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ユーディアライトが授業の間、一緒に「先生」と呼ばれている人間の大人の話を聞いたり、他の精霊たちと力を蓄えたりと毎日楽しく過ごしていた。
先生が子どもたちに教える授業に間違いがあっても、僕たちが訂正してはいけないのはびっくりした。それがないと人間は成長しないらしい。人間のそんなところも愛おしい。
僕は相変わらずまだら模様で、一色になるなら何色がいいかなんて夢想することもあった。
光の黄色も、闇の紫色も、水の青色も、火の赤色も、風の緑色も、土の橙色もみんな綺麗だから迷ってしまう。多めに取り入れた力が濃くなるからどの色もユーディアライトに見せてみたけれど、「きれいだね」って笑うだけ。まだら模様の姿ですら可愛いなんていうから、僕は困ってしまう。
そんなある日のこと。
「実力試験?」
「そう。精霊や異種族と契約している勇者候補生が対象で、トーナメント方式の試験があるんだ」
寮のベッドに腰掛けるユーディアライトと向かい合って、ぎゅうぎゅう抱きつく。僕の背中をゆっくり撫でながらユーディアライトが話を続けた。僕は彼の体温に満足しながらぐりぐりと額を押し付ける。
「優勝すれば勇者見習いとして実戦に参加できるようになる。負けちゃっても試験監督が点数をつけてくれるから気にしなくていいんだけどね」
「優勝したい?」
「うーん、どうかなぁ?」
優勝したいんだろうか。彼の瞳をじっと見つめるけれど、優しい色を湛えるばかりで心の内は見えない。ぷくっと頬に空気を溜める。ユーディアライトが望むならなんだってやってあげるのに。
宥めるように頭を撫でられてきゅっと目を閉じた。
どうすればいいだろうと考えながら学舎内を漂う。ユーディアライトは座学だから今は僕ひとつだ。
ふと揺れた空気が気になって屋上に登ってみる。ひょこっと頭を出してみればそこには召喚に使う魔法陣が描かれていた。真ん中に座り込む一人の男の子。
「何してるの?」
「わっ!?」
突然声をかけたからか彼は驚いて尻餅をついてしまった。その姿が面白くてついつい笑ってしまう。肌がちくりと傷んだ。鬱陶しくて、身体を半分精霊界に戻しておく。
「精霊?」
「うん。フローライトだよ。君は人間だよねぇ」
「あ、うん。タンザナイトだよ」
「タンザナイト! よろしくね。ところで何してたの?」
「……精霊を召喚したくて」
「どうして?」
「オレも精霊と契約したいんだ。この前の召喚式では来てもらえなかったから」
落ち込んだように膝を抱えるタンザナイト。悲しそうな姿は可哀想に見えるけれど、彼が精霊に拘る理由がわからなくて首を傾げてしまう。
「どうして精霊と契約したいの?」
「えっと……勇者になりたいから、じゃ駄目かな?」
「ダメじゃないと思うけど、異種族と契約してれば実力試験を受けられるんでしょう? 勇者になるのは精霊と契約してなきゃいけないの?」
「……いや。誰かと契約していれば勇者になれるよ」
僕はますますわからなくなって困ってしまった。頭を下にしてひっくり返って考えてみる。でもわからない。
「龍族じゃダメなの?」
「そんなのと契約してれば勇者にはずっと近づけるんじゃないかなぁ」
「んんん? わかんない。それなのにタンザナイトは精霊と契約したいの?」
「え?」
「君は龍族と契約してるでしょ?」
タンザナイトは驚いたように目を見開いて口をぱくぱくさせている。気づいてなかったのだろうか。彼と話をしているだけでこんなに嫌な視線を向けてくるヤツがいるのに。
「喧嘩してるなら仲直りしてあげたほうがいいよ」
「あ……うん。その」
タンザナイトが何か言おうとした瞬間に、強い力にふっ飛ばされた。空中でくるりと身体を回し着地する。降り立ったのは学舎の中庭だった。腹が立つ。
