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6月9日

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陸也が寝てる

それもリビングに大の字で。

デカい。

こういう時、つい指がソワソワする。
そっと寄って行ってしゃがみ込むと気管支辺りにぺたっと掌を付ける。
硬いけど柔らかい、強靭な筋肉と丈夫な骨で出来てるんだ。

骨格が俺のとは全然違う。

「カッコいい」

掌を心臓の上から肩へ滑らせる。
高校2年生の時、スポーツ少年はそれまでやってた柔道で左肩の脱臼がクセになって試合に出るのを辞めた。
高校最後の1年、チームトレーナーとして過ごした。

もう痛く無いって言ってた。

試合には出られなくても筋トレと日常生活に支障は無い。
ホイホイ俺を抱き上げて、激しいセックスが出来る位には全然平気。
それでも、やっぱ痛そうだなとか。
いっぱい頑張ったんだな、とか思うといくらでも撫でたくなる。

それに大人しいゴリラは可愛い。

膝を着いて肩にキスをする。
もう二度と外れません様にって祈りながらキスするのは、少しだけ気分が良い。

もう少し触りたい。
ぽてっ、と頭を乗せてみた。

ぁ。これいい。

陸也の胸が上下してるのが分かる。
心臓の音もするし、布一枚越しの陸也の体温が気持ち良い。

ねむく なってきた。

ーーーーー

そういえば昔。
アイツが二人暮らしの家に来た後だったっけ。
それとなくアドバイスされたんだよな。

ーー整理整頓は安定性に繋がる。試してみないか。

結局、俺と良悟二人では試す余裕無かったなぁ。
まぁそれでも、寝室だけは綺麗にしてたんだけど。

それに比べてこの家は、何処も散らかってない。
陸也が片付け方を教えた。

俺的に一番役立ってるのは、ファイリングだな。
あれだけ広げてた書類が、クリアファイルに収まったのには感動した。
インデックスの使い方を日付じゃなくて、キーワードに変えてみたらどうだって言うから。

お陰でこの部屋は散らからずに済んでる。家も。
それに良悟は元々整頓が好きだから、この家の色んな物は綺麗に並んでる。

前、ABCが書いてあるチョコを袋から全部出して、アルファベット順に並べてた。

何してるの、って聞けば均等に食べたいからABCを選り分けてるって教えてくれた。どういうことか分からなくて見てたら、AからZまで揃ったチョコを袋に戻した。

残りはやたらCとTが多くて、それはどうするのって聞くと。
今から全部食べるって、ニコニコしてた。

よく分かんないけど可愛いのは間違いない。

その次の日から、テーブルに26個のチョコを並べて端から食べてた。
Aを食べて勉強。息抜きにBを食べる。

そういう事か、と思うとちょっとした悪戯心が湧く。

「ねぇ、良悟」

「うん?」

「俺、R食べて良い?」

「良いけど、Cでも良いよ?」

それじゃ意味がないんだよね。
こういう鈍い所が楽しい。

「俺は、好きな子のアルファベットが食べたいんだよ。良悟。」

バチっと目が合った。
びっくりして大きくなった目が瞬きを繰り返す。
その内、顔と耳が真っ赤になって、唇がウニュッと曲がって小さい声で反撃された。


「俺も、」

「うん?」

次食べる予定のアルファベットはCだった筈だけど。
良悟が開けた包みはKだった。

「俺も好きな子のアルファベットたべたぃ…っ、」


ーーーーー


「クソッ、」

「何すか?」

「何でもねぇ、少し出てくる」

「はぁ?今っ、?」

「うるせぇ」

クチ悪ぃなシギさん。
でも、今から突っ込みますよってタイミングでのし掛かられてドキドキしてた俺を放って何処行くって言うんすか。

「もしかしてゴム無い?」

「15分くらいだ。待ってろ。」

「嫌っす、」

「うるせぇ、待ってろ。」

「待ってる間にヤル気無くなったらどうしてくれるんですか」


だってそうだろ。
夜にちょっと外の空気吸って、眩しいコンビニに入れば酒とビールが目に入って、つい手を伸ばすだろ。
そしたら、男の為に買うゴムの存在なんて直ぐ忘れる。

