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香料準備フェーズ
香料準備フェーズ③
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ステラは『物体運動スキル』と『複製スキル』を活用し、フレッシュハーブのエッセンシャルオイルをどんどん抽出していく。
同じ種類のハーブであっても、買った店によって微妙に香りが異なっているのが面白くて、あえて混ぜずに別々の遮光瓶に分けて入れる。そして品目リストの中身も店別に細分化して管理する。
一時間足らずで木製のホルダーにフレッシュハーブの遮光瓶を十二本並べる事が出来、ステラは自分の働きぶりに満足した。
(私、実は収集癖でもあるのかな? 様々な種類の遮光瓶を揃えていくのが楽しすぎるなぁ!)
修道院の回廊の掃き掃除ばかりやっていたから分からなかったけれど、自分はこういう仕事が好きらしい。幾らやっても飽きそうにないのだ。
ホルダーを色々な角度から眺め、ヘラヘラ笑っていると……。
__コンコンコン
扉がノックされ、ステラが返事をする前に開かれる。
「ヒェッ!?」
「お疲れ様、ステラ! お菓子を持って来てあげたから、休憩して!」
入室してきたのはジョシュアだった。
ステラは驚きのあまり、うっかりホルダーを落としてしまう。遮光瓶同士が触れ合い、ガシャンと音をたてたのに肝を冷やすが、幸いにも損害はなかった。
「危なっかしいなぁ……」
「お部屋に入るのは、中の人に許されてからにしたほうがいいですよっ。もし中で女性が着替えをしていたらどうするんですか?」
「そういう時もあったけど、喜ばれたんだよね。ティーセットはここに置くからね」
彼は理解不能な事を言った後、作業台の上にティーセットやお菓子が乗ったプレートを置いた。今ステラが座っている場所とは逆側のスペースなので移動しなければならない。
だから一度立ち上がり、椅子を運ぶ。
「お菓子はマーガレットさんが運んでくれるんだと思ってました」
「彼女と廊下でバッタリ会ったから、預かって来たんだ」
「そうでしたか」
綺麗なプレートの上に乗るのは、色とりどりのマカロンだった。
他所の国の修道院で考案されたこのお菓子は、聖ヴェロニカ修道院でもごく稀に出される。
食べた事があるにも関わらず、目の前のお菓子は数段美味しそうに見えるのは、その色ゆえか、完璧な形ゆえか。
ステラは緩む頬をつねりながら、自分で持ってきた椅子に座った。
「全部食べていいからね」
「有難うございますっ!」
全部だなんて、なんて気前がいいのだろう。ちょっとジョシュアを見直してしまいそうだ。
ステラは神に軽く祈りを捧げた後、ピンク色のマカロンを手に取り、齧る。
軽い口当たりのそれは、殆ど噛む事無く溶けてしまった。
マカロンに含まれるアーモンドプードルの確かな風味と、甘さ控えめのガナッシュが丁度良く、修道院で出される物よりずっと美味しい。
「口の中が幸せです……」
「良かった良かった。喉がつまらない様にお茶もどうぞ」
「どうもですっ」
発色の良い紅茶は香り高く、ほんのり甘く、渋みが全く無い。
茶葉の品質がかなり良いのかもしれない。
(こんなに贅沢してしまっていいのかな……)
自分が一人占めしているのに気が咎めてジョシュアを見るが、マカロンへの執着が一切無いのか、部屋の中をふらついている。
「作業は順調?」
「フレッシュハーブのエッセンシャルオイルの抽出は完了出来たので、結構捗っているかもです」
「へぇ、どれどれ」
ステラが木製のホルダーを指差すと、彼はその中に収まる遮光瓶を引き抜き、コルクの蓋を外した。
「おぉ! これはミントかな? 想像以上に鮮烈な香りだね。作り立てだからかなぁ?」
「えぇ……と、たぶん?」
「そうなんだね。参考になるよ! ところでさ、ステラ。どうやってこのオイルを抽出したの? この部屋の中に水蒸気蒸留器の類は置かれてないわけだけど」
「う……っ!」
ノンビリしている中での確信突きは、ビビらせ効果が抜群。
ブルブル震えながらジョシュアを見ると、いい笑顔を浮かべていた。
意外な事に、彼はエッセンシャルオイルがどの様に作られているのか知っていたらしい。
だからたぶん、ステラがスキルを利用してエッセンシャルオイルを抽出したとお見通しなんだろう。
(あぁそっか。さっきのタイラーさんの様子って、この部屋の中に素材があるのに蒸留器が無いから。不思議だったのかも……)
それでも、ステラの微妙な回答について突っ込みを入れずにいてくれたのは、きっとタイラーの優しさゆえだ。
しかしジョシュアはタイラーとは違う。修道院でステラを気絶させて攫ったように、性根の部分がかなり酷いはず。
このエッセンシャルオイルは、彼の主の母用だからという事もあり、シツコク尋問してきそうだ。
たとえ今、彼を誤魔化せたとしても、近々何かの拍子にバレてしまう気もする。
ステラは無駄に足掻くのを諦め、ジョシュアにスキルの事を白状してしまう事にした。
同じ種類のハーブであっても、買った店によって微妙に香りが異なっているのが面白くて、あえて混ぜずに別々の遮光瓶に分けて入れる。そして品目リストの中身も店別に細分化して管理する。
一時間足らずで木製のホルダーにフレッシュハーブの遮光瓶を十二本並べる事が出来、ステラは自分の働きぶりに満足した。
(私、実は収集癖でもあるのかな? 様々な種類の遮光瓶を揃えていくのが楽しすぎるなぁ!)
