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第7章 蒼旗翻天 5

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 義盛の狂った高笑いの中、一斉に鎌倉騎馬勢が高衡達に突進した。

「騎馬の半数は東海道軍の精鋭と見た。まともに打ち合っても勝てぬ! 躱しながら移動し、機を見て北の林に誘い込んで撒くぞ!」

 迫りくる騎馬武者の群れを前に、高衡が味方に向かって叫ぶ。

「本吉衆は北に進みながら散れ。直接騎馬と打ち合うな! 八郎は本吉衆から敵の突進を逸らし北側に誘導せよ!」

「はっ!」

 高衡の指示の下、ぱっと配下の将兵達が散開する。

「雪丸と平四郎は身共の傍を離れるなよ!」

 主の言葉に、二人とも強く頷いた。

 すぐに一騎の武者が薙刀を構え高衡に組み付いてきた。

 気迫も凄まじく薙刀を振り上げた武者の身体が刃交わる刹那に血を吹いて転げ落ちた。

 驚愕に目を見開いた二人の武者が、すぐさま一対一の組み合いでは敵わぬ相手と判断し左右二方向から同時に仕掛けてくる。

「殿っ⁉」

 思わず叫んだ平四郎の声が止まぬうちに馬の首ごと上半身を切り離された二人の武者の身体がどうと倒れ伏した。

「……凄い!」

 いつの間に抜いたか右手に太刀を握り左手に薙刀を持ち替えていた高衡の後ろ姿に平四郎は息を呑んだ。



「うっひょおおおおおおおおっ!」

 その様子を観戦していた義盛が手を打って大喜びしていた。

「あれじゃ、あれじゃ! あれこそまさしく『血煙判官』よ。てっきり義経が生きておるかと期待しておったが、まあ良い。生きておれば上手く煽てて神輿に載せればさぞ担ぎ手も我らの下に集うだろうと目論んでいたのじゃが、あんな化け物では手に負えぬ。死んでくれていて良かったわ!」



 地に伏していた本吉衆は騎馬目掛けて弓を射かけていた。

「ちいっ! すばしっこい馬っこじゃ。なかなか当たらねえ!」

 射かけられた武将が伏兵に気づき馬を返したところに八郎が組み掛かった。

「おとっつぁんよ、慣れねえ弓矢よりも俺たちにゃ扱い慣れた得物があるじゃねえかよ?」

 舌打ちを漏らす弓手の横で真っ黒に日焼けした大男が銛を扱きながら振りかぶる。

「陸の鯨にゃあこれよってな!」

 投擲された鋭い銛は八郎に斬りかかろうとしていたもう一騎の馬の尻に突き刺さり、悲鳴を上げて騎馬が振り落とされた。

「ひ、卑怯な真似をっ!」

 草むらに転がり悪態を吐く武者に大男が倒れた馬から銛を引き抜き迫る。

「壇ノ浦で丸腰の漁民相手に弓矢射掛けた犬野郎が吠えやがる」

 にやにや笑いながら、這い蹲る武者に銛を振り上げた。

「これは瀬戸内の御同業の恨みの分だ!」

「ひいい、助けてくれえ!」



 資家兄弟もまた善戦していた。

 元々弓と馬に長けた一門である。

 弟の資正が旗を振り回し縦横無尽に疾駆し敵騎馬隊を撹乱しているところを、同じく馬を駆りながら兄資家が二の足を踏む敵を射貫いていく。兄弟ならではの連携作戦が功を奏していた。



「意外と苦戦しておりますな」

 他人事のように義村が感想を述べる。

「なに、高衡如きの浅知恵など知れておる。威勢が良いのは今のうちよ」

 義盛が鼻を鳴らした。

「それに、鞍馬仕込みの剣術とやらも、いつまでも続くまいて」

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