俺、まだパンツも脱いで無いし
シギさんはあっという間にズボン引き上げてるし。
やっぱ辞めようってなるかな。

「お前、朝から晩まで俺と居るんじゃなかったのか」

「え?はい。」

「今、腹ん中に出して明日仕事休むつもりか。」

「いや?そんなつもり無いっす」

つーか。何の話してんだ。
生でヤル時なんて今までも有っただろ、何で俺が明日、仕事を休むなんて話になるんだ?

「はぁ...。」 

今度は溜息。この人の溜息は嫌味じゃねぇ、キレるな俺。
言いたい事をグッと溜めて、俺にも分かる様に説明しようと噛み砕いて出た結果のガスみたいなもんだ。
ガスに用はない。
噛み砕いた残り滓の言葉だけを聞けば良い。

けどマジで、いつか絶対そのクセ辞めさせてやるからな。

「腹壊すぞ。」

「掻き出すから良いっす」

「それは」

「ンッあ、」

「ここまでお前の指が届くって事で良いな?」

「ぃ...ゃ、むりっ」

シギさんの指が、図面に引いた線を辿るみたいに俺の腹をなぞると、喉から細い声が出た

「くぅー…っン」

「届くのか。」

「むり、むりです」

「ここ好きだろ。」

「好きだけど押すな…ぁ、っん」

「要るか。」


クッソ、なんだよこれっ、シギさんの声のせいで頭ん中がグルグルする…っ、


「言えよミズナ。ここまで欲しいか」

目がジンジンするっ、ああクソっ、クソっ。
この人の声すげー好きだっ、

「ほしぃ。そこにあんたの欲しい…」

「15分待ってろ。行ってくる。」

シギさんの身体が覆い被さって来て、デコにキスが落ちて来た。
何。今の。

「返事は」

「うぇ…っ、と。いってらっしゃい、?」

「ああ。寝るなよ。」

「うっす」

テーブルの上の財布を握って、玄関で車の鍵を掴んでドアがバタンと閉まる。

俺、今デコチューされたよな。
しかも、行ってらっしゃいって何だよ。シギさん返事してくれたな。

そんで、気付いた。
いつもナカに出す時は土曜日で、俺が腹痛いって言うのは決まって日曜日だ。
痛いつっても、ちょっとチクチクするだけで。

そう言えば。
偶にスゲェ痛い時有るな。
大体、そう言う時はいつも…スゲェ甘いシギさんが見れる。
名前呼んでくれたり、何回も俺のいいとこ当てて、揺さぶって、キスしてくれる。

