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第二章 異世界ど田舎村を救え!

俺、泣く泣く納豆を諦めた ※おいちい回

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「ばあちゃん、鮎ほぐすのだけやってけろ」

 炊き上がった鮎飯は、一緒に炊いた焼き鮎を一度取り出して身をほぐし頭や骨を取り除いてご飯とまぜて出来上がり。
 ばあちゃんは魚の解体が上手だ。身は崩しすぎずに細かい骨もささっと残さず取り除く、さすが年の功だっぺ!

 俺が作った鮎飯、焼き鮎の煮浸し、ナスの味噌汁はまあまあ好評だった。ばあちゃん作り置きの叩きキュウリは言うまでもない。

 そもそも新鮮な川魚と野菜、もなか山の山菜にもなか村の〝ささみやび〟で炊いた飯。外れなどあろうはずがない。
 素材がいいだけなのに、味付け適当でも東京で食ってたどの飯より美味かった。俺はもなか村に帰省して、ど田舎村に転移してきてからも毎日美味い飯しか食ってない。だから毎日元気いっぱいだ。

「ゆうごはんもあゆしゃん。おいちい」

 ピナレラちゃんが満面の笑顔でお焦げのできた鮎飯を噛み締めている。
 良かった。また鮎なんてイヤとか言われたらユキ兄ちゃん泣いちゃう。その手の反抗期はまだまだ先だべなあ。
 農村の飯に食材かぶりイヤーなんて言われたら食うもんなくなるからな。

「ここのおうちのごはん、無茶苦茶美味いです。残飯やカビ生えたパン食わされてたのと比べたら天国かなって」
「ユキりん。まだまだお代わりあるぞ。たんと食え」
「……お願いします」

 差し出された空になった茶碗に鮎飯を山盛りにしてやった。
 俺はユキりんがたまに漏らす奴隷商に囚われてた時期のエピソードを聞くたび心で泣いた。駄目だ。この子はマジで腹いっぱい美味いもの山ほど食わせなきゃなんね。
 俺と同じくらいデカくてムキムキに育て上げて見せるべ! 美少年を美青年に進化させてみせるっぺ!
 手始めにユキりんの茶碗はもっとサイズ大きめに変えようか。丼でもよいのでは? 俺もこの年頃には毎日山盛りで飯食ってたもん。



「あ、明日から酒造り、始めるから。午後は俺とユキりんいないからよろしくな」

 異世界転移から二ヶ月弱。もなか村の名物だった日本酒〝最中もなか〟復活プロジェクトの始動には少し時間がかかった。

 理由は単純だ。村ごと転移してきた俺たちもなか村民四人の食生活に、ある問題があった。――納豆だ。

 廃業したもなか村の酒蔵には酒造手順のノートが全部残されていた。
 冒頭の注意事項には、いかに酒造りに納豆食がヤバいか、こと細かく記されていた。
 納豆を発酵させる納豆菌はとにかく丈夫で強い菌だ。要するに酒造りする人間が納豆を食ってると、うっかり酒を納豆菌で醸してしまう危険性があるわけだ。
 日本酒造りで使う麹菌と納豆菌は生育環境が被るらしい。

 かといって俺たちも日常的に食ってた納豆をわざわざ処分などしたくない。
 仕方ないから食えるだけ食って食べ納めとして、身体から納豆菌の影響が抜けるまで時間を置いたというわけだ。

 ……俺だけ。ばあちゃんも村長も勉さんも納豆食を捨てられなかったため、俺だけ。仕方ないから俺が自ら犠牲となった。
 というか納豆、ふつうに藁があれば自家製で作れるしな。家でばあちゃんが作る分には、食いさえしなけりゃ酒造りに影響もない。
 同じ発酵食品でも味噌汁や漬物、パンなんかは問題ないのにな。納豆菌さんが強すぎるべさ。

 ちなみに納豆は異世界人のど田舎村の人々には受け入れられなかった。やはりあの匂いと糸を引くネバネバが駄目なんだと。
 仕方ないのでばあちゃんたち、もなか村民のご年配だけで細々食ってもらうことにする。

 しかしなぜかピナレラちゃんだけはいけた。むしろ『おいちい』まで出た。やはりこの子は好き嫌いのないタイプの子だ。ええ子だっぺ!

 予想はつくと思うがユキりんは案の定、納豆は存在自体を拒否した。神経質そうだしな、予想通りだ。
 同じ食卓でばあちゃんとピナレラちゃんが食うのは我慢できても、本人はもう全然ダメ。

 というわけで、酒造りは俺とユキりんでやることにした。
 俺はともかくユキりんみたいな麗しの美少年の醸す酒……美酒間違いなし、俺はこの時点で勝利を確信していた。





NEXT→御米田はユキリーンともなか酒造へ
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