白蛇の化女【完全版】

香竹薬孝

文字の大きさ
上 下
13 / 44

姉の回想 1

しおりを挟む
 ――ちりん。

 あの子の笑った顔を見てみたい。ずっと、そう思っていた。

 ……小さい頃のわたしは、いつもあの子の姿を探していたように思う。
 思い出の中にその子が現れるのは、決まって夕焼け色に染まった夏空の風景の中で。 
 例えば、涼やかな夕風が昼間の暑気を一拭いした、夏草色の瑞々しい薄の若穂の繁る黄昏の小道で。
 または、茜色の帯を波打たせた夕涼みの小川の淵で、心地よいせせらぎを聴きながら浅瀬に足を浸し、ふと見上げた堤の向こうに。
 あの子を見つけると、いつも決まって涼しい西風がわたしの背中で髪を揺らし、母が持たせてくれたお守り袋の鈴を鳴らすのだった。
 たくさんの友達に囲まれながら、あの子はこちらに向かって歩いてくる。夕暮れだから、きっと遊び疲れた帰り道の光景なのだろう。
 やがて、彼らも遠くの向こうにわたしを見つける。不思議そうな顔をしてこちらを見つめる子供たちに微笑みかけると、あの子も、友達たちも皆恥ずかしそうに俯いてしまう。
 声を掛けようと、あの子達の方へ一歩前に足を踏み出した途端、急にふわりと目の前が真っ白に染まって――

 ……わたしの回想は、いつもそこで途切れてしまう。

 今でも、わたしは願う。
 あの子の、笑った顔を――度でいいから、見てみたいな。
 
 ――ちりん。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...