8 / 101
早くも離婚!?
早くも離婚!?⑤
しおりを挟む
「ハイネ様は次期皇帝として甘やかされて育ってきたんです! なのに、昨日の貴女ときたら……。可哀そうだと思いませんか!? コルト様の事だって、ハイネ様は本当は胸を痛めていたのにっ!」
翌日朝早くに離宮を訪れたバシリーは顔を真っ赤にしてジルを非難する。
「あの様に酷い言葉をかけられたのに、黙っているべきだったとおっしゃるのですか?」
「その通りです。ご自分の立場を考えてください。というか、ハイネ様と貴女の結婚は、あの方のご温情なのですよ。皇帝は貴女を切り捨てよと命じられたのに、代替案を出されたのはハイネ様だったんです。なのに貴女ときたら!」
「嘘……、私殺される予定でしたの?」
「もう分かりましたね? 大人しくここで離縁状にサインしてください」
バシリーは苛立った様にジルに書類を突き付けてきた。
改めて人質という立場の危うさを思い、ジルの胸は不安で押しつぶされそうになる。
(どうしよう……、この人が言うように離縁状を書いたら、戦争が始まる? そうしたら公国内はまた荒れてしまうわ。それにお父様は……)
大公にジルを売った父も、アレはアレで優しい部分はあったし、面白い人だった。
ジルが帝国に寝返ったと知れたら、父はただでは済まないだろう。
「ハイネ様の事を考慮しなくても、すぐに書ける程軽い内容ではないですわ……」
震える声を振り絞って告げたジルに、バシリーは呆れたようだ。
「ご自分の事を第一にお考えになったほうがいいですよ。下手な事を言えば貴女の命はすぐに吹き飛んでしまうんですからね。それに離縁状だって、代筆可能ですので」
「……」
「ハイネ様は優秀ですし、決断力もあります。将来必ずこの大陸を制覇するお方ですよ。妃になれる事をお喜びくださいませ!」
「でも私……バツイチになる覚悟もしなければいけませんし」
「そんな事些細な事ですよね! 話にならない。この書類は置いて行くので、次に私が来るまでにサインしておいてくださいね」
バシリーはジルに苛立ちをぶつけ、さっさと立ち去ってしまった。
彼の置いて行った書類を見ると、内容は大公と離縁する意志を表明するもので、一番下にジルがサインすればいい様だ。
「なかなか厄介な事になってますね……」
マルゴットがジルのカップにお茶を注ぎ、心配そうに声をかけてくれる。
「また戦争がはじまると思うと、簡単に決断できないわ。どうしたらいいのかしら……。とは言っても私に選択肢なんかないのだけど」
「ハイネ様を呪い殺しますか?」
「駄目よ! あなたが捕まってしまう事になるわ!」
「そうですか?」
マルゴットは残念そうに舌打ちした。
◇
バシリーの訪問に精神をすり減らしたジルだったが、この日はこれだけで終わらなかった。
昼食を用意される時間の少し前に現れた人物に、離宮は大騒ぎになった。
「よぉ、昨日ぶりだな」
「ハ、ハイネ様!?」
離宮の使用人に連れて来られたサロンのカウチにふんぞり返っていたのはハイネ・クロイツァーだった。今日のハイネはやや影があり、ちょうどいい塩梅に繊細な美少年に見える。
彼の姿を見たジルは回れ右して、逃げ出したが、悲しい程に足が遅く、追いかけて来たハイネに捕らわれてしまう。
「昨日の仕返しにいらっしゃったのですか?」
「仕返し?」
「私が頬を摘まみ上げたから……」
「っ!! 俺が女に一度や二度頬を虐げられたからといって、仕返しするような男に見えるのか!?」
「は、はい!」
「なに!?」
驚いた顔をしたハイネの隙をつき、ジルは掴まれていた手を引き抜き、再び逃げようとする。
「逃げるな! お前と話をしに来たんだ」
「暴力は振るいませんか?」
「ああ、俺はお前みたいな野蛮人ではないから理不尽な暴力は振るわない」
そう言われてしまうと、黙り込むしかない。昨日の行動はけして褒められた事ではないのだから……。
「今日は俺もここで昼食をとる。サロンに戻るぞ」
「はい……」
翌日朝早くに離宮を訪れたバシリーは顔を真っ赤にしてジルを非難する。
「あの様に酷い言葉をかけられたのに、黙っているべきだったとおっしゃるのですか?」
「その通りです。ご自分の立場を考えてください。というか、ハイネ様と貴女の結婚は、あの方のご温情なのですよ。皇帝は貴女を切り捨てよと命じられたのに、代替案を出されたのはハイネ様だったんです。なのに貴女ときたら!」
「嘘……、私殺される予定でしたの?」
「もう分かりましたね? 大人しくここで離縁状にサインしてください」
バシリーは苛立った様にジルに書類を突き付けてきた。
改めて人質という立場の危うさを思い、ジルの胸は不安で押しつぶされそうになる。
(どうしよう……、この人が言うように離縁状を書いたら、戦争が始まる? そうしたら公国内はまた荒れてしまうわ。それにお父様は……)
大公にジルを売った父も、アレはアレで優しい部分はあったし、面白い人だった。
ジルが帝国に寝返ったと知れたら、父はただでは済まないだろう。
