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第三章
プロローグ~鈴木、兄の形見のお守り
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どーも、ユウキ先輩の可愛い後輩鈴木っス。
今日は休日返上で、これから浅草のお社長の支社で例の異世界研究会の初日会合ですわ。
「持ち物は特に必要なし……いや、アルバム持ってくか」
もう十年以上前に亡くなってしまったオレのお兄ちゃん、御米田カズアキの遺品はそう多くない。
両親が離婚したせいもあるし、大半は遺骨と一緒に父方の御米田家が引き取ったから、母方に引き取られたオレに遺された物は少なかった。
大判の写真アルバムが一冊。デジタル写真が主流の中、両親が離婚前、結婚十五周年記念に作って自宅用とそれぞれの祖父母用に作成してたやつだ。
家にあったやつはオレが譲り受けて、クソ母と決別した後もずっと大事に持っていた。
お兄ちゃんは中学生、オレは小学校低学年の頃までの家族写真が収められている。
就職後、オレはずっと会社の社宅暮らし。狭いワンルームだけど衣装ケース一つ余分に持って、このアルバムとまだ家族全員揃ってた頃にお兄ちゃんと遊んだおもちゃや、お兄ちゃんの好きだったラノベやアニメのグッズなんかを保存して今もたまに眺めている。
オレの人生でいちばん楽しかった頃の思い出だから。……あー、ユウキ先輩と再会してからの社畜人生と甲乙付け難い。
「あ。くそ、お守り、もうダメか」
遺品の一つ、生前のカズアキお兄ちゃんから借りたままのお守りがあった。
紺色の小さな錦の袋が擦り切れて、ほつれてしまっている。
お兄ちゃんが亡くなって両親が離婚した後もずっと持ち歩いてたんだけど、さすがに十年以上たつとボロボロだ。最近は部屋に置きっぱなしにしていたんだけど……
「ん?」
袋の端が切れて、薄紙に包まれた中身がこぼれ落ちた。
出てきたのは小さな金貨だ。これ純金? サイズは百円玉ぐらいでもうちょっと薄い……それが真っ二つの半円になっている。
ペンダントトップになっていたので適当に手持ちの革紐を通して首にかけることにした。これならそうそう無くすことはねえだろ。
金貨の表面には古代ローマ金貨みたいに人物の横顔、反対側には読めない文字が刻まれている。
このお守りは離婚したお父さんの実家、もなか村にある神社のものと聞いていた。小さなお社で社務所も何もないが、年始などに村民や縁の人々にのみ頒布されてたらしい。
オレは生まれてから一度ももなか村を訪れたことがなかったので、もらえなかったんだわ。
それが羨ましくて、お兄ちゃんに無理を言って貸してもらって、そのまま。
――カズアキお兄ちゃんが大雪の日に亡くなる前日だった。
すると翌日、お兄ちゃんが事故死した。
「オレがお守りを借りちゃったから、お兄ちゃんが死んじまったんじゃないかって。……はは、まさかね」
でもお兄ちゃんが死んでしばらくは、お兄ちゃんがお守りを持ってたら事故後も生き残れたんじゃないかって。オレはずっと自分を責め続けていた。
だってこのお守りすごいんだ。両親が離婚して母方の実家に引き取られたオレは、会社の社長で金持ちだったお父さんよりずっとずっと金持ちの祖父母の大きな家でそりゃもう可愛がられて大事にされた。
――母親の不義の子なのにね。孫には変わりないからって。
クソ母が鈴木さんと再婚してそこでもババアが浮気して。再婚相手にクソ母ごと追い出されて当然のところ、鈴木さんはオレを養子として手元に置いてくれた。
鈴木さんも金持ちだったからオレはなに不自由することなく青春時代を過ごせた。まあちょっとグレて陰キャになったのは仕方のないことだよ……
大学は最低の三流しか行けなかったけどね。でも鈴木さんや実家の祖父母から毎月送られてくる多額の小遣いでひたすらオタク趣味に没頭できてそこそこ楽しかった。
極めつけが、就職した東京新橋の総合商社に従兄弟のユウキさんがいて、オレの上司になって世話を焼いてくれた。
手間のかかる部下って扱いだったけど飲みに行ったり、互いの部屋に遊びに行ったりするぐらいの仲にはなれた。
――もちろん就職してからも、お兄ちゃんのお守りはずっと持っていた。だから袋がボロボロになっちまったんだけど。
オレ、こんなに充実した人生送ってていいのかな。
お兄ちゃんは死んじまったのにオレだけこんなに毎日楽しくていいのかな。
ピコン!
