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第4章 景時の変 4
しおりを挟む同年睦月、駿河国清見関付近。
「父上」
狐崎付近の街道を進んでいた梶原一行の先頭を行く景時に、息子の景季が馬を寄せる。
「何者か知れませぬが、先程から我々の後ろをつけてくる者共がおりまする」
「おお、気づいたか」
声を潜ませながら報告する景季に、事も無げに景時が答える。
「後ろだけではない。既に囲まれておるぞ」
「何っ!」
慌てて見回そうとする景季だが、父が馬を止めたのを見て前方を見やると、一行の行く手を遮るように数騎の武者が立ち塞がっていた。
「何者か!」
景季の鋭い誰何の声に一人の武者が前に出て応じる。
「吉川左衛門尉友兼と申す。幕府宿老梶原景時殿一行と見受けるが、相違ないか?」
「如何にも。貴公ら、我らが鎌倉一ノ郎党景時一行と知っての推参か!」
景季の怒声を聞いた友兼は笑いながら薙刀を握り直した。
「これはついておる。大当たりじゃ!」
同時に四方から雑兵達が躍り出た。
これを見た郎党たちも薙刀を持ち、応戦の構えをとる。
「思ったより早かったのう。景季よ、女房達の車を護りながら押し通るぞ!」
「心得ました!」
雪崩のように斬りかかる敵兵の群れを迎え撃ちながら、一行は行く手に向かって突進した。
敵の半数は地侍に毛の生えたものと見えたが、中には手強い侍もいた。
郎党の幾人かを失いながらも囲いを突破した一行だが、街道の開けたところに出たのを見計らった敵の弓手より矢の十字掃射を受けた。
「ぐっ!」
喉に矢を受け景国が馬から転げ落ちる。
「兄上っ⁉ そんな……うわあああっ!」
悲痛な叫びを上げながら景国の方へ馬を返した景宗に敵の一斉掃射が降り注いだ。
「馬を止めるな、突き進め!」
叱咤する景茂に敵の武将が組み付き一騎打ちとなった。
「おのれよくも弟達を!」
怒りに猛りながら打ち掛かる景季の刃を受け損ねた友兼が斬り倒され、悲鳴を上げながら地に転がった。
「見事、ようやったぞ源太よ!」
父の激賞に景季が鬨の叫びを上げ、郎党達が薙刀を掲げながら応える。
「いやあぁっ!」
突然、背後から女の悲鳴が聞こえた。
振り返ると、車から引きずり出された女房や侍女達が雑兵達に囲まれているのが見えた。
さっと景時の顔に朱が走る。
「下衆共め、女子供にまで刃を向けるか!」
馬を返し、女達を救おうとする景時達の背後へ、敵兵が一斉に矢を放った。
正治二年(一二〇〇)一月二十日。
梶原景時及びその一族は、上洛の途中で襲撃に遭い、合戦の末三十三名が悉く皆殺しにされ、その首を晒された。
景時享年六十一歳。
景季享年三十九歳。
世に言う梶原景時の変である。
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