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ミディオディアから、村長から聞いた情報を教えてもらう。状況を擦り合わせると、村人、特に子どもが、連日行方不明になっているようだ。
最初は若い男だった。20歳にならないくらいの青年は仕事の覚えはよかったが、婚約していた女性が亡くなったばかりだったらしい。目に見えて落ち込み衰弱していく彼は、ある日突然姿を消した。村人たちが探したところ、崖下で大量の血痕が発見された。自ら失意の果てに、と考えられていた。体は獣に食われたのだろうと。
ところが数日後、今度は青年よりも若い快活な少女が居なくなった。周囲の人間は、見た目には異常もなくいつも通りに見えたと証言している。その翌日には少女と仲の良かった少年が。一人、また一人と姿を消した。けれど、探せど探せど痕跡すら見つけられなかった。
そしてついに、一昨日、一ヶ月前に産まれた赤ん坊まで居なくなった。
「井戸の側で、泣いてるお母さんがいたよ」
「……うん」
「きっと、その赤ちゃんのお母さんだね」
「そうだね」
「助けてあげられるかな」
「今回は、敵の正体もわかってないんだ。だから、敵は倒すけれど、難しいかもしれない」
「そっ、かぁ……」
勇者だからって、言うのかと思った。人を安心させるための言葉。揺るぎない真実。けれど、聞こえのいい言葉で誤魔化さない程度には信用されているのだろう。そんな場合ではないのに、じんわりと喜びが広がる。
「ノッティには、嘘をつきたくないんだ」
僕が抱きついたはずなのに、いつの間にかミディオディアが僕に縋っているみたいだ。ミディオディアの頭を優しく撫でる。いつも彼がそうしてくれるみたいに。
「できる限りのことはするけど、負けるつもりもないけれど、もっと早くここに来られれば」
「……うん」
血を飲むみたいに、彼の後悔も飲み干してあげられればよかった。でも残念ながら僕は吸血鬼だから、抱きつく力をぎゅっと強くするしかできない。ミディオディアはいつも人に勇気をあげる勇者だから、今日は僕が勇気をあげたい。
「少しでも多くの人を助けよう。助けられなかった命のためにも」
「……うん」
体温を分け合うみたいに抱きしめ合う。僕はここにいるよって伝えるために、無防備な首元を甘噛した。
明日は朝から血痕が発見された崖下を見に行くらしい。村で確認しておきたいこともないので、僕も一緒に行くことにする。ミディオディアは少し渋い顔をしていたけど、僕がミディオディアの血を少しもらうことで納得した。
「僕からお願いするならわかるけど、ミディオディアから吸ってほしいって、なんか……」
「嫌?」
「んーん。大好きだよ」
差し出された指に牙を引っ掛ける。噛みつくと深くなりすぎるから、少し傷をつけるだけ。お腹の中に魔力が入ってくる。ぽかぽかあたたかい。滲み出る血が止まったら、ぺろりと舐めて傷を癒やす。
「ありがとう」
「なんでミディオディアがお礼? こっちこそ、いつもありがとう」
ちゅっとほっぺたに口づける。口づけのお礼にとほっぺにチューをもらった。お腹だけじゃなくて、胸もぽかぽかする。
──おやすみなさい。さあ、早く。
もらった魔力を馴染ませて、仲間の泊まる部屋に結界を張った。今夜はいい夢が見られそうだ。
最初は若い男だった。20歳にならないくらいの青年は仕事の覚えはよかったが、婚約していた女性が亡くなったばかりだったらしい。目に見えて落ち込み衰弱していく彼は、ある日突然姿を消した。村人たちが探したところ、崖下で大量の血痕が発見された。自ら失意の果てに、と考えられていた。体は獣に食われたのだろうと。
ところが数日後、今度は青年よりも若い快活な少女が居なくなった。周囲の人間は、見た目には異常もなくいつも通りに見えたと証言している。その翌日には少女と仲の良かった少年が。一人、また一人と姿を消した。けれど、探せど探せど痕跡すら見つけられなかった。
そしてついに、一昨日、一ヶ月前に産まれた赤ん坊まで居なくなった。
「井戸の側で、泣いてるお母さんがいたよ」
「……うん」
「きっと、その赤ちゃんのお母さんだね」
「そうだね」
「助けてあげられるかな」
「今回は、敵の正体もわかってないんだ。だから、敵は倒すけれど、難しいかもしれない」
「そっ、かぁ……」
勇者だからって、言うのかと思った。人を安心させるための言葉。揺るぎない真実。けれど、聞こえのいい言葉で誤魔化さない程度には信用されているのだろう。そんな場合ではないのに、じんわりと喜びが広がる。
「ノッティには、嘘をつきたくないんだ」
僕が抱きついたはずなのに、いつの間にかミディオディアが僕に縋っているみたいだ。ミディオディアの頭を優しく撫でる。いつも彼がそうしてくれるみたいに。
「できる限りのことはするけど、負けるつもりもないけれど、もっと早くここに来られれば」
「……うん」
血を飲むみたいに、彼の後悔も飲み干してあげられればよかった。でも残念ながら僕は吸血鬼だから、抱きつく力をぎゅっと強くするしかできない。ミディオディアはいつも人に勇気をあげる勇者だから、今日は僕が勇気をあげたい。
「少しでも多くの人を助けよう。助けられなかった命のためにも」
「……うん」
体温を分け合うみたいに抱きしめ合う。僕はここにいるよって伝えるために、無防備な首元を甘噛した。
明日は朝から血痕が発見された崖下を見に行くらしい。村で確認しておきたいこともないので、僕も一緒に行くことにする。ミディオディアは少し渋い顔をしていたけど、僕がミディオディアの血を少しもらうことで納得した。
「僕からお願いするならわかるけど、ミディオディアから吸ってほしいって、なんか……」
「嫌?」
「んーん。大好きだよ」
差し出された指に牙を引っ掛ける。噛みつくと深くなりすぎるから、少し傷をつけるだけ。お腹の中に魔力が入ってくる。ぽかぽかあたたかい。滲み出る血が止まったら、ぺろりと舐めて傷を癒やす。
「ありがとう」
「なんでミディオディアがお礼? こっちこそ、いつもありがとう」
ちゅっとほっぺたに口づける。口づけのお礼にとほっぺにチューをもらった。お腹だけじゃなくて、胸もぽかぽかする。
──おやすみなさい。さあ、早く。
もらった魔力を馴染ませて、仲間の泊まる部屋に結界を張った。今夜はいい夢が見られそうだ。
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