修道院の回廊の掃き掃除ばかりやっていたから分からなかったけれど、自分はこういう仕事が好きらしい。幾らやっても飽きそうにないのだ。
ホルダーを色々な角度から眺め、ヘラヘラ笑っていると……。
__コンコンコン
扉がノックされ、ステラが返事をする前に開かれる。
「ヒェッ!?」
「お疲れ様、ステラ! お菓子を持って来てあげたから、休憩して!」
入室してきたのはジョシュアだった。
ステラは驚きのあまり、うっかりホルダーを落としてしまう。遮光瓶同士が触れ合い、ガシャンと音をたてたのに肝を冷やすが、幸いにも損害はなかった。
「危なっかしいなぁ……」
「お部屋に入るのは、中の人に許されてからにしたほうがいいですよっ。もし中で女性が着替えをしていたらどうするんですか?」
「そういう時もあったけど、喜ばれたんだよね。ティーセットはここに置くからね」
彼は理解不能な事を言った後、作業台の上にティーセットやお菓子が乗ったプレートを置いた。今ステラが座っている場所とは逆側のスペースなので移動しなければならない。
だから一度立ち上がり、椅子を運ぶ。
「お菓子はマーガレットさんが運んでくれるんだと思ってました」
「彼女と廊下でバッタリ会ったから、預かって来たんだ」
「そうでしたか」
綺麗なプレートの上に乗るのは、色とりどりのマカロンだった。
他所の国の修道院で考案されたこのお菓子は、聖ヴェロニカ修道院でもごく稀に出される。
食べた事があるにも関わらず、目の前のお菓子は数段美味しそうに見えるのは、その色ゆえか、完璧な形ゆえか。
ステラは緩む頬をつねりながら、自分で持ってきた椅子に座った。
「全部食べていいからね」
「有難うございますっ!」
全部だなんて、なんて気前がいいのだろう。ちょっとジョシュアを見直してしまいそうだ。
ステラは神に軽く祈りを捧げた後、ピンク色のマカロンを手に取り、齧る。
軽い口当たりのそれは、殆ど噛む事無く溶けてしまった。
マカロンに含まれるアーモンドプードルの確かな風味と、甘さ控えめのガナッシュが丁度良く、修道院で出される物よりずっと美味しい。
「口の中が幸せです……」
「良かった良かった。喉がつまらない様にお茶もどうぞ」
「どうもですっ」
発色の良い紅茶は香り高く、ほんのり甘く、渋みが全く無い。
茶葉の品質がかなり良いのかもしれない。
(こんなに贅沢してしまっていいのかな……)
自分が一人占めしているのに気が咎めてジョシュアを見るが、マカロンへの執着が一切無いのか、部屋の中をふらついている。
「作業は順調?」
「フレッシュハーブのエッセンシャルオイルの抽出は完了出来たので、結構捗っているかもです」
「へぇ、どれどれ」
ステラが木製のホルダーを指差すと、彼はその中に収まる遮光瓶を引き抜き、コルクの蓋を外した。
「おぉ! これはミントかな? 想像以上に鮮烈な香りだね。作り立てだからかなぁ?」
「えぇ……と、たぶん?」
「そうなんだね。参考になるよ! ところでさ、ステラ。どうやってこのオイルを抽出したの? この部屋の中に水蒸気蒸留器の類は置かれてないわけだけど」
「う……っ!」
ノンビリしている中での確信突きは、ビビらせ効果が抜群。
ブルブル震えながらジョシュアを見ると、いい笑顔を浮かべていた。
意外な事に、彼はエッセンシャルオイルがどの様に作られているのか知っていたらしい。
だからたぶん、ステラがスキルを利用してエッセンシャルオイルを抽出したとお見通しなんだろう。
(あぁそっか。さっきのタイラーさんの様子って、この部屋の中に素材があるのに蒸留器が無いから。不思議だったのかも……)
それでも、ステラの微妙な回答について突っ込みを入れずにいてくれたのは、きっとタイラーの優しさゆえだ。
しかしジョシュアはタイラーとは違う。修道院でステラを気絶させて攫ったように、性根の部分がかなり酷いはず。
このエッセンシャルオイルは、彼の主の母用だからという事もあり、シツコク尋問してきそうだ。
たとえ今、彼を誤魔化せたとしても、近々何かの拍子にバレてしまう気もする。
ステラは無駄に足掻くのを諦め、ジョシュアにスキルの事を白状してしまう事にした。
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