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第一章 異世界転移、村ごと!

その頃、日本では~side元カノ、おまじないを思い出す

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 ユウキ君からのメッセージと、ブロックされたショックで泣きながら眠った翌朝。

「なにこれ……むくみが取れてないわ」

 洗面所の鏡の中の自分の顔がおかしい。
 どれだけ前日に酒を飲んでも二日酔いもなければ、むくみもなくスッキリしているはずなのに。

 イライラしながら冷たい水で顔を洗う。朝食代わりのスムージーをブレンダーで作りながら、私は過去を思い返していた。

 ユウキ君と付き合っていたとき、彼は私の思い通りだった。
 正直に言うが私の初めての相手はユウキ君だ。彼自身、経験のない女性と付き合ったのが初めてだったそうで、それもあってすごく大切にしてくれたのだ。
 結婚を考えてくれるようになったのは、責任を取る意味合いも多かったのではないかしら。

 逆に、八十神先輩と付き合い始めてから、彼が私の思うように動くことは滅多になく、苛立ちばかりがあった。
 付き合う前はわからなかったけど、彼はあまり女性を大切にするタイプではない。ユウキ君にとても大事にしてもらってたから、対照的すぎてよくわかった。

 セロリとパイン、蜂蜜入りのスムージーを飲んで一息。

 ――パキッと大きな、何かが壊れる音がした。
 確認すると、寝室のカラーボックスの上、布を敷いてお札を立てているだけの簡易神棚に飾っていた天然石が割れていた。青森の地元の山で採掘された茶水晶だ。
 見事に縦に真っ二つ。

「何これ……青く光ってる……?」

 割れた茶水晶を青い光が覆っていた。だがその光は私が見ている前ですぐに消えた。
 後には割れた茶水晶だけが残っている。

「そうだった。私、おまじないを忘れてた」



 私の実家は青森の片田舎にある。イタコで有名な恐山から車で四十分ほど離れた田舎だ。

 地元の地主一族だったから生活に不自由したことはなかったけど、田舎すぎて遊びに行く場所が小規模のショッピングモールしかない。
 私はそれが嫌で嫌で、親を説得して大学からは東京に上京し、以来一度も帰っていない。結婚したら夫を連れて戻るとだけ約束させられているけれど。

 私の父方の叔母に、若い頃、祈祷師に弟子入りしていた霊能者がいる。
 子供の頃から可愛がってくれた人で、私自身も懐いていた。
 ただ、私に素質があると言って祈祷師の真似事をさせようとするのだけは辟易としていた。神棚の前で祝詞のようなものを唱えるだけなんだけど、終わった後はお取り寄せの珍しいお菓子でお茶したり、お小遣いをくれるからそれ目当てに通っていた感じ。

 東京に進学する前、その叔母から縁結びのお守りを貰っていた。そう、今回割れたこの茶水晶だ。
「絶対、アゲチンの男を見つけろ」と厳命されて。
 叔母は親戚の中でも羽振りの良い人だった。テレビで見る芸能人が何人も叔母を訪ねてくるほど。……祈祷師として腕が良かったのだと思う。

 でもこんな天然石に効果があるなんて私は信じていなかった。
 けど持ち歩くと不思議と周りの人が私に親切になるので、就職した後もバッグの内ポケットに入れたままにしていた。

 だけど去年、新卒で入社してきた新人でユウキ君と同じ営業部に配属された子がいる。やる気のない子でユウキ君が部下として引き取った子だ。名前は確か鈴木君。
 あるときアフターファイブの飲み会のとき、ユウキ君が鈴木君を紹介してくれたことがある。
 そのときうっかり茶水晶を見られて、ボロクソにdisられた。

『うっわー。野口先輩、そういうの好きな人? パワーストーン好きの女の人って地雷率高いって本当なんスかね?』

 すぐにユウキ君が彼を怒ってくれて、その話はそれっきり。
 だけど私は気まずくて、それから茶水晶の持ち歩きはやめてこうして寝室に簡易神棚をしつらえて飾るようになったのだ。



「……私がユウキ君との関係を考え直すようになったの、いつからだったかしら」

 その後、新橋の会社への通勤ラッシュに揺られながら思い返してみると、去年の後半だった。
 会社に着いてから始業時間まで余裕があったので、カフェスペースに寄ってカフェオレを飲みながら、叔母から定期的に来る過去メールを確認してみた。
 数年前、入社前後の頃のメールに答えがあった。

「…………石の効果は男一人につき一つ。しまった。八十神先輩には新しい石を使わなきゃいけなかったのね」

 そこで私は閃いた。
 八十神先輩なんてもう要らない。
 霊能者の叔母なら、もう一度ユウキ君と復縁するための方法を知ってるんじゃないかしら?


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