上 下
54 / 152
第一章 異世界転移、村ごと!

俺、美少年「も」引き取る

しおりを挟む
 行き倒れ美少年ユキリーン君は、逃げてきた奴隷商のことは詳しく話してくれたが、自分のことを聞かれると途端に黙り込んでしまった。

 顔の良い子は得だっぺ。だんまり決め込んでも急かされず、俺も皆も心配げに見守った。
 だけんど、素性も知れず、このまま本人が話さないのも問題じゃなか?

 隠していることに本人も罪悪感を持っているようなので、少なくとも悪い子ではなさそうだった。

「うーん。……ま、いいか! ユキリーン君、君の保護とこの村への滞在を認める。年はいくつ?」
「……十四歳です」
「未成年なら滞在中の保護者がいるね。世話役は……」

 ここにピナレラちゃんがいたら元気よく「あいっ」とお手々を挙げただろう。あいにく、きな臭い話になりそうだったので、屋敷の別の場所でお手伝いに行ってもらっている。

「ユウキ君、クウさん。この子も一緒にお願いしてもいいかな?」

 言われると思ったよ! 男爵の屋敷に置いてもどうせ周りは知らない人だらけだ。それならピナレラちゃんもいる御米田家で預かったほうがいい。

「「もちろんだべ」」

 てなわけで、ユキりんも暫定的に御米田さんちの子になったわけだ。



「そういえば、男爵は俺たちも普通に受け入れてくれましたけど……こんなに信用してくれちゃって大丈夫なんですか?」

 このときの俺は、まだ俺たち日本のもなか村の秘密を知らなかったので、こんなにすんなり男爵が俺たちを信じくれたことが不思議だった。

「ああ、それ? 私は人物鑑定持ちだからね。ランクは低いけど、その人が犯罪者かどうかチェックできるから問題ないと判断したんだよ」
「鑑定ー!?」

 あっ。そうだ、俺も夢の中の王様から貰ってたわ鑑定スキル初級!
 話し合いも一度切り上げて、俺はばあちゃんの家に戻る前に男爵から鑑定を含むスキル大全を借りることにした。

 それから俺たちは昼食も男爵の屋敷で世話になり、新たに増えた家族一名と一緒に御米田家へ帰ったのだった。



 またアルミ製のカートを押して、帰り道はばあちゃんもピナレラちゃんも歩いてのんびり行くことにした。
 まだ消耗してるユキりんを乗せようとしたが断固として断られた。むう、やはり十四歳は難しいお年頃だ。

 途中、村役場に寄って、ユキりんに施設の説明と、俺たちが村ごと異世界転移したことも話しておいた。

「異世界からの転生や転移は、知識として知っていました。学校で習うんです」
「へえ、やっぱりこの世界の基礎知識なんだな」

 なるほど、見た目の良さはともかく、この子は話し方もしっかりしてて、ちゃんとした教養もあるように見える。
 元々着ていた服もズタボロだったが、元はかなり仕立ての良い服だった。出自は多分、国内貴族だろうとこっそり男爵が教えてくれた。俺もそう思う。
 だが、ならなんで自分の素性を隠すのか。そこは時間をかけて聞き出していくしかないな……

「おにいちゃ。あいしゅ、たべりゅ?」
「そうだな、一箱ぐらいなら」
「こら、二人とも! お昼さ食べたばかりでしょ、またにしなさい!」
「「はあい」」

 村役場を見てアイスの美味しさを思い出したピナレラちゃんと俺は、ばあちゃんに怒られてショボンだ。
 仕方ない、今日はもうユキりんを早く連れ帰って休ませてあげよう。

 それに村役場の冷凍ショーケースの中にはまだまだたくさんの冷菓が残っているのだ。楽しみにしててけろ。
 

しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

処理中です...