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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、夕飯はお蕎麦にお呼ばれ

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 村長たちが手打ち蕎麦を抱えて戻ってきた。
 そのまま厨房に直行して茹でて、ど田舎村の冷たい湧き水でキュッとしめて出来上がり。

「十割蕎麦だべ。蕎麦粉百パーセント!」
「いやはや半日がかりでしたね……大変でした」

 村長、勉さん、男爵の屋敷の料理人の三人で今日の午前中からずーっと蕎麦打ちをやってたそうだ。
 もなか村役場には蕎麦打ちカーがあって、蕎麦打ちに必要な道具が全部揃っている。車を動かさず村役場のほうで作業していたようだ。

「村長、こっち緑色のは抹茶? ヨモギ?」
「ポーション原料の薬草だあ。なかなか良いお味になったっぺ!」

 村長たちが打ってきた蕎麦は、蕎麦粉だけの十割蕎麦と、薬草入り蕎麦。……って薬草ってマジで!?
 あー今どきの子はマジでって言わないんだよなーあの生意気後輩の鈴木とか「マ?」で止めてたなあ……

 などと他愛のないことを思いつつ、俺は男爵の屋敷から見えるど田舎村の畑を眺めた。
 もう陽も暮れた後だからこその光景が広がっている。特産の薬草畑が薄っすら光っているのだ。
 異世界ポーションの原料になる薬草は、その土地の魔力を吸収して植物そのものが魔力を帯びて育つ。
 妖精の国みたいなエフェクトのかかった光景だ。幻想的だなあ。畑以外のその辺の野原や道にも自生してるから、夜中でも足元を照らしてくれて歩きやすくて便利だ。



 さて食堂に移動して肝心のお蕎麦だ。
 ばあちゃんが作ったのは御米田家定番の東北の濃口醤油系の味濃いめ、カツオ節と昆布の出汁のやつ。みりんと砂糖で甘めに仕上げてある。
 それと、ど田舎村でも採れるウォルナット、クルミのすり潰しを混ぜたクルミつゆ。

 実はここアケロニア王国では料理に砂糖をほとんど使わない食文化だった。日本でよく食ってた御米田家の味付けは現地人からすると面食らうものが多いようだ。
 実際、煮物でも砂糖を多めに入れたものは苦手だと言われている。
 ところが、このそばつゆみたいな付けつゆやソース系単独が甘い分には問題ない、どころか美味いと感じるらしい。ローストビーフやステーキのソースに果物の甘いソース使ったりするもんな。そういう感覚なんだろうか。

 冷やし蕎麦は丼サイズの木の器で。薬味はこちらにもあったリーキという太ネギの白い柔らかなところの小口切り、そこに地元の野菜や川魚などの天ぷらのせ。
 そろそろ、もなか村側に残ってた市販の食用油も期限が迫っていた。どうせならパーッと使い切ろうというわけで天ぷら蕎麦パーティーに決めたらしいぞ。

「今日はこいつもある。蕎麦と一緒でもええし別でもええ」
「あっ、温玉!」

 勉さんがネットに入った温泉卵を見せてきた。もなかの温泉で作る温玉はな……最高だぞ。

「茹で卵ですか? ベン」
「いんや、半熟卵だべ」
「……大丈夫ですか?」
「食って見りゃわかる」

 この異世界は中世ヨーロッパイメージに反してファンタジー要素が強い。現代日本よりはるかに進んだ魔法や魔導具文化もあれば、意外なところで近代化以前の領域もある。
 卵の生食不可とか。鶏卵を消毒するって知識がないんだな。だから俺やばあちゃんが朝飯に生卵で食う卵かけご飯もピナレラちゃんやユキりんは全然駄目だった。後にピナレラちゃんはふつうに〝おいちい〟と食えるようになっていたが。

 試しに一個だけ小鉢に割り入れる。
 スプーンで半分に割ると、白身は柔らかな感触の白色、黄身は絶妙の緩みのない半熟。
 ここに今日はそばつゆがあるのでタレにして男爵に味見……の前に男爵の部下の薬師が物品鑑定スキル持ちなのでまず鑑定。生卵の生食不可なのは鑑定結果に『生ダメ絶対!』と表示されるためだ。

「問題なさそうです」
「で、ではいざ実食……」

 恐る恐る温玉をすくって男爵が一口……おお目を見開いておる……すぐさま残りの温玉も二口で食べきって……

「これは素晴らしい! 黄身のまろやかさはもちろん、柔らかめのねっとり食感も良い。卵の新しい食べ方としてぜひ広めたいですね!」
「でも半熟だから日持ちしねえんだ。しばらくは村ん中だけで食べ方模索してくんろ」

 今日は天ぷらのせ冷やし蕎麦と一緒にだな。
 醤油だけでもいいし、この村でもよく食べられてるミネストローネみたいな洋風スープに落としてもいけるぞ。





NEXT→御米田は皆と蕎麦ディナー

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