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2月2日 (2
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「あれ、良悟着替えたんだ?」
「陸也のせいだ。」
「ふーん。」
大凡時間通り。
きちんと20分遅れて現れた和己は、キッチンで俺と陸也を上から下まで眺めてニヤニヤしながら箸と小皿を持って行った。
今更、恥ずかしがって小突き合う事ないけど。
「バレたな。」
陸也が楽しそうに背中越しにコソッと言う。
俺からしてみれば、そっちの方が恥ずかしい。
三人が揃って食卓に着く。
今日は和己の隣に座る。
ゴリラはなんかやらしいからもう良い。
あとで和己に、鬼さんのケーキを見せてあげよう。
可愛い物好きなコイツが喜ぶ顔を見て俺も癒されたい。
「陸也、晩御飯に間に合ったの久しぶりじゃん?」
「先月は週1回だったな。」
「てか、この春巻き美味いね良悟。どこの?」
「これは当たりだ。プライベートブランドの春巻き。次も買う。」
当たり外れは有るが、プライベートブランドは五分五分で当たる。
2個買えば俺的にはどっちかがマシか、当たりだ。
けど春巻きはそれを飛び越えて大当たりだった。
「探索家だねぇー。この前はポテチが当たりだったっけ?」
「ポテチ?美味かったのか?」
陸也はこういうのは興味ない。
どこの何のポテチだろうが、俺が摘んで食わせれば全部美味いって言う。
けど、俺が食べるには拘りがある。
「美味いかった。安いし。ちょっとしょっぱいけど当たり。でも、やっぱりオリジナルの方が食べたい。」
「あっ、それで最近ポテチ食べてないんだ良悟。」
ポテチの話をしながらおにぎりを食うのは、何かおにぎりに迷惑な気がするんだが。
「何でだ、気に入ってただろ?」
「む。」
プライベートブランドは時々、大手メーカーが製造を担っている事が有る。俺もたまたまパッケージをひっくり返して見て、びっくりした。
思わず5列左に並んでいたオリジナルと見比べたくらいだ。
俺の好きなメーカーが、そっくりさんを自社で作っていた。
だから、どっちも好きなんだけど。
「陸也、オリジナルの方が高いんだよ。確か、50円くらい?」
「ろ、くじゅうえん、」
「俺の1日のコーヒー代より安いな。金欠か。」
「お小遣い増やそっか、俺もっと良悟に貢ぎたいなぁー。」
「イヤだっ。」
俺はケチってる訳じゃない。
安くて美味しい物を探して、食べたいんだ。
確かに、このシチューのルーも。
和己がこれじゃなきゃ嫌だって言うからこれにしてる。
ちょっと高い定番の奴で、他のルーにしたら何か足らなくて微妙だった。牛乳と缶詰のコーンを足したら美味くなったけど。
俺は去年、前の仕事を辞めた。
少し苦労したが、今は、平日の朝たった3時間だけのパートに出ている。
収入はグッと減り、貯金が減っていくだけだと思っていたが。
再就職するまでの間、二人が俺の分の生活費を出してくれ、やってみたかった通信講座に勝手に申し込まれ、遂にはお小遣いまでくれる様になった辺りで、マズイと思った。
決めたんだ。
三人で生活する以上、依存しないって。
このままじゃ、家から一歩だって出られなくなる。
そう思うと、1日たったの3時間だ。
パートにも出掛けられるようになったし、安くて美味しい物を探す趣味が出来た。
それでも未だに二人は俺にお小遣いを渡してくる。
それは、多分。
二人が俺とのプレイを気に入ったからだと思う。
お陰で、普通のセックスでマンネリもしない。
ーーーーー
「良悟ぉー。」
「なぁにー。」
「ちょっと、ヘルプ、袖濡れるっ、」
ぼーっと、眺めていたバラエティ番組から慌てて目を離し、キッチンで皿を洗う和己に駆け寄る。
本当に右手の袖が、濡れそうだった。
慌てて袖を上げてやろうと思ったが。
「面倒臭い。」
生地が柔くて、上げてもどうせまた落ちる。
それに俺まで濡れる。
「そんなっ、これお気に入りなんだってば。」
良悟、と呼ばれても。ニットは嫌だ。
「それなら手を洗って水を止めて手を拭いて、自分でやれば良い。」
「もぉー。何で捲ってくんないの?」
何で、と言われても。
嫌だとしか言い訳を思い付かなかった。
「りょーご。どした?このセーター好きじゃない?」
「好きじゃないけど、嫌いでもない。」
「じゃあ、何か困ってる?」
困ってる?
