目の今日。
 まだ陽も昇らぬうちにステラはジョシュアに起こされ、彼の領地に向かっている。
 勿論二人きりというわけではなく、フラーゼ家の使用人数名と、あとは何故かウィローの母であるカントス伯爵夫人も同行していて、後方に続く馬車の中に居る。

 ステラは本日何度目かの居眠りから目覚め、ボンヤリと隣の少年を見遣る。
 視線に気がついた少年は、にこりと微笑む。

「ステラ可愛い!」

「む……」

 服装の事だろうか?
 ステラが今着ているのは、ミントグリーンのドレス。
 折角の寒色系なのに妙に明るい色なので、自分には似合ってない気がする。
 不満を持つのは理由がある。このドレスは自分で選んだわけではないからだ。
 連日の様なジョシュアからのプレゼント攻撃は今も続いていて、これも彼から貰い物だ。

 香水の売上があるので、自分の所持金でも衣類は買えるのだが、ジョシュアから渡される物が多すぎて、わざわざ新しい衣類を仕立てに行くのも馬鹿らしく、貰った物を適当に着ている。最近ではフリフリなドレスを着るのに抵抗を感じなくなってしまっていたりする。

「侯爵が自分好みのドレスを選んでるんだから、可愛らしく見えるんじゃないですか?」

「ドレスっていうか、君が可愛いんだよ!」

 頭を撫でようとしてくる手を両手で防ぐ。

「そう易々と撫でられると思うなです!」

「君が寝ているうちに撫でたけどねー」

 勝ち誇った様な笑みを浮かべる少年が憎たらしくて、頬を膨らます。
 彼の為にと持ってきた物を渡さないでおこうか?
 白いバスケットの中から、ブルーのリボンが巻かれた物を取り出す。先日作ったフレグランス入りの石鹸だ。
 マーガレットやポピー、ウィロー、タイラー、そしてフラーゼ家で交流のある使用人達には既にプレゼントしたのだが、ジョシュアには渡すべきか否か判断がつかず、自分で持ったままにしていた。

(うーん……、でもなぁ。侯爵からは美味しいお菓子とかも貰っているし)

 彼からは様々な物を貰いすぎているのを考えたら、やはりお返しした方がいいのだろう。
 意を決して、彼の膝の上にそうっと、置く。

「これは何?」

「以前、侯爵がアドバイスしてくれた通りに、フレグランス入りの石鹸を作ってみたんです。だから、えーと、良ければ使ってください?」

「へぇ! 凄くいい香りがする! 君も使っているの?」

「いえ、私は侯爵家で用意している石鹸を使っていますね」

「えー」

「でも、ポピー様やウィローさんはコレを使ってくださってるって言ってました! 侯爵も香りのお仲間になったらいいです!」

 ステラがそう言うと彼は微妙な表情になったが、こほんと咳払いしてから、ニンマリと笑った。

「取り敢えず有難う! 君を想いながら使おうかな!」

「それはちょっと、嫌かも……」

「ププ……。まぁ、それは冗談だけどさ、ウィロー嬢の件が片付いたら、修道院に行くからね」

「やっぱりですか」

 ステラが幼少の頃から暮らしていた聖ヴェロニカ修道院は、フラーゼ侯領にあり、今向かっているサザーからは、五十キロ程度しか離れていない。だからもしかしたら、立ち寄るんじゃないかと予想していたが、大当たりだった。

「心の準備をしておいてね」

「はい!」

(一ヶ月の間で、一応言う事は考えていたけど……上手く伝えられるかなぁ)

 修道院という、価値観が固定化されている場で暮らす修道女達は、頑固者揃いだ。
 彼女達に納得してもらえるような話をするには、ステラは若すぎる。

 ドキドキしているうちに、馬車は大きな城門を潜り抜け、古風な街並みを走る。
 夕暮れ時という事もあり、家々の外壁は橙色に染まり、色も形も不揃いな石を敷き詰めた道が、小高い丘の上に立つ大きな邸宅まで続く。
 ステラは窓を開けて、身を乗りだした。

「わぁ……。素敵な街ですね!」

「ここがサザーだよ。あそこに見えるのが、ウチの別宅」

 反対側の窓から外を見ているジョシュアの指は、丘の上の邸宅を指している。

 修道院の中に、この街の絵が飾られていたのを覚えている。
 距離が近くても、絶対に行く事を許されはしなかった地方都市サザー。
 実はちょっと憧れていた。

(侯爵の監視下にはあるけど、やっぱり色んな街を見て回れるのって、いいなぁ……)

 風に遊ばれる髪を抑え、ステラは微笑んだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...