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第二章 異世界ど田舎村を救え!
俺、女性と年上には逆らわない男
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夜の散歩は三十分くらいで切り上げて戻ってきた。
泣き疲れたピナレラちゃんはまだ起きてたばあちゃんの隣の布団に寝かせてきた。
ユキりんも自分の部屋に引っ込んだようだ。
俺は歩いて目が冴えてしまったので眠くなるまで日記を書くことにした。
今日、従兄弟家族を思い出したことから夕飯のメニュー、ピナレラちゃんの夜泣きと村役場でアイスを食べたことまでを簡単にまとめた。
布団に入ってふと両親のことを思い出した。
うちはふつうのサラリーマン家庭だ。親父は外資のバイヤーで出張族。お袋は趣味が高じたヨガ講師。
俺が小学校に上がる寸前までは、家族でもなか村のばあちゃんの家で暮らしていた。
けどその頃に親父がどうしても転勤で東京に行かなくちゃならなくて、モテ男の親父を心配したばあちゃんが「ゲンキには単身赴任させちゃなんね。家族で行け」って言ってくれたんだ。
親父が定年後、もなか村に戻って家を継ぐはずだったんだよな。でもお袋が寒さに弱くて東北のもなか村に来ると毎回体調を崩してダメだったんだ。
俺がもなか村にまだ住んでた小学校前、冬になるといつもお袋が足の指が紫色になったと大騒ぎしていた。凍傷のなりかけだ。
冬の間は、家にいるときは石油ストーブのある居間からトイレ以外では絶対に動かなかった。
台所に立つのも苦痛だったようで、冬の家事はばあちゃんに任せっきり。「お義母さんごめんなさい」と謝っていた姿をよく覚えている。
村営温泉にもよく通っていたし俺もお供で一緒に行って、まだガキだったから女湯に入ってたなあと。
当時から過疎化してたもなか村の温泉客はみーんなご年配のご婦人ばっかりだったけど、幼いとはいえ俺も男。周りのおばちゃんたちの裸にドキドキしてたのを覚えてる。……まだ四歳や五歳の頃ぞ?
その後、冷え性のお袋は外資バイヤーだった親父の海外出張先の一つだったタイを気に入り、夫婦で早期退職して移住した。あそこ亜熱帯だから冬ないもんな。
ばあちゃんは意外にも親父たちに移住を許した。もなか村の家や財産は祖母の死後はもなか村に寄付するという話だったが。
……俺が移住したことで相続は俺になるだろうけど。
家や土地も大事だけど田舎の相続で一番重要なのは一族の墓の管理だ。実際、もなか村の墓が重要なのは村長たちから聞いた龍脈の話からも明らかだった。
「まあ親父もお袋も元気そうで何よりだべ」
俺たちが異世界転移した後も、時折繋がるスマホでやりとりだけは続けている。
今回のもなか村まるごと異世界転移事件では、まず親父だけが日本に帰国している。
親父は仲の良いみどり社長の手配でしばらく東京のホテル暮らしだ。まだ長引くようなら適当にマンスリー契約のアパートかマンションを借りると言っていた。
スマホの時計を見るとまだ夜の十時過ぎ。いつもならとっくに寝ている時間だが、散歩に出て身体を動かしたこともあってまだ眠くね。
何となく惰性でネット掲示板を覗いた。
俺が最初に立てた『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレは順調にナンバーを増やし続けている。もう俺の手を離れかけているな。
掲示板には繰り返し、イッチに対して元カノとの復縁打診を続ける書き込みがある。
元後輩鈴木からのタレコミが正しければ、これは俺の元カノが書き込んだコメントらしいが……
「………………もう写真も消しちまったし。顔もぼんやりとしか思い出せねえんだが」
そんなにしつこく復縁したがるなら、何で俺をあっさり捨ててあの八十神に乗り換えたんだよと言いたい。
まあもうどうでもいい人間なのだが。異世界に来てしまった今、もう二度と会うことのない人間だ。
俺を捨てた元カノは俺に対して随分たくさんの不満があったようだ。
特に普段の食事内容に文句があったらしいが、俺だって元カノの好みには言いたいことがたくさんあった。
特に食事の趣味は真逆といっていい。同じ金を出すならばあちゃんに頼んでど田舎村の米や野菜を送ってもらって自炊で食いたかった俺と、流行りの洒落た店や酒の好きだった元カノ。
今思うと最初から相性は正直いまいちだった。
俺は基本的に『女性や年上のご年配には逆らわない』をモットーにしている。
自分がばあちゃんっ子なのが理由だと思う。
自分じゃ料理もばあちゃんほど上手くねえし、人様が作ってくれたものや勧めてくれたものに文句を言ったこともない。
それもあって元カノとは喧嘩することもなく、基本的に相手の好みに合わせていたつもりだったが……
今となっては色白で巨乳だったことしか思い出せない女だ。
少し考えて、俺はネット掲示板に書き込まれた元カノらしき人物のIDをNG登録した。こうするともうネット掲示板では同じ人物のコメントは一切表示されなくなる。
「新しい男を見つけたらいいじゃないか。ま、俺ほどの男はそうはいねえけんど!」
