71 / 152
第一章 異世界転移、村ごと!
その頃、日本では~side元カノ、おまじないを思い出す
しおりを挟む
ユウキ君からのメッセージと、ブロックされたショックで泣きながら眠った翌朝。
「なにこれ……むくみが取れてないわ」
洗面所の鏡の中の自分の顔がおかしい。
どれだけ前日に酒を飲んでも二日酔いもなければ、むくみもなくスッキリしているはずなのに。
イライラしながら冷たい水で顔を洗う。朝食代わりのスムージーをブレンダーで作りながら、私は過去を思い返していた。
ユウキ君と付き合っていたとき、彼は私の思い通りだった。
正直に言うが私の初めての相手はユウキ君だ。彼自身、経験のない女性と付き合ったのが初めてだったそうで、それもあってすごく大切にしてくれたのだ。
結婚を考えてくれるようになったのは、責任を取る意味合いも多かったのではないかしら。
逆に、八十神先輩と付き合い始めてから、彼が私の思うように動くことは滅多になく、苛立ちばかりがあった。
付き合う前はわからなかったけど、彼はあまり女性を大切にするタイプではない。ユウキ君にとても大事にしてもらってたから、対照的すぎてよくわかった。
セロリとパイン、蜂蜜入りのスムージーを飲んで一息。
――パキッと大きな、何かが壊れる音がした。
確認すると、寝室のカラーボックスの上、布を敷いてお札を立てているだけの簡易神棚に飾っていた天然石が割れていた。青森の地元の山で採掘された茶水晶だ。
見事に縦に真っ二つ。
「何これ……青く光ってる……?」
割れた茶水晶を青い光が覆っていた。だがその光は私が見ている前ですぐに消えた。
後には割れた茶水晶だけが残っている。
「そうだった。私、おまじないを忘れてた」
私の実家は青森の片田舎にある。イタコで有名な恐山から車で四十分ほど離れた田舎だ。
地元の地主一族だったから生活に不自由したことはなかったけど、田舎すぎて遊びに行く場所が小規模のショッピングモールしかない。
私はそれが嫌で嫌で、親を説得して大学からは東京に上京し、以来一度も帰っていない。結婚したら夫を連れて戻るとだけ約束させられているけれど。
私の父方の叔母に、若い頃、祈祷師に弟子入りしていた霊能者がいる。
子供の頃から可愛がってくれた人で、私自身も懐いていた。
ただ、私に素質があると言って祈祷師の真似事をさせようとするのだけは辟易としていた。神棚の前で祝詞のようなものを唱えるだけなんだけど、終わった後はお取り寄せの珍しいお菓子でお茶したり、お小遣いをくれるからそれ目当てに通っていた感じ。
東京に進学する前、その叔母から縁結びのお守りを貰っていた。そう、今回割れたこの茶水晶だ。
「絶対、アゲチンの男を見つけろ」と厳命されて。
叔母は親戚の中でも羽振りの良い人だった。テレビで見る芸能人が何人も叔母を訪ねてくるほど。……祈祷師として腕が良かったのだと思う。
でもこんな天然石に効果があるなんて私は信じていなかった。
けど持ち歩くと不思議と周りの人が私に親切になるので、就職した後もバッグの内ポケットに入れたままにしていた。
だけど去年、新卒で入社してきた新人でユウキ君と同じ営業部に配属された子がいる。やる気のない子でユウキ君が部下として引き取った子だ。名前は確か鈴木君。
あるときアフターファイブの飲み会のとき、ユウキ君が鈴木君を紹介してくれたことがある。
そのときうっかり茶水晶を見られて、ボロクソにdisられた。
『うっわー。野口先輩、そういうの好きな人? パワーストーン好きの女の人って地雷率高いって本当なんスかね?』
すぐにユウキ君が彼を怒ってくれて、その話はそれっきり。
だけど私は気まずくて、それから茶水晶の持ち歩きはやめてこうして寝室に簡易神棚をしつらえて飾るようになったのだ。
「……私がユウキ君との関係を考え直すようになったの、いつからだったかしら」
その後、新橋の会社への通勤ラッシュに揺られながら思い返してみると、去年の後半だった。
会社に着いてから始業時間まで余裕があったので、カフェスペースに寄ってカフェオレを飲みながら、叔母から定期的に来る過去メールを確認してみた。
数年前、入社前後の頃のメールに答えがあった。
「…………石の効果は男一人につき一つ。しまった。八十神先輩には新しい石を使わなきゃいけなかったのね」
そこで私は閃いた。
八十神先輩なんてもう要らない。
霊能者の叔母なら、もう一度ユウキ君と復縁するための方法を知ってるんじゃないかしら?
