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第二章 異世界ど田舎村を救え!
その頃、日本では~side八十神、御米田の父と鰻屋にて3
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「私や家内のいるタイにも来てくれなくなって。恋人の分も一緒に飛行機代を私が出すと行っても何だかんだ理由をつけて断られた。ユウキがというより、お相手の彼女が嫌がったんだろうね」
「……そうでしたか」
「うちは戦前から農家だけどものすごく古い家でね。私は国外に出てしまったから家や土地、先祖代々の墓は将来的にユウキに相続してもらう予定だった。けれどあのユウキの交際相手じゃうちのど田舎には来てくれないだろう?」
「……まあ、そうですね。彼女、野口さんというんですが本人も青森の田舎出身らしいんですが、田舎は大嫌いだと言ってましたから」
話を聞いていて僕はいろいろ思い出したことがあった。同期の御米田とは入社してからずっとライバルだったが、僕と一緒で仕事ができて見た目も良い目立つ男だから入社以降の歴代彼女はほぼ把握している。
そのうち二人ぐらいは長期休暇の時期にタイ旅行して両親に会わせていたはずだ。
『親父に会わせるとあっちに惚れて俺のことスルーされるのがつらい』とかアホなことを会社の飲み会の席で言ってたのを聞いた覚えがあるぞ?
まあこの御仁を見た後だと御米田など劣化版もいいところだ。目の前にこの上位互換がいたらどうしても目移りするだろう。彼氏の父親だと忘れなければの話だが。
「そういうわけだから、早く別れてほしいなと思っていたら三年も保った。せがれももう今年二十八だ。結婚を考える年。これは不味いなと思っていたんだ」
「……ゲンキさん、次もビールいきますか。別のお酒にされますか?」
「今日は一本だけ持ち込みさせてもらってるんだ。うちの田舎の廃業してしまった酒蔵の銘酒でね。取っておきやつだ。君も良かったら一緒に」
言って御米田ゲンキが取り出したのは風呂敷包みの日本酒の四合瓶だ。ラベルには『最中』とある。さいちゅう……? 初めて見る名前だ。
「最中って読むんだ。うちの田舎はもなか村だから村の名前から取ったんだろうね」
「鰻重の特上二人前、お待たせしましたー!」
そこへちょうど本命の鰻重が来た。御米田ゲンキが酒の封を開けたので僕は慌ててお酌に回る。
「ではこの出会いに」
「「乾杯」」
最中なる日本酒は店に用意してもらった硝子の片口へ移し、同じく硝子の猪口でいただくことにした。
「……美味いですね。飲みやすくて女性も好きそうな味です」
「本当なら純米大吟醸が最高なんだけどね。酒蔵が廃業してしまったからこの純米の普通酒が最後なんだ」
常温で飲んでもわかるぐらい透明で綺麗な酒だった。普通酒にあるまじき爽やかな酒だ。限界まで冷やして飲めば水みたいに軽くなりそうな……
乾杯後、鰻重に箸をつける前に御米田ゲンキが言った。
「そんなわけだから、私たち家族は君に大きな恩がある。だからまず今日のうなぎは恩返しその一だ」
「そんな。僕は恩返しされるようなことは……」
ここの特上鰻重はさっきちらっとドリンク注文しようとメニューを見たとき確認したら一万二千円だった。もちろん国産うなぎだ。
僕が御米田や、御米田が退職したことが会社に与えた損失を考えたらこんな高いうなぎを食べさせてもらえる道理がない。
「おっと。焼きたて熱々だ。食おう」
「……はい」
お重の蓋を開けると食欲をそそる香ばしい匂いがぶわっと個室に広がった。タレで繰り返し焼いたうなぎがびっしり。箸で一口分切り取ると、ご飯の間にまたうなぎ……さすが特上……
御米田ゲンキも豪快に鰻重を頬張って男前の顔の頬が緩んでいる。
「久し振りのうなぎがまた堪らんなあ。……恩返しその二だ。君がうちのせがれの企画データを盗んだ証拠は社内では出てこなかった。システム部を始めとした複数部署で調査した結果だ。安心するといい」
「………………それの、どこに安心できる要素が?」
ああ、やはりその話になるのか。
諦めに似た気持ちで僕も鰻重を頬張った。……蒸して程よく脂の抜けた柔らかな身、パリッと香ばしく焼けた皮、秘伝だろう絶妙な塩梅の甘辛いタレそして炊きたてのご飯。
そこに日本酒最中を入れるとああ……酒の飲める日本人で良かったなあって……
ほとんど現実逃避ぎみに鰻重と酒をひたすら食した。
NEXT→御米田父が八十神に下した判断とは?
