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第一章 異世界転移、村ごと!

その頃の???~side王都のとある男爵家2 ※イラスト有り

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 ところが末っ子のユキリーンだけは違った。
 顔は同じだ。麗しの美貌はリースト家のもの。
 ……ただ、髪と目の色が、母親である妻譲りなのだよね。我が最愛の妻と同じショコラブラウンの髪とアメジストの瞳。

 私はずっと、密かに妻に似た子供が欲しかった。だからユキリーンが生まれたときはどれほど嬉しかったか。
 何せ先に儲けていた五人の子供たちは私の複製品みたいなリースト家の特徴しか出なかったからね。

 子供たちも大好きな母親に似た色を持つユキリーンをやっぱり可愛がった。
 
 だけど、そんな私たちのユキリーンが。学園で。

「『リースト一族なのに父や姉、兄たちと違う色合いだから、母親の不貞の子』そう言われていたのですか? 俺たちのユキリーンが?」
「顔は私たちにそっくりだから、ほとんど言いがかりだな。あの子は優秀だから、やっかみ半分だろう」

 私たちは、ここ最近ずっとユキリーンから距離を置かれていた理由を知った。
 反抗期ではなかった。学園で同級生たちから言いがかりをつけられて、そのことで悩んでいたのだ。

「どうして。相談してくれれば……」

 子供たちの一人が呟いた。だが言えなかったのだろう。言えば自分に髪と瞳の色を授けた母親を悲しませるとわかっていたのだ。あの子は優しい子だからね……



 それから妻や娘たちは泣き暮らした。
 この父と兄たちも途方に暮れたが、例の三男だけがアクティブだった。

 まずユキリーン行方不明の話を知るなり近衛騎士を辞めてきた。同世代で一番の出世頭なのに未練もなにも残さずに。
 その足で末っ子をいじめた同級生たちの家全部に殴り込みに行って、ぶん殴って反省文と『二度と同じことはやりません』『以後の人生は善い人間になります』と誓約書を書かせ、破ると天罰が落ちる神殿誓約を結ばせてきた。

 ついでに親たちから慰謝料もぶん取ってきた。すごくたくさん。相手も自分の子供がリースト一族に喧嘩を売ったと知って恐怖に慄いたようだ。相場より高い金額を自ら提示してきたそうな。
 リースト一族は身内の結束が強い。こと愛する者を傷つけられたときの苛烈さは歴史にたびたび名を残すほどだ。今回の件ではご本家も彼らの家に対して動くはずだ。
 そりゃ怖いだろうね。魔法剣で串刺しにされるより慰謝料を支払ったほうがマシだ。

 三男は特に、いじめの首謀者と実行犯らには念入りに報復したようだ。
 ……相手、うちより家格が上の伯爵家と子爵家の子息ぞ? ああそうか、だから王族に侍る近衛を辞めてきたのだと私たちは知る。

 ……三男の行動を皮切りに家族も変わった。

 社交が苦手だった子たちも積極的に学園時代の伝手を辿って、ユキリーンの行方を探し始めた。
 我が家は分家で血が薄い分、魔力の低い子が多かったが、魔法や剣の腕を磨くため同じ王都のご本家に願って修行に力を入れ始めた。
 
 妻はユキリーンのいじめを知った日から体調を崩して寝込みがちだ。

 父の私はといえば、ひたすら金策に走って末っ子の捜索に注ぎ込む毎日だ。
 うちは男爵家だからあまり目立つと他の貴族に目をつけられる。だから何ごとも〝ほどほど〟を心がけていたのだけど、――もう抑えることはせず事業でも投資でもとにかく収益の最大化に努めた。
 利益はそのままユキリーンの捜索費用に。

 そうしてひと月後、ようやく掴めたユキリーンの情報は。



 悪名高い奴隷商、ギルガモス商会に囚われたとの報告を最後に消息が途絶えた――






NEXT→御米田は王様の短い夢を見た……











殺意強めの三男イメージ ユカリオン君(18)

ユキりんにはこんなカラーリングの
お兄ちゃん×3
お姉ちゃん×2
パパ×1 がいる……


ユキりんだけがママ似の色合いである
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