君のための色

青空びすた

文字の大きさ
上 下
2 / 5

2

しおりを挟む
 ユーディアライトが授業の間、一緒に「先生」と呼ばれている人間の大人の話を聞いたり、他の精霊たちと力を蓄えたりと毎日楽しく過ごしていた。
 先生が子どもたちに教える授業に間違いがあっても、僕たちが訂正してはいけないのはびっくりした。それがないと人間は成長しないらしい。人間のそんなところも愛おしい。
 僕は相変わらずまだら模様で、一色になるなら何色がいいかなんて夢想することもあった。
 光の黄色も、闇の紫色も、水の青色も、火の赤色も、風の緑色も、土の橙色もみんな綺麗だから迷ってしまう。多めに取り入れた力が濃くなるからどの色もユーディアライトに見せてみたけれど、「きれいだね」って笑うだけ。まだら模様の姿ですら可愛いなんていうから、僕は困ってしまう。

 そんなある日のこと。
「実力試験?」
「そう。精霊や異種族と契約している勇者候補生が対象で、トーナメント方式の試験があるんだ」
 寮のベッドに腰掛けるユーディアライトと向かい合って、ぎゅうぎゅう抱きつく。僕の背中をゆっくり撫でながらユーディアライトが話を続けた。僕は彼の体温に満足しながらぐりぐりと額を押し付ける。
「優勝すれば勇者見習いとして実戦に参加できるようになる。負けちゃっても試験監督が点数をつけてくれるから気にしなくていいんだけどね」
「優勝したい?」
「うーん、どうかなぁ?」
 優勝したいんだろうか。彼の瞳をじっと見つめるけれど、優しい色を湛えるばかりで心の内は見えない。ぷくっと頬に空気を溜める。ユーディアライトが望むならなんだってやってあげるのに。
 宥めるように頭を撫でられてきゅっと目を閉じた。

 どうすればいいだろうと考えながら学舎内を漂う。ユーディアライトは座学だから今は僕ひとつだ。
 ふと揺れた空気が気になって屋上に登ってみる。ひょこっと頭を出してみればそこには召喚に使う魔法陣が描かれていた。真ん中に座り込む一人の男の子。
「何してるの?」
「わっ!?」
 突然声をかけたからか彼は驚いて尻餅をついてしまった。その姿が面白くてついつい笑ってしまう。肌がちくりと傷んだ。鬱陶しくて、身体を半分精霊界に戻しておく。
「精霊?」
「うん。フローライトだよ。君は人間だよねぇ」
「あ、うん。タンザナイトだよ」
「タンザナイト! よろしくね。ところで何してたの?」
「……精霊を召喚したくて」
「どうして?」
「オレも精霊と契約したいんだ。この前の召喚式では来てもらえなかったから」
 落ち込んだように膝を抱えるタンザナイト。悲しそうな姿は可哀想に見えるけれど、彼が精霊に拘る理由がわからなくて首を傾げてしまう。
「どうして精霊と契約したいの?」
「えっと……勇者になりたいから、じゃ駄目かな?」
「ダメじゃないと思うけど、異種族と契約してれば実力試験を受けられるんでしょう? 勇者になるのは精霊と契約してなきゃいけないの?」
「……いや。誰かと契約していれば勇者になれるよ」
 僕はますますわからなくなって困ってしまった。頭を下にしてひっくり返って考えてみる。でもわからない。
「龍族じゃダメなの?」
「そんなのと契約してれば勇者にはずっと近づけるんじゃないかなぁ」
「んんん? わかんない。それなのにタンザナイトは精霊と契約したいの?」
「え?」
「君は龍族と契約してるでしょ?」
 タンザナイトは驚いたように目を見開いて口をぱくぱくさせている。気づいてなかったのだろうか。彼と話をしているだけでこんなに嫌な視線を向けてくるヤツがいるのに。
「喧嘩してるなら仲直りしてあげたほうがいいよ」
「あ……うん。その」
 タンザナイトが何か言おうとした瞬間に、強い力にふっ飛ばされた。空中でくるりと身体を回し着地する。降り立ったのは学舎の中庭だった。腹が立つ。
 勢いつけて教室に飛び込む。ムカムカした気持ちを鎮めてもらうために、僕はユーディアライトの頭に飛びついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...