※表紙イラストを幼女とパンケーキに変更しました!
「……そうでしたか」
「うちは戦前から農家だけどものすごく古い家でね。私は国外に出てしまったから家や土地、先祖代々の墓は将来的にユウキに相続してもらう予定だった。けれどあのユウキの交際相手じゃうちのど田舎には来てくれないだろう?」
「……まあ、そうですね。彼女、野口さんというんですが本人も青森の田舎出身らしいんですが、田舎は大嫌いだと言ってましたから」
話を聞いていて僕はいろいろ思い出したことがあった。同期の御米田とは入社してからずっとライバルだったが、僕と一緒で仕事ができて見た目も良い目立つ男だから入社以降の歴代彼女はほぼ把握している。
そのうち二人ぐらいは長期休暇の時期にタイ旅行して両親に会わせていたはずだ。
『親父に会わせるとあっちに惚れて俺のことスルーされるのがつらい』とかアホなことを会社の飲み会の席で言ってたのを聞いた覚えがあるぞ?
まあこの御仁を見た後だと御米田など劣化版もいいところだ。目の前にこの上位互換がいたらどうしても目移りするだろう。彼氏の父親だと忘れなければの話だが。
「そういうわけだから、早く別れてほしいなと思っていたら三年も保った。せがれももう今年二十八だ。結婚を考える年。これは不味いなと思っていたんだ」
「……ゲンキさん、次もビールいきますか。別のお酒にされますか?」
「今日は一本だけ持ち込みさせてもらってるんだ。うちの田舎の廃業してしまった酒蔵の銘酒でね。取っておきやつだ。君も良かったら一緒に」
言って御米田ゲンキが取り出したのは風呂敷包みの日本酒の四合瓶だ。ラベルには『最中』とある。さいちゅう……? 初めて見る名前だ。
「最中って読むんだ。うちの田舎はもなか村だから村の名前から取ったんだろうね」
「鰻重の特上二人前、お待たせしましたー!」
そこへちょうど本命の鰻重が来た。御米田ゲンキが酒の封を開けたので僕は慌ててお酌に回る。
「ではこの出会いに」
「「乾杯」」
最中なる日本酒は店に用意してもらった硝子の片口へ移し、同じく硝子の猪口でいただくことにした。
「……美味いですね。飲みやすくて女性も好きそうな味です」
「本当なら純米大吟醸が最高なんだけどね。酒蔵が廃業してしまったからこの純米の普通酒が最後なんだ」
常温で飲んでもわかるぐらい透明で綺麗な酒だった。普通酒にあるまじき爽やかな酒だ。限界まで冷やして飲めば水みたいに軽くなりそうな……
乾杯後、鰻重に箸をつける前に御米田ゲンキが言った。
「そんなわけだから、私たち家族は君に大きな恩がある。だからまず今日のうなぎは恩返しその一だ」
「そんな。僕は恩返しされるようなことは……」
ここの特上鰻重はさっきちらっとドリンク注文しようとメニューを見たとき確認したら一万二千円だった。もちろん国産うなぎだ。
僕が御米田や、御米田が退職したことが会社に与えた損失を考えたらこんな高いうなぎを食べさせてもらえる道理がない。
「おっと。焼きたて熱々だ。食おう」
「……はい」
お重の蓋を開けると食欲をそそる香ばしい匂いがぶわっと個室に広がった。タレで繰り返し焼いたうなぎがびっしり。箸で一口分切り取ると、ご飯の間にまたうなぎ……さすが特上……
御米田ゲンキも豪快に鰻重を頬張って男前の顔の頬が緩んでいる。
「久し振りのうなぎがまた堪らんなあ。……恩返しその二だ。君がうちのせがれの企画データを盗んだ証拠は社内では出てこなかった。システム部を始めとした複数部署で調査した結果だ。安心するといい」
「………………それの、どこに安心できる要素が?」
ああ、やはりその話になるのか。
諦めに似た気持ちで僕も鰻重を頬張った。……蒸して程よく脂の抜けた柔らかな身、パリッと香ばしく焼けた皮、秘伝だろう絶妙な塩梅の甘辛いタレそして炊きたてのご飯。
そこに日本酒最中を入れるとああ……酒の飲める日本人で良かったなあって……
ほとんど現実逃避ぎみに鰻重と酒をひたすら食した。
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