勢いつけて教室に飛び込む。ムカムカした気持ちを鎮めてもらうために、僕はユーディアライトの頭に飛びついた。
先生が子どもたちに教える授業に間違いがあっても、僕たちが訂正してはいけないのはびっくりした。それがないと人間は成長しないらしい。人間のそんなところも愛おしい。
僕は相変わらずまだら模様で、一色になるなら何色がいいかなんて夢想することもあった。
光の黄色も、闇の紫色も、水の青色も、火の赤色も、風の緑色も、土の橙色もみんな綺麗だから迷ってしまう。多めに取り入れた力が濃くなるからどの色もユーディアライトに見せてみたけれど、「きれいだね」って笑うだけ。まだら模様の姿ですら可愛いなんていうから、僕は困ってしまう。
そんなある日のこと。
「実力試験?」
「そう。精霊や異種族と契約している勇者候補生が対象で、トーナメント方式の試験があるんだ」
寮のベッドに腰掛けるユーディアライトと向かい合って、ぎゅうぎゅう抱きつく。僕の背中をゆっくり撫でながらユーディアライトが話を続けた。僕は彼の体温に満足しながらぐりぐりと額を押し付ける。
「優勝すれば勇者見習いとして実戦に参加できるようになる。負けちゃっても試験監督が点数をつけてくれるから気にしなくていいんだけどね」
「優勝したい?」
「うーん、どうかなぁ?」
優勝したいんだろうか。彼の瞳をじっと見つめるけれど、優しい色を湛えるばかりで心の内は見えない。ぷくっと頬に空気を溜める。ユーディアライトが望むならなんだってやってあげるのに。
宥めるように頭を撫でられてきゅっと目を閉じた。
どうすればいいだろうと考えながら学舎内を漂う。ユーディアライトは座学だから今は僕ひとつだ。
ふと揺れた空気が気になって屋上に登ってみる。ひょこっと頭を出してみればそこには召喚に使う魔法陣が描かれていた。真ん中に座り込む一人の男の子。
「何してるの?」
「わっ!?」
突然声をかけたからか彼は驚いて尻餅をついてしまった。その姿が面白くてついつい笑ってしまう。肌がちくりと傷んだ。鬱陶しくて、身体を半分精霊界に戻しておく。
「精霊?」
「うん。フローライトだよ。君は人間だよねぇ」
「あ、うん。タンザナイトだよ」
「タンザナイト! よろしくね。ところで何してたの?」
「……精霊を召喚したくて」
「どうして?」
「オレも精霊と契約したいんだ。この前の召喚式では来てもらえなかったから」
落ち込んだように膝を抱えるタンザナイト。悲しそうな姿は可哀想に見えるけれど、彼が精霊に拘る理由がわからなくて首を傾げてしまう。
「どうして精霊と契約したいの?」
「えっと……勇者になりたいから、じゃ駄目かな?」
「ダメじゃないと思うけど、異種族と契約してれば実力試験を受けられるんでしょう? 勇者になるのは精霊と契約してなきゃいけないの?」
「……いや。誰かと契約していれば勇者になれるよ」
僕はますますわからなくなって困ってしまった。頭を下にしてひっくり返って考えてみる。でもわからない。
「龍族じゃダメなの?」
「そんなのと契約してれば勇者にはずっと近づけるんじゃないかなぁ」
「んんん? わかんない。それなのにタンザナイトは精霊と契約したいの?」
「え?」
「君は龍族と契約してるでしょ?」
タンザナイトは驚いたように目を見開いて口をぱくぱくさせている。気づいてなかったのだろうか。彼と話をしているだけでこんなに嫌な視線を向けてくるヤツがいるのに。
「喧嘩してるなら仲直りしてあげたほうがいいよ」
「あ……うん。その」
タンザナイトが何か言おうとした瞬間に、強い力にふっ飛ばされた。空中でくるりと身体を回し着地する。降り立ったのは学舎の中庭だった。腹が立つ。
勢いつけて教室に飛び込む。ムカムカした気持ちを鎮めてもらうために、僕はユーディアライトの頭に飛びついた。
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