「ハイネ様の事を考慮しなくても、すぐに書ける程軽い内容ではないですわ……」
震える声を振り絞って告げたジルに、バシリーは呆れたようだ。
「ご自分の事を第一にお考えになったほうがいいですよ。下手な事を言えば貴女の命はすぐに吹き飛んでしまうんですからね。それに離縁状だって、代筆可能ですので」
「……」
「ハイネ様は優秀ですし、決断力もあります。将来必ずこの大陸を制覇するお方ですよ。妃になれる事をお喜びくださいませ!」
「でも私……バツイチになる覚悟もしなければいけませんし」
「そんな事些細な事ですよね! 話にならない。この書類は置いて行くので、次に私が来るまでにサインしておいてくださいね」
バシリーはジルに苛立ちをぶつけ、さっさと立ち去ってしまった。
彼の置いて行った書類を見ると、内容は大公と離縁する意志を表明するもので、一番下にジルがサインすればいい様だ。
「なかなか厄介な事になってますね……」
マルゴットがジルのカップにお茶を注ぎ、心配そうに声をかけてくれる。
「また戦争がはじまると思うと、簡単に決断できないわ。どうしたらいいのかしら……。とは言っても私に選択肢なんかないのだけど」
「ハイネ様を呪い殺しますか?」
「駄目よ! あなたが捕まってしまう事になるわ!」
「そうですか?」
マルゴットは残念そうに舌打ちした。
◇
バシリーの訪問に精神をすり減らしたジルだったが、この日はこれだけで終わらなかった。
昼食を用意される時間の少し前に現れた人物に、離宮は大騒ぎになった。
「よぉ、昨日ぶりだな」
「ハ、ハイネ様!?」
離宮の使用人に連れて来られたサロンのカウチにふんぞり返っていたのはハイネ・クロイツァーだった。今日のハイネはやや影があり、ちょうどいい塩梅に繊細な美少年に見える。
彼の姿を見たジルは回れ右して、逃げ出したが、悲しい程に足が遅く、追いかけて来たハイネに捕らわれてしまう。
「昨日の仕返しにいらっしゃったのですか?」
「仕返し?」
「私が頬を摘まみ上げたから……」
「っ!! 俺が女に一度や二度頬を虐げられたからといって、仕返しするような男に見えるのか!?」
「は、はい!」
「なに!?」
驚いた顔をしたハイネの隙をつき、ジルは掴まれていた手を引き抜き、再び逃げようとする。
「逃げるな! お前と話をしに来たんだ」
「暴力は振るいませんか?」
「ああ、俺はお前みたいな野蛮人ではないから理不尽な暴力は振るわない」
そう言われてしまうと、黙り込むしかない。昨日の行動はけして褒められた事ではないのだから……。
「今日は俺もここで昼食をとる。サロンに戻るぞ」
「はい……」
0
お気に入りに追加
1,034
あなたにおすすめの小説
シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜
長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。
朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。
禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。
――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。
不思議な言葉を残して立ち去った男。
その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。
※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。
【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。
処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。
口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る…
※表紙はaiartで生成したものを使用しています。
はじめまして、期間限定のお飾り妻です
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【あの……お仕事の延長ってありますか?】
貧しい男爵家のイレーネ・シエラは唯一の肉親である祖父を亡くし、住む場所も失う寸前だった。そこで住み込みの仕事を探していたときに、好条件の求人広告を見つける。けれど、はイレーネは知らなかった。この求人、実はルシアンの執事が募集していた契約結婚の求人であることを。そして一方、結婚相手となるルシアンはその事実を一切知らされてはいなかった。呑気なイレーネと、気難しいルシアンとの期間限定の契約結婚が始まるのだが……?
*他サイトでも投稿中
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる