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市場にて
市場にて①
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2日前のハイネの訪問から悩み続けるジルの元に、さらに残酷な知らせがあった。
大公の側近からの知らせによれば、大公が囲う愛人に、子供が出来たらしい。その為、愛人を側室として迎える予定だとの事。
このままジルが公国に戻る事が出来なければ、愛人との子供が大公位を継ぐことになるのかもしれない。
「本当に嫌になってきちゃうわ!」
部屋に籠って悩むのは精神的にまずいだろうと、マルゴットに温室に連れてこられたジルは、挿し木した薔薇にジョウロで水を与えながらモリッツに愚痴を言う。
「俺も男だから愛人の一人や二人作りたいと魔の差す事もありますわ。けど、嫁を不幸にしてまで作りたいとは思いませんわな。家庭を壊す男は最低だ!」
「そうですわよね! しかも、こ、子供だなんて! 私が帰る場所なんてもう無いのね」
「じゃあ、もうこの国にずっといたらいいですよ」
「え!?」
モリッツにハイネとの事は何も喋ってはいなかった。だから今掛けられた言葉に少しばかりドキリとした。
「試しに離縁状でも書いてみたらいいのです!」
「り、離縁状……」
「モリッツさん、あまり出すぎた事おっしゃらないでくださいませ!」
「あ、ああ。そうだな。申し訳ございません」
マルゴットに剣呑な視線を向けられ、モリッツはジルに対して素直に謝った。
「いいのよ。でも確かにそうよね。これだけの事をされてしまっているのだから、離縁状じゃなくても、手紙で苦情の一言二言伝えたっていいはずなのよ」
「そうでしょう! ジル様だけが思い悩む必要などないのですから」
「有難う、モリッツ。朝から嫌な話をしちゃって申し訳なかったわね」
「いつも暇なんでこのくらいどぉって事ありません。そうだ。この前ジル様も何か植物を植えたいとおっしゃっていましたよね? 何にするか決まったので?」
「トマトを植えてみようと思うの」
「トマトって……この国はあまり栽培に適してませんぜ」
「だからですわ! どうせ暇なのだから、手間をかけれる物を作ろうかと!」
モリッツは困ったように頭を掻くが、ジルは気にせずに主張した。
「ジル様素敵です! トマトはつい最近まで黒魔術にも使われていたので、私も大好きな野菜です!」
「マルゴット……。確かにトマトって他所の国では未だに恐れられていて、ただの観賞用だったりするって聞くわ。でも食べなきゃ勿体ないわよ! 私誰でも美味しく食べられるトマトを作るわ」
「お手伝いします! この国でもマンドラゴラモドキを味わいたいです!」
2人で盛り上がる様子を面白そうに眺めていたモリッツは、ポンと手を叩いた。
「だったら一緒に苗を買いに行きませんか? ちょうど必要なモンが有るから今から市場に向かおうとしてたんです」
「私まだ人質だけど、外出なんて許されるのかしら?」
「なーに、ちょっとばかし変装したらバレないでしょう! ここで待っててくだせぇ。家までひとっ走りして母ちゃんから服を借りて来ますんで!」
顔を見合わせ、戸惑うジルとマルゴットを置いて、モリッツは温室を出て行った。
30分程待つと、両手に衣類を抱えた彼が戻って来る。
「お待たせしました。2人共これに着替えてもらえますかい?」
「え、ええ……」
色褪せた花柄プリントのゴワつくドレス等を受け取り、ジルとマルゴットは温室の近くの倉庫で着替えた。
モリッツの持って来た服は、太ったジルと痩せ細ったマルゴットにぴったりだった。もしかすると彼の家族に似た体形の者達がいるのかもしれない。
大公の側近からの知らせによれば、大公が囲う愛人に、子供が出来たらしい。その為、愛人を側室として迎える予定だとの事。
このままジルが公国に戻る事が出来なければ、愛人との子供が大公位を継ぐことになるのかもしれない。
「本当に嫌になってきちゃうわ!」
部屋に籠って悩むのは精神的にまずいだろうと、マルゴットに温室に連れてこられたジルは、挿し木した薔薇にジョウロで水を与えながらモリッツに愚痴を言う。
「俺も男だから愛人の一人や二人作りたいと魔の差す事もありますわ。けど、嫁を不幸にしてまで作りたいとは思いませんわな。家庭を壊す男は最低だ!」
「そうですわよね! しかも、こ、子供だなんて! 私が帰る場所なんてもう無いのね」
「じゃあ、もうこの国にずっといたらいいですよ」
「え!?」
モリッツにハイネとの事は何も喋ってはいなかった。だから今掛けられた言葉に少しばかりドキリとした。
「試しに離縁状でも書いてみたらいいのです!」
「り、離縁状……」
「モリッツさん、あまり出すぎた事おっしゃらないでくださいませ!」
「あ、ああ。そうだな。申し訳ございません」
マルゴットに剣呑な視線を向けられ、モリッツはジルに対して素直に謝った。
「いいのよ。でも確かにそうよね。これだけの事をされてしまっているのだから、離縁状じゃなくても、手紙で苦情の一言二言伝えたっていいはずなのよ」
「そうでしょう! ジル様だけが思い悩む必要などないのですから」
「有難う、モリッツ。朝から嫌な話をしちゃって申し訳なかったわね」
「いつも暇なんでこのくらいどぉって事ありません。そうだ。この前ジル様も何か植物を植えたいとおっしゃっていましたよね? 何にするか決まったので?」
「トマトを植えてみようと思うの」
「トマトって……この国はあまり栽培に適してませんぜ」
「だからですわ! どうせ暇なのだから、手間をかけれる物を作ろうかと!」
モリッツは困ったように頭を掻くが、ジルは気にせずに主張した。
「ジル様素敵です! トマトはつい最近まで黒魔術にも使われていたので、私も大好きな野菜です!」
「マルゴット……。確かにトマトって他所の国では未だに恐れられていて、ただの観賞用だったりするって聞くわ。でも食べなきゃ勿体ないわよ! 私誰でも美味しく食べられるトマトを作るわ」
「お手伝いします! この国でもマンドラゴラモドキを味わいたいです!」
2人で盛り上がる様子を面白そうに眺めていたモリッツは、ポンと手を叩いた。
「だったら一緒に苗を買いに行きませんか? ちょうど必要なモンが有るから今から市場に向かおうとしてたんです」
「私まだ人質だけど、外出なんて許されるのかしら?」
「なーに、ちょっとばかし変装したらバレないでしょう! ここで待っててくだせぇ。家までひとっ走りして母ちゃんから服を借りて来ますんで!」
顔を見合わせ、戸惑うジルとマルゴットを置いて、モリッツは温室を出て行った。
30分程待つと、両手に衣類を抱えた彼が戻って来る。
「お待たせしました。2人共これに着替えてもらえますかい?」
「え、ええ……」
色褪せた花柄プリントのゴワつくドレス等を受け取り、ジルとマルゴットは温室の近くの倉庫で着替えた。
モリッツの持って来た服は、太ったジルと痩せ細ったマルゴットにぴったりだった。もしかすると彼の家族に似た体形の者達がいるのかもしれない。
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