そっか、
シギさんやっぱ俺のことスゲェ好きじゃん。

だってそう言う事がシたいって事だよな。
スゲェ甘やかして俺を抱きたいんだろ。

「はっ、マジで、分かりづらいんだよあの人。」

早く。
早く帰って来ねぇかな。

あんたがさっき撫でた腹が、疼いて仕方ないんだよ。

「ハジメさん、早く帰って来いよ」

ーーーーー


どうしてもカラフルなたい焼きを見てると苛々する。
もう無理。
息抜きが要る。

良悟。
良悟を、吸おう。

「あ。」

「お?」

「良悟起きてる?」

「いや、寝てるな。」


その寝てる可愛い子を膝に抱き込んで、延々こめかみを撫でてるお前は何なんだよ。

「それ好きだな」

「ああ。」

「重くねぇの?」

「ふっ、羽の様だぞ。」

「嘘つけ」

陸也の腕ですやすや眠る良悟は、心底安心し切った顔をしてる。
昼寝で嫌な夢を見たって言ってたのは、一昨日だったけど。

「どのくらい寝てる?」

「さぁ。俺が寝てる間に胸に乗ってたからな。」

「早めに起こして、一緒に晩御飯作って貰おうかなぁ。」

「そうだな。俺も台所に立つ良悟が見たい。仕事は良いのか?」

「あーー…良い。」

「良くなさそうだぞ。」

「俺も息抜きしたいんだよっ、」

陸也の前に回り込んで、眺めていただけの良悟に近付く。
強めに頬を撫でて、指先で唇をなぞる。

我慢出来なかった。
キスして、反応の無い唇に何度も吸い付くと、良悟の腰が少し揺れる。

「りょーご。起きて」

「んぅ」

「あーん、して良悟?」

「んぅ」


ぱかっ、と小さく口が開く。

「ちゃんと聞こえてるな。」

「素直過ぎる、これで襲われても俺悪くなくない?」

寝てる良悟の身体を触るのは、楽しい。
エロい彫刻を隅々まで撫で回してる様な気分にさせる。

「はぁ、♡」

舌を差し込んだ良悟の口は、初め反応しなかった。
けど、腰がモゾっと揺れて、ビクッと跳ねる様になった頃にはたっぷり舌を絡めてくれて。

ごくっ、と溢れた唾液を飲み込んだ。

「かずみ…、?」

「なぁに?♡」

「なんでキスするの」

俺は寝てたのに何でキスするの、って事かなぁ。
何でも何も良悟がおくち開けてくれたからなんだけど。

やっぱ無意識だったんだねぇ。

「ごめんね、」

「違う、キスはうれしぃ…♡」

「え?」

「ご飯?」

「そうだぞ良悟。一緒にハンバーグ作ってくれないか。」


良悟がふわっふわの笑顔で俺に微笑んでる。
あーー可愛い、マジで可愛い、
寝てる身体にキスされても嬉しいって、どんだけ無防備なの?

「分かった。おはよう和己♡」

「んふっ、天使、」

「陸也ぁ?」

「どうした良悟」

「抱っこ気持ち良くて寝るから、おろして…ねむくなる」

「もう降りるのか、寂しいな。」


ゴリラが可愛い子ぶってんだよ。

「ほら、おいで良悟」

ーーーーー

辞めとけ、つったのは俺だろ。
揺らいでんじゃねぇ。

車で片道5分も掛からない距離だ。
どう見積もっても15分は掛からねぇが。

遅くなったらアイツに悪い。

要るもん取って、酒とタバコとついでに目に付いた物をカゴに放り込んでいく。

熱に浮かされる様に揺れるあの目が、良いと思ってた筈だが。
今、頭の中にあるのは馬鹿みてぇな理想。

辞めとけ。
アイツは俺以外にもモテる。一途で良い男だ。
俺なんかにゃ勿体無ぇ。

「あ、おかえりシギさん」

「ああ。」


ただいまーーが、喉元まで出掛かった。

「あ。それ俺のチョコっすか?」

「ああ、」

「やりぃ、今食って良いっすか?」

「駄目だ。」

「ぇ。なんで」

「菓子なら後でやる。光輝。」

「なん、なんっすか」

「…要らねぇのか。」


何が、と言わない俺は卑怯だな。
辞めとけ、つった癖に要らねぇって言葉は聞きたくねぇ。

とんだクソ野郎だ。

「いるっ!欲しいっ、ハジメさんっ」

「飴じゃねぇぞ」

「分かってるよ、」

袋から要るもんだけ取って、身体を寄せる。
拒まれた事は無ぇ。
コイツは何時も、嬉しそうに俺を待ってる。

「ん、ふ…っ、ふ、ぅ」

「光輝」

「んっ、?」

「待ったか」


鈍感で、察しの悪い所が有る。
だが、人の話を親身に聞く耳が有る。

俺なんかにゃ、勿体無ぇ。

「待つ暇無かったっすよ、早過ぎてびっくりした。そんなに俺が抱きたかった?」


勿体無ぇ、が。
まだ誰にも譲りたくねぇ、

「そうだな。口あけろ光輝っ、」

「んー…っ、♡」


ーー悪いな。
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