上 下
95 / 151
第二章 異世界ど田舎村を救え!

その頃、日本では~side元カノ、青森の実家への帰省

しおりを挟む
 私は野口穂波、二十五歳。東京新橋の総合商社で庶務課にお勤めしてるわ。

 今年のゴールデンウィーク前に、数年付き合った社内恋愛の御米田ユウキ君と別れて二ヶ月。
 だけど乗り換えたはずの八十神先輩もっといい男から理不尽に振られてしまって、私はもう一度ユウキ君と復縁しようと考えた。

 元カレのユウキ君は、社内の出世頭。狙ってた女の人も多かった。顔もまあまあ格好良かったし身体も……
 そんな彼と私がお付き合いできたのは父方の叔母からもらったパワーストーンのお陰だったかも、と気づいたの。
 でも彼は私と別れた後、仕事の失敗のせいもあって会社を辞めてしまった。私は彼が復職や再就職するなら再構築も有りだなって考えたわ。
 とてもいいアイデアでしょう? 彼だって私に振られたショックで会社を辞めたぐらいだもの。私から復縁したいって言われたら喜んでくれるはず。
 ……今はスマホの電話もメッセージアプリもブロックされてしまってるけど、きちんと私の気持ちを伝えれば誤解はすぐ解けると思うの。

 私の叔母は青森の霊能者でね。芸能人も通う知る人ぞ知る凄腕だったんだって。私は東京に上京する前、この叔母から『アゲチンの男を捕まえるお守り石』を貰っていたのだ。

 そこで私は青森の実家に一度戻ることにした。
 週末の金曜日に一日有給を取って、金土日の三日間。



 実家に戻ってその足で叔母を訪ねて私が割れてしまったお守り石を見せると、叔母は顔色を変えた。

「何てこと。お前の元カレには強い守護神が憑いているようだ」
「守護神……?」

 叔母が割れた石を指差した。すると私が東京の自分の部屋で見たときのような、青く強い閃光が石から吹き出してきた。
 そして――石は粉々に砕けた。

「叔母様。これってどういうこと?」
「私が石に込めた念より、元カレの守護神のほうが強い。……穂波、あんた惜しい男を逃したね。こんな守護神持ちの男、滅多にいないよ」
「叔母様、それなんだけど。私、彼と復縁したくて」

 叔母は霊能者として自宅に護摩焚きができる祭壇を持っている。よくお客さんの要望に応えてご祈祷を行なっていた。

「この男相手に下手なことはやらんほうがいいぞ?」
「でも。だって、別れた後も何人か男の人とデートしてみたけど彼が一番、私を大切にしてくれた人だから」
「そんないい男だったのに、なんで別れた?」

 あまり言いたくなかったけど渋々理由を話した。
 元カレのユウキ君が理想の男の人とはちょっとズレていたこと。
 アプローチされていた会社の先輩のほうがお洒落で素敵な外見だったこと。

「叔母様から貰ったお守り石を持ち歩かなくなってから、上手くいかなくなっちゃって。効果があるのはわかったから、また叔母様に新しい石を貰えばいいかなって」
「石ならいくらでもある。祈祷で強い念を込めて相手に一度触れさせるといいんだが」

 そんなことで良いのなら、いくらでもやるわ。
 私は今日このまま叔母の家に泊まって、叔母に深夜、秘密のご祈祷を行ってもらうことにした。



 そして日付が変わってから、私は叔母と祭壇のある部屋にいた。
 古い倉庫を改装した石造りの離れだ。もう七月とはいえ夜の冷えた空気の中、叔母が護摩壇に火を入れる。
 薪を燃やしている間、ずっと叔母が呪文のようなものを低い声で唱えている。
 祭壇にはスマホからプリントしたユウキ君の写真と、前貰った茶水晶とは違う、真っ黒な石の欠片。黒曜石だそうだ。

「――駄目だ。この男の魂が見つからない」

 三十分ほど祈祷して叔母が護摩焚きを切り上げて、後ろの席で待機していた私を振り返った。

「どういうこと?」
「お前の元カレの魂に念を引っ掛けようとしたんだ。またお前の元に戻ってくるようにと。だが、見つけられなかった」
「そんな。どうすればいいの?」
「相手の男を直接私のところへ連れてくるか、私の依代をお前に預けるからお前が相手のところに行って渡してくるかだね」
「………………」

 連れてくるのは難しそう。もう別れてしまってるし、いま相手からはスマホの連絡先も全部ブロックされてしまっている。

「ユウキ君、田舎に戻ったって言ってたわ。確か……もなか村だったかしら」
「もなか村!?」

 叔母がいきなり大声をあげた。

「穂波。お前の彼氏、もなか村出身なのか?」
「え、ええ。すごいど田舎で。うちの実家より僻地よ。行くだけで一日近く潰れる辺鄙な場所らしいわ」
「お前、そのもなか村が今どうなってるか知らんのか?」
「?」

 護摩壇の炎の始末をして、叔母と一緒に家に戻った。
 居間で週刊誌を渡される。表紙の煽り文句を見て驚いたわ。

『突如村ごと消えた限界集落、もなか村』

 巻頭ページのタイトルやキャッチコピーに信じられない言葉が並んでいた。


『限界集落まるごと消失! 東北の僻村を襲う現代オカルト現象とは』

『もなか村役場バイト御米田ユウキ、ネット掲示板への書き込み』

『リアル異世界転移を人気ライトノベル作家――――が語る』


「なに、これ……」

 このとき初めて、私は会社を辞めた後のユウキ君が故郷の村ごと行方不明になっていることを知った。
 もう別れてから二ヶ月経った頃のことだった。






NEXT→御米田はユキリーンに自転車の乗り方を教える……

※強い守護神🟦🗡️✨

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...