「なにこれ……むくみが取れてないわ」
洗面所の鏡の中の自分の顔がおかしい。
どれだけ前日に酒を飲んでも二日酔いもなければ、むくみもなくスッキリしているはずなのに。
イライラしながら冷たい水で顔を洗う。朝食代わりのスムージーをブレンダーで作りながら、私は過去を思い返していた。
ユウキ君と付き合っていたとき、彼は私の思い通りだった。
正直に言うが私の初めての相手はユウキ君だ。彼自身、経験のない女性と付き合ったのが初めてだったそうで、それもあってすごく大切にしてくれたのだ。
結婚を考えてくれるようになったのは、責任を取る意味合いも多かったのではないかしら。
逆に、八十神先輩と付き合い始めてから、彼が私の思うように動くことは滅多になく、苛立ちばかりがあった。
付き合う前はわからなかったけど、彼はあまり女性を大切にするタイプではない。ユウキ君にとても大事にしてもらってたから、対照的すぎてよくわかった。
セロリとパイン、蜂蜜入りのスムージーを飲んで一息。
――パキッと大きな、何かが壊れる音がした。
確認すると、寝室のカラーボックスの上、布を敷いてお札を立てているだけの簡易神棚に飾っていた天然石が割れていた。青森の地元の山で採掘された茶水晶だ。
見事に縦に真っ二つ。
「何これ……青く光ってる……?」
割れた茶水晶を青い光が覆っていた。だがその光は私が見ている前ですぐに消えた。
後には割れた茶水晶だけが残っている。
「そうだった。私、おまじないを忘れてた」
私の実家は青森の片田舎にある。イタコで有名な恐山から車で四十分ほど離れた田舎だ。
地元の地主一族だったから生活に不自由したことはなかったけど、田舎すぎて遊びに行く場所が小規模のショッピングモールしかない。
私はそれが嫌で嫌で、親を説得して大学からは東京に上京し、以来一度も帰っていない。結婚したら夫を連れて戻るとだけ約束させられているけれど。
私の父方の叔母に、若い頃、祈祷師に弟子入りしていた霊能者がいる。
子供の頃から可愛がってくれた人で、私自身も懐いていた。
ただ、私に素質があると言って祈祷師の真似事をさせようとするのだけは辟易としていた。神棚の前で祝詞のようなものを唱えるだけなんだけど、終わった後はお取り寄せの珍しいお菓子でお茶したり、お小遣いをくれるからそれ目当てに通っていた感じ。
東京に進学する前、その叔母から縁結びのお守りを貰っていた。そう、今回割れたこの茶水晶だ。
「絶対、アゲチンの男を見つけろ」と厳命されて。
叔母は親戚の中でも羽振りの良い人だった。テレビで見る芸能人が何人も叔母を訪ねてくるほど。……祈祷師として腕が良かったのだと思う。
でもこんな天然石に効果があるなんて私は信じていなかった。
けど持ち歩くと不思議と周りの人が私に親切になるので、就職した後もバッグの内ポケットに入れたままにしていた。
だけど去年、新卒で入社してきた新人でユウキ君と同じ営業部に配属された子がいる。やる気のない子でユウキ君が部下として引き取った子だ。名前は確か鈴木君。
あるときアフターファイブの飲み会のとき、ユウキ君が鈴木君を紹介してくれたことがある。
そのときうっかり茶水晶を見られて、ボロクソにdisられた。
『うっわー。野口先輩、そういうの好きな人? パワーストーン好きの女の人って地雷率高いって本当なんスかね?』
すぐにユウキ君が彼を怒ってくれて、その話はそれっきり。
だけど私は気まずくて、それから茶水晶の持ち歩きはやめてこうして寝室に簡易神棚をしつらえて飾るようになったのだ。
「……私がユウキ君との関係を考え直すようになったの、いつからだったかしら」
その後、新橋の会社への通勤ラッシュに揺られながら思い返してみると、去年の後半だった。
会社に着いてから始業時間まで余裕があったので、カフェスペースに寄ってカフェオレを飲みながら、叔母から定期的に来る過去メールを確認してみた。
数年前、入社前後の頃のメールに答えがあった。
「…………石の効果は男一人につき一つ。しまった。八十神先輩には新しい石を使わなきゃいけなかったのね」
そこで私は閃いた。
八十神先輩なんてもう要らない。
霊能者の叔母なら、もう一度ユウキ君と復縁するための方法を知ってるんじゃないかしら?
928
お気に入りに追加
2,400
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる