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第一章 異世界転移、村ごと!
俺、スマホ使えた!?
しおりを挟むその後、コンロの火も出してみてプロパンガスも問題なく使えることを確認して。
クーラーボックスに入るだけ食材を詰め込んで、防災用の非常持ち出し袋も持った。
持ち出し袋にはこれまた太陽光パネル付きの携帯充電器も入っている。LEDの懐中電灯も手回し充電できるタイプなので必要なはずだ。
それで今日はもう男爵の屋敷に戻ろうとしたところで。
台所から出ると廊下を挟んだ向こう側が居間になる。ゴールデンウィークのとき皆が歓迎会を開いてくれた場所でもある。
縁側に近い部屋の角にラック付きのテレビ台、上には親父の当時の勤め先での永年勤続記念で貰ってそのままばあちゃんにプレゼントした50型の液晶テレビ。
「ピナレラちゃん、ちょっと待ってくれる?」
「うん、いいよ!」
元気なお返事にキャラメル色の髪を撫で撫でしながら、俺たちは居間に入った。
座卓の上にあったリモコンの電源スイッチを押す。どうせザーとスノーノイズが流れるんだろうなと期待などはしなかったが……
『今日はお子さまのおやつに人気のホットドッグを、かんたんにウインナーとホットケーキミックスを使って作りたいと思います』
「!?」
画面から流れてきたのは、料理番組だった。アイドルをゲストにして一緒に作るタイプの。
「ほわあ……ひとがえのなかでうごいてるー!」
ピナレラちゃんの異世界人お約束発言を聞きながら、俺はテレビの前で愕然とした。
「嘘だろ……電波繋がってるのか……」
ハッと気づいて、俺は着ていたジャケットの胸ポケットに入れていたスマホを取り出した。
まだ異世界転生して一日ちょっと。毎朝バッテリー残量を100%にしてから出勤してるし村役場でも充電してたからまだ50%以上残っていたはずだ。
ちゃんとスイッチも入る。よかった、異次元を通ってくる途中でガジェットが壊れる系のハードな異世界転移じゃなかったみたいで!
「で、電波……入ってやがる……!」
俺のスマホの通信状態を示すステータスアイコンは画面の左上にまとまっている。
5Gの表示の隣にある四本の縦線は……通信事業者のネットワークに繋がっていることと、電波の受信感度を示すアイコンだ。
「まさか……まさか……!?」
震える指先をブラウザアイコンに伸ばす。タップ。立ち上がるまでの数秒感がこんなに長く感じられたことはない。
そして最初に表示されたのは検索のシンプルなページだ。
ばく、ばく、ばく、と鼓動の音が耳元でうるさい。
そのままニュースサイトに飛んだ。ふつうに表示された。トップニュースは大物芸能人の訃報のようだ。
「ね、ネットが繋がってる……」
だがこの異世界でどこの通信会社と繋がってるんだ?
慌ててモバイル設定を確認すると、一回線だけ接続されている。だが通信会社あるいはサービス名は文字化けして読めなかった……
「も、もしやネットスーパーが使える系の異世界転移だったり!?」
いつも使ってるネットショップのアプリを開いて適当にビール缶をワンケース、カートに入れる。俺は国産ビール派。
そのまま登録してあったクレジットカードで決済できるはずだ。
「あれ。ここ、住所……に、入力不可かああああ!」
そう、〝あ〟行で始まるアケロニア王国なんて日本のネットショップには入力できなかったわけで。
無理やりカタカナやひらがなで書いてもダメだった。郵便番号もないからな……
「俺も……おれもネットスーパー使える系の転移が良かったあああ……」
思わず畳の上にがっくり膝をついて項垂れた。
ぽん、と俺の肩にピナレラちゃんの小さな手が置かれる。
「おにいちゃ。かえろ」
「そうだね……帰ろうか」
男爵さんちに。お土産持って。
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