と言える程度には俺も元カノをとっくに吹っ切っていた。
「……小腹が減ったな。なんか夜食でも食うか」
NEXT→御米田は禁断の夜を過ごす……
泣き疲れたピナレラちゃんはまだ起きてたばあちゃんの隣の布団に寝かせてきた。
ユキりんも自分の部屋に引っ込んだようだ。
俺は歩いて目が冴えてしまったので眠くなるまで日記を書くことにした。
今日、従兄弟家族を思い出したことから夕飯のメニュー、ピナレラちゃんの夜泣きと村役場でアイスを食べたことまでを簡単にまとめた。
布団に入ってふと両親のことを思い出した。
うちはふつうのサラリーマン家庭だ。親父は外資のバイヤーで出張族。お袋は趣味が高じたヨガ講師。
俺が小学校に上がる寸前までは、家族でもなか村のばあちゃんの家で暮らしていた。
けどその頃に親父がどうしても転勤で東京に行かなくちゃならなくて、モテ男の親父を心配したばあちゃんが「ゲンキには単身赴任させちゃなんね。家族で行け」って言ってくれたんだ。
親父が定年後、もなか村に戻って家を継ぐはずだったんだよな。でもお袋が寒さに弱くて東北のもなか村に来ると毎回体調を崩してダメだったんだ。
俺がもなか村にまだ住んでた小学校前、冬になるといつもお袋が足の指が紫色になったと大騒ぎしていた。凍傷のなりかけだ。
冬の間は、家にいるときは石油ストーブのある居間からトイレ以外では絶対に動かなかった。
台所に立つのも苦痛だったようで、冬の家事はばあちゃんに任せっきり。「お義母さんごめんなさい」と謝っていた姿をよく覚えている。
村営温泉にもよく通っていたし俺もお供で一緒に行って、まだガキだったから女湯に入ってたなあと。
当時から過疎化してたもなか村の温泉客はみーんなご年配のご婦人ばっかりだったけど、幼いとはいえ俺も男。周りのおばちゃんたちの裸にドキドキしてたのを覚えてる。……まだ四歳や五歳の頃ぞ?
その後、冷え性のお袋は外資バイヤーだった親父の海外出張先の一つだったタイを気に入り、夫婦で早期退職して移住した。あそこ亜熱帯だから冬ないもんな。
ばあちゃんは意外にも親父たちに移住を許した。もなか村の家や財産は祖母の死後はもなか村に寄付するという話だったが。
……俺が移住したことで相続は俺になるだろうけど。
家や土地も大事だけど田舎の相続で一番重要なのは一族の墓の管理だ。実際、もなか村の墓が重要なのは村長たちから聞いた龍脈の話からも明らかだった。
「まあ親父もお袋も元気そうで何よりだべ」
俺たちが異世界転移した後も、時折繋がるスマホでやりとりだけは続けている。
今回のもなか村まるごと異世界転移事件では、まず親父だけが日本に帰国している。
親父は仲の良いみどり社長の手配でしばらく東京のホテル暮らしだ。まだ長引くようなら適当にマンスリー契約のアパートかマンションを借りると言っていた。
スマホの時計を見るとまだ夜の十時過ぎ。いつもならとっくに寝ている時間だが、散歩に出て身体を動かしたこともあってまだ眠くね。
何となく惰性でネット掲示板を覗いた。
俺が最初に立てた『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレは順調にナンバーを増やし続けている。もう俺の手を離れかけているな。
掲示板には繰り返し、イッチに対して元カノとの復縁打診を続ける書き込みがある。
元後輩鈴木からのタレコミが正しければ、これは俺の元カノが書き込んだコメントらしいが……
「………………もう写真も消しちまったし。顔もぼんやりとしか思い出せねえんだが」
そんなにしつこく復縁したがるなら、何で俺をあっさり捨ててあの八十神に乗り換えたんだよと言いたい。
まあもうどうでもいい人間なのだが。異世界に来てしまった今、もう二度と会うことのない人間だ。
俺を捨てた元カノは俺に対して随分たくさんの不満があったようだ。
特に普段の食事内容に文句があったらしいが、俺だって元カノの好みには言いたいことがたくさんあった。
特に食事の趣味は真逆といっていい。同じ金を出すならばあちゃんに頼んでど田舎村の米や野菜を送ってもらって自炊で食いたかった俺と、流行りの洒落た店や酒の好きだった元カノ。
今思うと最初から相性は正直いまいちだった。
俺は基本的に『女性や年上のご年配には逆らわない』をモットーにしている。
自分がばあちゃんっ子なのが理由だと思う。
自分じゃ料理もばあちゃんほど上手くねえし、人様が作ってくれたものや勧めてくれたものに文句を言ったこともない。
それもあって元カノとは喧嘩することもなく、基本的に相手の好みに合わせていたつもりだったが……
今となっては色白で巨乳だったことしか思い出せない女だ。
少し考えて、俺はネット掲示板に書き込まれた元カノらしき人物のIDをNG登録した。こうするともうネット掲示板では同じ人物のコメントは一切表示されなくなる。
「新しい男を見つけたらいいじゃないか。ま、俺ほどの男はそうはいねえけんど!」
と言える程度には俺も元カノをとっくに吹っ切っていた。
「……小腹が減ったな。なんか夜食でも食うか」
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