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本編

#14 仲介人?

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「そうなんですよ~! あっお嬢様は歴史が得意ですよね」

「え、えぇ。まぁ好きではあるわね」

「そうなんすか!ウィン様も同じです、ね! 」

「あぁ、まあそうだな」

「いやぁ、ちょっと聞いてくださいよ。ウィン様この前なんてねテストで・・・・・・」


あの騒動(先輩事件)から一杯紅茶が無くなる程度の時間がたった。今は得意教科の話で盛り上がっている。特にっていうかサリーとカインさんの2人が。私とウィンは口を出すだけ。えぇそれはもうなんやかんやあったのだ。

私がウィンと話そうとしてもやっぱりまともな会話が続かない。先輩事件のこともあって真っ赤な顔してアワアワするだけ。何から話せばいいものか、慣れてなさすぎてひとつも思いつかない。見かねたサリーが話の輪に入ってくると、カインさんも入ってきた。そうしていつの間にか話の主導権はこの二人に握られていた。とてもスムーズな司会進行具合で、程よく話を振ってくれるから楽しくいられる。だいぶこの場にも慣れてきたことだし、お話しするってとっても楽しいわ!


「そうそう、お嬢様渡したいものがあるんですよね。今のうちに渡しておきましょうよ。どこにあるんです? 」


まぁこのタイミング!? 急にサリーが爆弾を打ち込んできた。ようやくリラックスしてきたとこなのにまた逆戻り。まだまだ心の準備が追いついてないです、サリーさん。

昨夜サリーに 「ほんとにこれ渡して大丈夫ですか? 引かれません? これ。今なら間に合います、やめておいたらどうですか」 ってめちゃくちゃ反対されたときは絶ッ対大丈夫だって......喜んでくれるって自信があったのに。今更恥ずかしくなってきた。はぁ。でも渡すしか・・・・・・。相手方はじっとこちらを見ていて無かったことには出来そうにない。軽く息を吸って、カバンから意を決して取り出す。紙袋に入った渡したいものは計27枚のドレスレポート仮面舞踏会版だ。


「これ、なんですけど。別に大したものじゃないと言いますか・・・・・・。独自にまとめたドレスレポートです。よければ読んでいただけたらなぁと」

「これは今、少し読ませてもらっても? 」

「ぜひ! 読んでもらえたら嬉しいです」


軽く頷いた彼は読み始めた。
無事にわ、渡せたわ。どうかな? これまでサリー以外に見せたことないから評価が気になる。今私の心の中では緊張感とわくわくとした感情が入り乱れている。サリーの話も右から左へと流れていくし。どうしてしまったのかしら。こんな気持ち、入学テストぶりだわ。ぎゅっと手に力が入ってしまう。目の前に座る彼を静かに見守ってしまう。心地よいパラパラと紙をめくる音。どうかな、どうかな。ちゃんとまとめたものだから内容は自信あるけど・・・・・・。少しとは言ったものの、ウィン読むの速いなぁ。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆


あっ、そろそろ帰らなきゃダメかも。
気付けば外から入る光はオレンジ色で。室内もほわほわとした雰囲気になっている。窓からは赤く染まりゆく空が見えている。綺麗ね。こんなグラデーションのドレスいいかもしれない。茜色を中心にこの空をドレスにうつすの。その上には、長い滑らかな生地にふんわりとしたレースをのせて。微妙なグラデーションを表現しちゃって。丁寧に編み込まれた白いショールなんかを羽織ったりしちゃって! デ、デザイン帳はどこ? 今すぐ書き留めないと。脳内のイメージが逃げてしまう。空は思っているよりも早く西へと動いていくのだから。あぁこのプリントの裏でいいわ。はやくはやく急がなきゃ。サラサラと会話そっちのけで書き始めるとアイデアが止まらない。この勢いのまま『天の空シリーズ』とか考えてみようかしら。朝日とかもいいのでは!? 明日は早起きしてみようっと。


「お嬢様! 戻ってきてください。ウィン様があの長ったらしいレポートを読み終わったそうですよ」

「え、あ、え。わっすみません。どうでしたか? 」


夢中になりすぎた。まぁよくある事だ。手元のプリントは優しく折りたたむ。あ~感想聞くの緊張する。聞くのが少し怖くなってきた。


「とても良かったよ。最近の流行りの考察なんか特に。いくつか気になることがあった。もう一度じっくり読みなおしたいから、これ持って帰ってもいいか? 」

「ありがとうございます! それはお好きにどうぞ。あげたものですので」

「じゃ遠慮なくいただくよ。ありがとう、リリー。今度俺も染料の資料とか用意してもいいだろうか」

「!!! 私、染料の資料見てみたいです。この前お話をした時から気になっていて、最近勉強し始めているんです。よろしければぜひ! 」

「あぁ持ってこよう、約束する。じゃあ来週またここで」

「はい、また」


挨拶を交わしながら部屋を出た。後ろでしっかり扉が閉まったのを確認してから話し出す。


「ね、ねぇサリー! ウィンと」

「お嬢様言いたいことは分かりますから、その先は家に帰ってからで。馬車では宿題を終わらせないと」

「そうね、ほんとだわ」


ローズマリーに怪しまれないよう宿題をやっていたことにするのだった。忘れてた。でもこの今日出た宿題ぐらいならすぐに出来そう。

ガタンゴトンと揺れる馬車の中で宿題をしながら考える。今日ウィンと会えてよかった。また会う約束までしちゃったし。次こそ私からお話し出来るように頑張ろう。正真正銘のドレ友になれるかしら。もう来週が待ち遠しい。輝く未来しか考えられなくて心が満たされていく。



その夜。

「サリー、今日はお泊まり会しましょう。話し足りなさすぎてこのままだと寝られないわ」

「お嬢様。急に言われても・・・・・・。べつに一人で寝られるでしょ? 話すのは明日でもいいじゃない」

「ダメ!ダメなのよ、今日じゃないと。ねぇお願いったら」

「寝ましょう。おやすみなさい」

「えーっ待ってよ。だってだって」

「お嬢様。御屋敷に帰ってきてからもう何時間も話しましたよね。私飽きるほど聞きましたよ。お嬢様、わかってますよね」

「はい」

「では、おやすみなさい」


引き止める間も無くササッと出ていっちゃった。話し足りないのになぁ。次は何を持っていこうか、私がもっと話し上手になるためにどうするべきか、サリーから見た私の今日の点数は、とか議題は沢山あるのよ。なのに、なのに! 冷たいよ。サリーーー! 

今夜は本当に眠れそうにない。月光に照らされながらぼんやりと今日一日を振り返るのだった。
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