スマホのショートメールの着信音だ。見ると、――『浜那珂はるみさんからメッセージを一件受信しました』。
幸せだった家庭を崩壊させて、オレから大好きだったお兄ちゃんやお父さんを奪った元凶のクソ女からだ。
「チッ。無視して会社まで来られると厄介なんだよな……」
就職先は口止めしてたんだけど、今年の新年の親戚の集まりのとき祖父母がうっかり口を滑らせてクソ母にバレちまった。
そのとき強引にケータイ番号を聞き出されて、以来こうして頻繁にショートメールが来る。
嫌々数回に一回は返信してたけど、最近連絡の頻度が多い。
「あんたさえいなければ、オレの人生最高だったのに。最悪の厄ネタだよ。死ねばいいのに」
シャツの上からお守りの中身だった半円金貨のペンダントを握りしめた。
――カズアキお兄ちゃん。あのクソ女からどうかオレを守ってください。
※まだ更新再開に時間かかりそうなので、先に書いてあった第三章プロローグをば。
投稿サイトそれぞれで頂戴した展開予想を詰め込むと三章じゃ終わらないやつ……
調子戻ってきたので一気に書き上げたいなあ。
今日は休日返上で、これから浅草のお社長の支社で例の異世界研究会の初日会合ですわ。
「持ち物は特に必要なし……いや、アルバム持ってくか」
もう十年以上前に亡くなってしまったオレのお兄ちゃん、御米田カズアキの遺品はそう多くない。
両親が離婚したせいもあるし、大半は遺骨と一緒に父方の御米田家が引き取ったから、母方に引き取られたオレに遺された物は少なかった。
大判の写真アルバムが一冊。デジタル写真が主流の中、両親が離婚前、結婚十五周年記念に作って自宅用とそれぞれの祖父母用に作成してたやつだ。
家にあったやつはオレが譲り受けて、クソ母と決別した後もずっと大事に持っていた。
お兄ちゃんは中学生、オレは小学校低学年の頃までの家族写真が収められている。
就職後、オレはずっと会社の社宅暮らし。狭いワンルームだけど衣装ケース一つ余分に持って、このアルバムとまだ家族全員揃ってた頃にお兄ちゃんと遊んだおもちゃや、お兄ちゃんの好きだったラノベやアニメのグッズなんかを保存して今もたまに眺めている。
オレの人生でいちばん楽しかった頃の思い出だから。……あー、ユウキ先輩と再会してからの社畜人生と甲乙付け難い。
「あ。くそ、お守り、もうダメか」
遺品の一つ、生前のカズアキお兄ちゃんから借りたままのお守りがあった。
紺色の小さな錦の袋が擦り切れて、ほつれてしまっている。
お兄ちゃんが亡くなって両親が離婚した後もずっと持ち歩いてたんだけど、さすがに十年以上たつとボロボロだ。最近は部屋に置きっぱなしにしていたんだけど……
「ん?」
袋の端が切れて、薄紙に包まれた中身がこぼれ落ちた。
出てきたのは小さな金貨だ。これ純金? サイズは百円玉ぐらいでもうちょっと薄い……それが真っ二つの半円になっている。
ペンダントトップになっていたので適当に手持ちの革紐を通して首にかけることにした。これならそうそう無くすことはねえだろ。
金貨の表面には古代ローマ金貨みたいに人物の横顔、反対側には読めない文字が刻まれている。
このお守りは離婚したお父さんの実家、もなか村にある神社のものと聞いていた。小さなお社で社務所も何もないが、年始などに村民や縁の人々にのみ頒布されてたらしい。
オレは生まれてから一度ももなか村を訪れたことがなかったので、もらえなかったんだわ。
それが羨ましくて、お兄ちゃんに無理を言って貸してもらって、そのまま。
――カズアキお兄ちゃんが大雪の日に亡くなる前日だった。
すると翌日、お兄ちゃんが事故死した。
「オレがお守りを借りちゃったから、お兄ちゃんが死んじまったんじゃないかって。……はは、まさかね」
でもお兄ちゃんが死んでしばらくは、お兄ちゃんがお守りを持ってたら事故後も生き残れたんじゃないかって。オレはずっと自分を責め続けていた。
だってこのお守りすごいんだ。両親が離婚して母方の実家に引き取られたオレは、会社の社長で金持ちだったお父さんよりずっとずっと金持ちの祖父母の大きな家でそりゃもう可愛がられて大事にされた。
――母親の不義の子なのにね。孫には変わりないからって。
クソ母が鈴木さんと再婚してそこでもババアが浮気して。再婚相手にクソ母ごと追い出されて当然のところ、鈴木さんはオレを養子として手元に置いてくれた。
鈴木さんも金持ちだったからオレはなに不自由することなく青春時代を過ごせた。まあちょっとグレて陰キャになったのは仕方のないことだよ……
大学は最低の三流しか行けなかったけどね。でも鈴木さんや実家の祖父母から毎月送られてくる多額の小遣いでひたすらオタク趣味に没頭できてそこそこ楽しかった。
極めつけが、就職した東京新橋の総合商社に従兄弟のユウキさんがいて、オレの上司になって世話を焼いてくれた。
手間のかかる部下って扱いだったけど飲みに行ったり、互いの部屋に遊びに行ったりするぐらいの仲にはなれた。
――もちろん就職してからも、お兄ちゃんのお守りはずっと持っていた。だから袋がボロボロになっちまったんだけど。
オレ、こんなに充実した人生送ってていいのかな。
お兄ちゃんは死んじまったのにオレだけこんなに毎日楽しくていいのかな。
ピコン!
スマホのショートメールの着信音だ。見ると、――『浜那珂はるみさんからメッセージを一件受信しました』。
幸せだった家庭を崩壊させて、オレから大好きだったお兄ちゃんやお父さんを奪った元凶のクソ女からだ。
「チッ。無視して会社まで来られると厄介なんだよな……」
就職先は口止めしてたんだけど、今年の新年の親戚の集まりのとき祖父母がうっかり口を滑らせてクソ母にバレちまった。
そのとき強引にケータイ番号を聞き出されて、以来こうして頻繁にショートメールが来る。
嫌々数回に一回は返信してたけど、最近連絡の頻度が多い。
「あんたさえいなければ、オレの人生最高だったのに。最悪の厄ネタだよ。死ねばいいのに」
シャツの上からお守りの中身だった半円金貨のペンダントを握りしめた。
――カズアキお兄ちゃん。あのクソ女からどうかオレを守ってください。
※まだ更新再開に時間かかりそうなので、先に書いてあった第三章プロローグをば。
投稿サイトそれぞれで頂戴した展開予想を詰め込むと三章じゃ終わらないやつ……
調子戻ってきたので一気に書き上げたいなあ。
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