上 下
55 / 152
第一章 異世界転移、村ごと!

俺、異世界で幼女と美少年が家族になった~幼女覚醒を添えて

しおりを挟む
 ばあちゃんちに帰ると、慣れてる俺やばあちゃんはピンピンしてたし四歳児のピナレラちゃんも元気いっぱいだったが、――ユキりんが力尽きた。だからカートに乗れって言ったべさ!

 慌てて抱き上げて居間に運んだ。相変わらず軽い。ばあちゃんが小走りに先導してドアや部屋の障子を開けてくれる。

「おにいちゃ、こっち!」

 ピナレラちゃんが座布団をささっと三枚並べてくれたので、そっとユキりんを降ろして寝かせる。この機転の良さ、良い嫁っこになるぞう。
 意識はあるようだが顔が赤い。熱が出ているようだ。

「ユキちゃん。この子、足の怪我からバイキンが入ったのかもしんねえ」
「うわ、こりゃひどい」

 そうだ、ユキりんは発見したとき裸足だったんだ。温泉に入った後は男爵の屋敷の外履きを借りて、ここに来るまでもそれを履かせてたんだが。
 ……ユキりんの足の裏は半ばずる剥けて、傷口に土や砂が入り込んでしまっている。そっか、温泉で洗っただけじゃ取れなかったか。
 美少年の白い肌にドキドキして、しっかり全身をくまなく洗い残しチェックしなかった俺はほんと馬鹿野郎だ。すまぬユキりん。これより以後は君の頼れる良いお兄ちゃんとなろう、ピナレラちゃんの笑顔に誓う!

 ようやく俺の緩んで腑抜けた頭はシャキッと元通りになった。吹っ飛んだ元カノの顔や声は思い出せないままだったがまあいい。

「ばあちゃん、たらいに水と布巾くれ。あと毛抜き出してけろ」
「んだ、わがった」

 まだ昼間でよかった。嵐の前に閉めていた雨戸を開いて庭へのガラス戸も開けて、そーっとユキりんを座布団ごと縁側に引っ張り、足裏に太陽の光が当たるようにした。
 明るい陽の光で足の裏の皮膚の下に入り込んだ汚れを取るのだ。

「おにいちゃ。あたちもやる」
「大丈夫か?」
「おくしゅりぬる!」
「よし」

 ユキりんの足裏はなかなかグロかったが、四歳児ピナレラちゃんは意外にも平気だった。……愛か。愛の力なのか(ギリィっと俺は羨ましさに唇を噛み締めた)。いやこんな自然のある田舎暮らしだから怪我に慣れてるんだろう。
 使命感たっぷりのキリッと引き締まった顔で、ばあちゃんから受け取った新しい濡れ布巾でユキりんの足の爪の間を細かく拭っている。

 さて俺は毛抜きを片手に、皮膚の間に入り込んでしまってる土や砂を地道に取り除いていく。
 先が鋭く尖ってるタイプの毛抜きで良かった。ピンセット代わりにして皮を少しずつ剥いて、あるいは切りながら。……これユキりん意識なくて良かったな、めちゃくちゃ痛そう。失神した今も小さく呻いてるからよほどだ。

 たっぷり一時間かけて処置も終わる頃、ユキりんが意識を取り戻した。

「なに? い、痛い……っ」
「待て動くな! 消毒して包帯巻くまで動くな!」

 このまま畳の上を歩かれたらまた傷口が広がっちまう。つい怒鳴ってしまったが許してほしい。

「おにいちゃ。だんしゃくさまからこれ」
「これって……」
「どいなかむらの、とくしゃん。ちゅうちゅうポーションなのだ!」

 中級が〝ちゅうちゅう〟になってるピナレラちゃんに俺は悶えた。
 得意げに胸を張るピナレラちゃん。やはりぽんぽんのお腹のほうが前にぽよんと突き出ている。はあああ、めんこいなやあ。
 次からはスマホでピナレラちゃんを撮影しようそうしよう。

「これはどうやって使うんだい?」
「まじゅは、きじゅぐちにぬりぬり」
「ふむ」

 うつ伏せになって痛みにふるふるしてるユキりんの片足を取って、改めて足裏を見る。
 一度その足を下ろして縁側の床に戻し、そこにピナレラちゃんが小瓶からポーションを数滴垂らした。
 ユキりんが悲鳴をあげた。そりゃ染みるだろ。

「ぬりぬり。ぬりぬりなの」

 ちゃんとたらいの水で一度両手を洗ってから、ピナレラちゃんは傷だらけのユキりんの足裏にポーションを手のひらで伸ばし、塗り込めていった。

「う、うう……っ」

 やはり痛いのだろう。ユキりんが呻いているが、幼女に文句は言えまい。座布団に顔を埋めて耐えている。
 だが、あるときを境にユキりんの荒い呼吸が穏やかになった。

「ぬりぬりおわったら、のみましゅ。ユキリーンちゃ。のむ」
「ほい、ストロー」

 ばあちゃんナイス。箱買いした栄養ドリンクで余らせがちな針みたいに細いストローを、ポーションの小瓶に突っ込んでうつ伏せのままのユキりんに吸わせた。チューチューと。

「……ぷはっ、治った……もう痛くない!」
「治った、じゃない! なんで男爵の屋敷で言わなかった、あんな足のまま歩いてたら悪化するのはわかりきってただろうが!」
「だ、だって……」

 ちゃんと釘を刺しておこうと厳し目な声を出した俺に、ユキりんのアメジストのお目々はあっという間に潤んだ。

「なんでって。い、言えるわけない、あんな不審者みたいに発見されて、奴隷商から逃げ出してきたなんて厄介者なのに。お風呂も入れてもらって食事まで食べさせてもらったのに。わがままなんて、言えなかった……!」

 そこでもう緊張の糸が切れてしまったんだろう。わんわん泣き出した美少年に俺は慌てて、ばあちゃんはびっくり顔。

 ピナレラちゃんはといえばユキりんの前に仁王立ちして、すごくしかめた顔になっていた。

「ユキリーンちゃ! いたいいたいのだまってりゅほうがみんなちんぱいするでちょ!」
「ごめ、ごめんなさいい……」

 幼女っょぃ。ユキりんはピナレラちゃんの剣幕にたじたじだ。

「もう! ユキリーンちゃがあたちをちゅまにしゅるのはじゅうねんはやいね!」

 うん……十年でも早いよね。いま四歳で十年後はまだ十四歳だべ。

「ちかたないから、あたちがユキリーンちゃのおねえちゃになりましゅ!」
「えっ」
「そうだな……一番上のお兄ちゃんが俺、二番目のお姉ちゃんはピナレラちゃん。末っ子はユキりん、君だー!」
「……僕、何に巻き込まれてるんだろう……?」

 決まってる、ピナレラちゃんの『お姉ちゃん覚醒』にだ。
 末っ子弟認定されたユキりんは呆然としていたが、ばあちゃんは一連の流れが面白かったようでクスクス笑っていた。
 ピナレラちゃんは自分より大きな〝弟〟ができてご満悦。何も問題はない。



 というわけで。

「今日からピナレラちゃんはピナレラ・ラーク・御米田。ユキりんはユキリーン・御米田。あれ、おうちの名前は?」
「………………」

 ユキりんはだんまりだ。そんなに言いたくない理由でもあるんだろうか。
 ちなみにラークはピナレラちゃんの亡くなった両親のおうちの名前である。この国は平民でも家名があるそうなので。

 ――かくして、俺とばあちゃんには異世界幼女と異世界美少年の家族ができたのである。


しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...