困ってるか、困っていないのかと言われたら。
多分、俺は今ほんの少しだけど困っている。
俺は賢いから、よく困り事に気付く。
和己は手を洗って、水を止めて、手を拭いて、ハグをしてから聞いてきた。
「どうしたのかな、何か嫌な事があった?」
和己は良い匂いがする。
安心する俺の好きな匂いのひと。
和己がハグの仕方を教えてくれた。
俺は、和己が嫌いじゃなければ腕を回してあげないといけない。
そうする事で、俺が和己を好きだと、和己が認識出来るから。
だから、ハグされてる俺も同じ事が言える。
和己は俺が好き。だからハグしてる。
「爪が、さっき伸びてるのに気付いた。」
「うん、」
「それで、陸也のニットに引っ掛かった。」
「怒られたの?」
俺は首を横に振る。
陸也は怒らなかった。
「ニットダメになったの?」
俺はまた首を横に振る。
「じゃあ俺のセーターにも爪が引っ掛かるかも知れないって、心配になったんだね。」
今度は縦に頷いた。
白状した、のにまだハグの手は外れない。外さないで居てくれる。
「じゃあ。あとで一緒に爪切りしよっか。」
俺は、爪切りが上手に出来ない。
だから何時もは二人にしてもらう。
自分ですると、碌なことにならない。
「あと、俺が袖を捲るの手伝ってくれる?」
ガバッと、顔を上げて和己の顔を見た。
「やる?」
「やる。何をすれば良い?」
「そのままハグしてて。俺が袖を捲り終わるまで見張り。じゃないと、びちゃびちゃにして、キッチンを水浸しにしちゃおうかなっ。」
「... ... 陸也が怒るからダメだと思う。」
「じゃあ、俺を捕まえててね良悟。」
「分かった。」
本当は、馬鹿げてるって自分でも理解している。
子供に言い聞かせるように、一々丁寧に心を砕いて会話をしてくれる和己は優しいし、俺を甘やかし過ぎている。
でも、今の俺にはそれが必要なんだ。
「よぉーし、見て良悟。出来たよ。」
俺は、しがみついた和己の服でちょっと濡れた顔を拭いて、後ろを振り返った。
「輪ゴムで止めれば、良かった、?」
「えっ、うわー本当だ。けど良いじゃん。俺は良悟とハグ出来て得したわ。まだ終わらないから、待っててね。そしたら、爪切りしよ良悟。」
「ん。」
俺はちら、っと手を振ってキッチンを出た。
バラエティ番組は、まだやってた。
今度はもうちょっとだけ、見てみようか。
バイクが電気で走るって凄いよな。コンセントを挿せば良いんだもんな。
そんな事を考えていると、リビングのドアが開いた。
「上がったぞー。」
上下スウェットのゴリラだ。
髪が濡れてぺしゃっとしてる。
「次、良悟だろ。」
俺は首を横に振る。
「風呂嫌いか。まさか和己と入るのか、俺もいっしょに、」
「違う。爪切りが先だから、まだ入らないだけっ。」
ゴリラの脳みそは筋肉か花畑だ。
今は、花畑。
「じゃ、準備だな。」
あ。そうだ。準備しなきゃ。
スッと立ち上がった俺は、新聞の山から一部引き抜いて、小物入れから爪切りとやすりを取って来る。
あと、よく分からんオイルも。
塗らないと和己が煩い。
すぐ風呂に入るのに、それでも塗った方が良いらしい。
持ってきて、ローテーブルに並べた所でゴリラが呟いた。
「可愛い。はじめてのおつかいだな。」
今日の花畑は広大らしい。
「よっしゃ、終わったよ。お待たせ良悟ーっ。」
俺は爪切りが嫌い。それもかなり、結構嫌い。
だから、和己の足の間に座って目を瞑るしか無い。
肉と、刃先が当たる瞬間の感覚が嫌だ。
陸也が反対の手を握っててくれないと、ゾワゾワして叫びそうになる。
「はい、交代ー。」
「陸也っ、」
「はいはい、手ぇ貸して。」
片っ方終わった。
片っ方終わったから、あと五本指終われば終わり。
頭の中で枕草子を唱えて、冬、は何だっけなと思ったら終わってた。
「はいOK。陸也に見せて。」
大袈裟だが、陸也の身体検査はマジだ。
目で見て触って確かめて、ひっくり返したりもして確認する。
「良し。あとはオイルな。」
「いやだ。」
俺はブンブン首を振って拒否る。
今日はもう嫌だ。充分だ。
「いやかぁ。じゃあ代わりに風呂入って来るか?」
「行く。行って来る。爪切り出来た、ありがとう陸也、和己。」
「どういたしまして。」
「30秒数えるんだぞっ。」
「イエスボスっ。」
俺は爪切りからの解放感で舞い上がっていた。
そして、脱衣所に置いてある入浴剤をひとつ取って投げ入れる。
陸也が疲れた時は入れろ、と置いてる奴だ。
面白い事に、それはおにぎりの形をしている。
しゅわしゅわ溶けると、中から具材を模したフィギュアが浮いて来る。
「うめ、だ。」
この前のは、いくらだった。
変なのが流行ってるんだな、と思いつつも。
さっきまで落ち込んでいた気分は、だいぶ良くなった。
ーーーーー
「和己、さっきのは何だ。」
和己は目は向けず、新聞を丸めて片付けていく。
「爪が引っ掛かったんだって?」
「そうだ。」
「俺もさっき、袖を捲ってくれって言ったんだよね。」
「そうか。」
「少し涙が出てたかな。号泣でも無かったし、無言でも無表情でも無かったから。良い進歩だね。元気に返事もしてたよ。」
陸也は、さっきまで握っていた手を見つめた。
「イエスボス、とも言っていたしな。」
「ふっ、それ面白かった。」
「爪切りもダッシュで逃げて行ったしな。」
「そうそう。」
「今頃、おにぎりの入浴剤も効いてるだろな。」
「この前は、いくらだったねぇ。」
「大丈夫だろうか、」
「大丈夫だよ、俺達の良悟だもん。最近の口癖知ってる?」
「あぁ、俺は賢い、やれば出来るだろ。」
その二つは、二人が繰り返し教えてきた言葉だった。
この一年、与え続けた飴と鞭が効いている。
それに今夜は金曜日だ。
在宅の和己はおろか、陸也も良悟も明日明後日は休みだ。
「はぁ、何してあげようかなぁー。」
「とりあえず爪切りを褒めないとな。」
「俺が流す?」
「あぁ。なら部屋は任せとけ。」
「陸也のせいだ。」
「ふーん。」
大凡時間通り。
きちんと20分遅れて現れた和己は、キッチンで俺と陸也を上から下まで眺めてニヤニヤしながら箸と小皿を持って行った。
今更、恥ずかしがって小突き合う事ないけど。
「バレたな。」
陸也が楽しそうに背中越しにコソッと言う。
俺からしてみれば、そっちの方が恥ずかしい。
三人が揃って食卓に着く。
今日は和己の隣に座る。
ゴリラはなんかやらしいからもう良い。
あとで和己に、鬼さんのケーキを見せてあげよう。
可愛い物好きなコイツが喜ぶ顔を見て俺も癒されたい。
「陸也、晩御飯に間に合ったの久しぶりじゃん?」
「先月は週1回だったな。」
「てか、この春巻き美味いね良悟。どこの?」
「これは当たりだ。プライベートブランドの春巻き。次も買う。」
当たり外れは有るが、プライベートブランドは五分五分で当たる。
2個買えば俺的にはどっちかがマシか、当たりだ。
けど春巻きはそれを飛び越えて大当たりだった。
「探索家だねぇー。この前はポテチが当たりだったっけ?」
「ポテチ?美味かったのか?」
陸也はこういうのは興味ない。
どこの何のポテチだろうが、俺が摘んで食わせれば全部美味いって言う。
けど、俺が食べるには拘りがある。
「美味いかった。安いし。ちょっとしょっぱいけど当たり。でも、やっぱりオリジナルの方が食べたい。」
「あっ、それで最近ポテチ食べてないんだ良悟。」
ポテチの話をしながらおにぎりを食うのは、何かおにぎりに迷惑な気がするんだが。
「何でだ、気に入ってただろ?」
「む。」
プライベートブランドは時々、大手メーカーが製造を担っている事が有る。俺もたまたまパッケージをひっくり返して見て、びっくりした。
思わず5列左に並んでいたオリジナルと見比べたくらいだ。
俺の好きなメーカーが、そっくりさんを自社で作っていた。
だから、どっちも好きなんだけど。
「陸也、オリジナルの方が高いんだよ。確か、50円くらい?」
「ろ、くじゅうえん、」
「俺の1日のコーヒー代より安いな。金欠か。」
「お小遣い増やそっか、俺もっと良悟に貢ぎたいなぁー。」
「イヤだっ。」
俺はケチってる訳じゃない。
安くて美味しい物を探して、食べたいんだ。
確かに、このシチューのルーも。
和己がこれじゃなきゃ嫌だって言うからこれにしてる。
ちょっと高い定番の奴で、他のルーにしたら何か足らなくて微妙だった。牛乳と缶詰のコーンを足したら美味くなったけど。
俺は去年、前の仕事を辞めた。
少し苦労したが、今は、平日の朝たった3時間だけのパートに出ている。
収入はグッと減り、貯金が減っていくだけだと思っていたが。
再就職するまでの間、二人が俺の分の生活費を出してくれ、やってみたかった通信講座に勝手に申し込まれ、遂にはお小遣いまでくれる様になった辺りで、マズイと思った。
決めたんだ。
三人で生活する以上、依存しないって。
このままじゃ、家から一歩だって出られなくなる。
そう思うと、1日たったの3時間だ。
パートにも出掛けられるようになったし、安くて美味しい物を探す趣味が出来た。
それでも未だに二人は俺にお小遣いを渡してくる。
それは、多分。
二人が俺とのプレイを気に入ったからだと思う。
お陰で、普通のセックスでマンネリもしない。
ーーーーー
「良悟ぉー。」
「なぁにー。」
「ちょっと、ヘルプ、袖濡れるっ、」
ぼーっと、眺めていたバラエティ番組から慌てて目を離し、キッチンで皿を洗う和己に駆け寄る。
本当に右手の袖が、濡れそうだった。
慌てて袖を上げてやろうと思ったが。
「面倒臭い。」
生地が柔くて、上げてもどうせまた落ちる。
それに俺まで濡れる。
「そんなっ、これお気に入りなんだってば。」
良悟、と呼ばれても。ニットは嫌だ。
「それなら手を洗って水を止めて手を拭いて、自分でやれば良い。」
「もぉー。何で捲ってくんないの?」
何で、と言われても。
嫌だとしか言い訳を思い付かなかった。
「りょーご。どした?このセーター好きじゃない?」
「好きじゃないけど、嫌いでもない。」
「じゃあ、何か困ってる?」
困ってる?
困ってるか、困っていないのかと言われたら。
多分、俺は今ほんの少しだけど困っている。
俺は賢いから、よく困り事に気付く。
和己は手を洗って、水を止めて、手を拭いて、ハグをしてから聞いてきた。
「どうしたのかな、何か嫌な事があった?」
和己は良い匂いがする。
安心する俺の好きな匂いのひと。
和己がハグの仕方を教えてくれた。
俺は、和己が嫌いじゃなければ腕を回してあげないといけない。
そうする事で、俺が和己を好きだと、和己が認識出来るから。
だから、ハグされてる俺も同じ事が言える。
和己は俺が好き。だからハグしてる。
「爪が、さっき伸びてるのに気付いた。」
「うん、」
「それで、陸也のニットに引っ掛かった。」
「怒られたの?」
俺は首を横に振る。
陸也は怒らなかった。
「ニットダメになったの?」
俺はまた首を横に振る。
「じゃあ俺のセーターにも爪が引っ掛かるかも知れないって、心配になったんだね。」
今度は縦に頷いた。
白状した、のにまだハグの手は外れない。外さないで居てくれる。
「じゃあ。あとで一緒に爪切りしよっか。」
俺は、爪切りが上手に出来ない。
だから何時もは二人にしてもらう。
自分ですると、碌なことにならない。
「あと、俺が袖を捲るの手伝ってくれる?」
ガバッと、顔を上げて和己の顔を見た。
「やる?」
「やる。何をすれば良い?」
「そのままハグしてて。俺が袖を捲り終わるまで見張り。じゃないと、びちゃびちゃにして、キッチンを水浸しにしちゃおうかなっ。」
「... ... 陸也が怒るからダメだと思う。」
「じゃあ、俺を捕まえててね良悟。」
「分かった。」
本当は、馬鹿げてるって自分でも理解している。
子供に言い聞かせるように、一々丁寧に心を砕いて会話をしてくれる和己は優しいし、俺を甘やかし過ぎている。
でも、今の俺にはそれが必要なんだ。
「よぉーし、見て良悟。出来たよ。」
俺は、しがみついた和己の服でちょっと濡れた顔を拭いて、後ろを振り返った。
「輪ゴムで止めれば、良かった、?」
「えっ、うわー本当だ。けど良いじゃん。俺は良悟とハグ出来て得したわ。まだ終わらないから、待っててね。そしたら、爪切りしよ良悟。」
「ん。」
俺はちら、っと手を振ってキッチンを出た。
バラエティ番組は、まだやってた。
今度はもうちょっとだけ、見てみようか。
バイクが電気で走るって凄いよな。コンセントを挿せば良いんだもんな。
そんな事を考えていると、リビングのドアが開いた。
「上がったぞー。」
上下スウェットのゴリラだ。
髪が濡れてぺしゃっとしてる。
「次、良悟だろ。」
俺は首を横に振る。
「風呂嫌いか。まさか和己と入るのか、俺もいっしょに、」
「違う。爪切りが先だから、まだ入らないだけっ。」
ゴリラの脳みそは筋肉か花畑だ。
今は、花畑。
「じゃ、準備だな。」
あ。そうだ。準備しなきゃ。
スッと立ち上がった俺は、新聞の山から一部引き抜いて、小物入れから爪切りとやすりを取って来る。
あと、よく分からんオイルも。
塗らないと和己が煩い。
すぐ風呂に入るのに、それでも塗った方が良いらしい。
持ってきて、ローテーブルに並べた所でゴリラが呟いた。
「可愛い。はじめてのおつかいだな。」
今日の花畑は広大らしい。
「よっしゃ、終わったよ。お待たせ良悟ーっ。」
俺は爪切りが嫌い。それもかなり、結構嫌い。
だから、和己の足の間に座って目を瞑るしか無い。
肉と、刃先が当たる瞬間の感覚が嫌だ。
陸也が反対の手を握っててくれないと、ゾワゾワして叫びそうになる。
「はい、交代ー。」
「陸也っ、」
「はいはい、手ぇ貸して。」
片っ方終わった。
片っ方終わったから、あと五本指終われば終わり。
頭の中で枕草子を唱えて、冬、は何だっけなと思ったら終わってた。
「はいOK。陸也に見せて。」
大袈裟だが、陸也の身体検査はマジだ。
目で見て触って確かめて、ひっくり返したりもして確認する。
「良し。あとはオイルな。」
「いやだ。」
俺はブンブン首を振って拒否る。
今日はもう嫌だ。充分だ。
「いやかぁ。じゃあ代わりに風呂入って来るか?」
「行く。行って来る。爪切り出来た、ありがとう陸也、和己。」
「どういたしまして。」
「30秒数えるんだぞっ。」
「イエスボスっ。」
俺は爪切りからの解放感で舞い上がっていた。
そして、脱衣所に置いてある入浴剤をひとつ取って投げ入れる。
陸也が疲れた時は入れろ、と置いてる奴だ。
面白い事に、それはおにぎりの形をしている。
しゅわしゅわ溶けると、中から具材を模したフィギュアが浮いて来る。
「うめ、だ。」
この前のは、いくらだった。
変なのが流行ってるんだな、と思いつつも。
さっきまで落ち込んでいた気分は、だいぶ良くなった。
ーーーーー
「和己、さっきのは何だ。」
和己は目は向けず、新聞を丸めて片付けていく。
「爪が引っ掛かったんだって?」
「そうだ。」
「俺もさっき、袖を捲ってくれって言ったんだよね。」
「そうか。」
「少し涙が出てたかな。号泣でも無かったし、無言でも無表情でも無かったから。良い進歩だね。元気に返事もしてたよ。」
陸也は、さっきまで握っていた手を見つめた。
「イエスボス、とも言っていたしな。」
「ふっ、それ面白かった。」
「爪切りもダッシュで逃げて行ったしな。」
「そうそう。」
「今頃、おにぎりの入浴剤も効いてるだろな。」
「この前は、いくらだったねぇ。」
「大丈夫だろうか、」
「大丈夫だよ、俺達の良悟だもん。最近の口癖知ってる?」
「あぁ、俺は賢い、やれば出来るだろ。」
その二つは、二人が繰り返し教えてきた言葉だった。
この一年、与え続けた飴と鞭が効いている。
それに今夜は金曜日だ。
在宅の和己はおろか、陸也も良悟も明日明後日は休みだ。
「はぁ、何してあげようかなぁー。」
「とりあえず爪切りを褒めないとな。」
「俺が流す?」
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